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第三章:辺境の村々 中編

リバーサイド村を出て、次の村へ向かう途中。

街道で、俺たちは意外な人物と出会った。

「あれ...楽間?」

「山田...?」

そこにいたのは、クラスメイトの山田だった。

職業は「騎士」。立派な鎧を身につけ、剣を腰に下げている。

「お前、こんなところで何してんだ?」

山田は、驚いた顔をしていた。

「それは...こっちのセリフです。山田こそ」

「俺は、訓練の一環で、辺境の巡回に来たんだ」

山田は、俺の後ろにいるエリシアに気づいた。

「あれ...その人、もしかして第三王女様?」

「はい」

エリシアが、前に出た。

「エリシアです」

「マジか...」

山田は、さらに驚いた。

「お前ら、一緒に旅してんのか?」

「まあ...そんな感じです」

俺は、曖昧に答えた。

「辺境の村を、助けて回ってるんです」

「辺境の村を...」

山田は、少し考え込んだ。

「そういえば、噂で聞いたぞ。辺境で、謎の冒険者が魔物退治してるって」

「それ、俺たちかもしれません」

「マジかよ...」

山田は、感心したように俺を見た。

「お前、すっかり強くなったんだな」

「まあ...少しずつですけど」

「城では、お前『役立たず』って言われてたのに」

その言葉に、少しだけ胸が痛んだ。

でも、山田に悪気はない。

「今は...なんとか戦えるようになりました」

「すげえよ。俺、お前のこと応援してるから」

山田は、俺の肩を叩いた。

「城に戻ったら、みんなに言っとくわ。『楽間、頑張ってるぞ』って」

「...ありがとう」

「じゃあな。俺、巡回続けなきゃ」

山田は、手を振って去っていった。


「...いい人ですね」

エリシアが、言った。

「ああ。山田は、昔からああいう奴です」

「でも...城に戻ったら、私たちのこと、みんなに知られちゃいますね」

「...そうですね」

それは、少し気になった。

俺たちは、城を黙って出てきた。

国王は、今頃心配しているかもしれない。

「大丈夫ですよ」

エリシアは、にっこりと笑った。

「父上なら、分かってくれるはずです」

「そう...ですかね」

「はい。それに...」

エリシアは、空を見上げた。

「今の私たちは、城にいた時より、ずっと充実してます」

「...そうですね」

俺も、同じことを思っていた。

城では、何もできなかった。

でも、今は——

戦える。人を助けられる。

それが、嬉しかった。

「さあ、次の村に行きましょう」

エリシアが、地図を広げた。

「この先に、山沿いの村が...」

俺たちの旅は、まだまだ続く。


次の村——マウンテンビュー村は、山の麓にある小さな村だった。

到着すると、村人たちが慌ただしく動いていた。

「すみません、何かあったんですか?」

エリシアが、村人に声をかけた。

「あんたたち...旅の人か」

老婆が、疲れた顔で答えた。

「山から、魔物が降りてくるんだよ。大きな熊みたいな...」

「熊...」

「ああ。もう、村人じゃ太刀打ちできない」

老婆は、悲しそうに言った。

「昨日も、若い者が一人、怪我をして...」

「...」

エリシアは、俺を見た。

俺は、頷いた。


「俺たちが、助けます」

「え...?」

「魔物退治なら、任せてください」

老婆は、驚いた顔をした。

「本当かい?でも、あんたたち...」

「大丈夫です。今まで、いくつもの村で魔物を倒してきました」

老婆は、俺たちをじっと見た。

それから、深々と頭を下げた。

「ありがとう...神様が、遣わしてくれたんだね」


村長の家で、詳しい話を聞いた。

魔物の名前は「ベアロード」——巨大な熊のような魔物だという。

一匹だが、その大きさと力は凄まじいらしい。

「昨日、村の若者三人がかりで戦ったが...全員、吹き飛ばされた」

村長は、申し訳なさそうに言った。

「一人は、腕を折った。もう、戦える者はいない」

「分かりました」

俺は、頷いた。

「俺たちが、倒します」

「...すまない」

村長は、深く頭を下げた。

部屋を出ると、エリシアが心配そうな顔をした。

「楽間さん...大丈夫ですか?」

「...正直、不安です」

今まで戦ってきた魔物は、基本的に複数の小型か中型だった。

でも、今回は——

巨大な、一匹。

「でも、やるしかないですよね」

エリシアが、言った。

「この村を、見捨てられません」

「...そうですね」

俺は、ラケットを握った。

「やりましょう」


夕方、俺たちは村の外れ——山への道に立った。

村人たちに聞いたところ、ベアロードは夕暮れ時に現れるという。

「...来ますね」

エリシアが、小さく呟いた。

山の方から、地響きがする。

ドスン、ドスン、という重い足音。

「ああ」

俺は、ラケットを構えた。

木々が揺れ、そして——

「グオオオオオ...」

ベアロードが、姿を現した。

巨大だった。

普通の熊の、三倍はある。

筋肉の塊のような体。鋭い爪と牙。

「...でかい」

思わず、呟いた。

ベアロードは、俺たちを見つけると、雄叫びを上げた。

「グオオオオオ!」

その咆哮だけで、空気が震えた。

「来ます!」

ベアロードが、突進してきた。

「カット!」

咄嗟に構える。

ベアロードの前足が、ラケットに当たった。

「うっ...!」

衝撃が、腕を貫く。

今までとは、比べ物にならない力だ。

「ぐっ...!」

なんとか受け流したが、体が吹き飛ばされた。

「楽間さん!」

エリシアが、すぐに駆け寄ってくる。

「大丈夫ですか!?」

「ああ...なんとか」

腕が、痺れている。

ベアロードは、再び襲ってきた。

「サーブ!」

反撃に出る。

光の球が、ベアロードに直撃する。

でも——

「グオオ!」

ベアロードは、怯みもしなかった。

ダメージが、ほとんど入っていない。

「回転サーブ!」

回転をかけた光の球を放つ。

ベアロードの側面に命中する。

でも、やはり効果は薄い。

「このままじゃ...」

ベアロードの突進を、「カット」で受け流し続ける。

一回、二回、三回——

「ラリー」で力を蓄える。

でも、ベアロードの攻撃は重い。

腕が、限界に近づいている。

「スマッシュ!」

溜めた力を、解放する。

巨大な光の球が、ベアロードに直撃した。

「グオオオ!」

ベアロードが、初めて怯んだ。

ダメージは入った。

でも——

「グオオオオオ!」

ベアロードは、さらに激昂した。

今度は、両手を振りかざして襲ってきた。

「っ!」

避けきれない。

「カット!」

必死に受け流すが、衝撃で膝をついた。

「楽間さん!」

エリシアの声が、遠くに聞こえる。

「ヒール!」

回復魔法が、体を包む。

でも、ベアロードの攻撃は止まらない。

このままじゃ——


「...待てよ」

ふと、思い出した。

卓球には、もう一つ重要な技術がある。

「ロブ」——高く打ち上げて、時間を稼ぐ技術。

それを、応用できないか。

ベアロードの攻撃を、「カット」で受け流す。

そして——

「ロブ!」

ラケットを、下から上に振り上げる。

光の球が、高く打ち上げられた。

真上に、高く。

ベアロードが、その光の球を見上げる。

今だ!

「回転サーブ!連射!」

ベアロードが上を向いている隙に、連続で回転サーブを放つ。

一発、二発、三発——

全て、ベアロードの体に命中する。

「グオオ!」

ベアロードが、怯む。

「今だ!スマッシュ!」

溜めた力を、全て解放する。

最大の「スマッシュ」。

巨大な光の球が、ベアロードに直撃した。

「グオオオオオ...」

ベアロードが、倒れた。

動かない。

「...勝った」

俺は、その場に倒れ込んだ。


「楽間さん!」

エリシアが、駆け寄ってくる。

「大丈夫ですか!?」

「ああ...疲れたけど、大丈夫」

「すごかったです!あの技、何ですか!?」

「ロブ...高く打ち上げて、時間を稼ぐ技術です」

「ロブ...それで隙を作ったんですね」

「はい。大きな敵には、正面から戦うだけじゃダメだって気づいて」

エリシアは、嬉しそうに笑った。

「楽間さん、どんどん強くなってますね」

「...エリシアのおかげです」

「いえ...私は、回復してるだけで」

「それが、すごく助かってるんです」

俺は、正直に言った。

「エリシアがいなかったら、とっくに負けてました」

エリシアは、顔を赤らめた。

「...ありがとうございます」


村人たちが、駆けつけてきた。

「やった!ベアロードを倒した!」

「ありがとう!本当にありがとう!」

村長が、俺たちの手を握った。

「あんたたちは、この村の英雄だ」

英雄。

また、その言葉を聞いた。

城では、誰も俺をそう呼ばなかった。

でも、ここでは——

「俺たちは、英雄なんかじゃないです」

俺は、首を振った。

「ただ...困っている人を、助けたいだけです」

村長は、目を細めた。

「...そうか。それが、一番の英雄だな」


その夜、村人たちは盛大な宴を開いてくれた。

山の幸が、テーブルに並ぶ。

「これ、美味しいですね」

エリシアが、嬉しそうに言った。

「山菜と、きのこの料理です」

老婆が、笑顔で答えた。

「ベアロードのせいで、山に入れなかったんだけど...これからは、また採れるよ」

「よかったですね」

エリシアは、心から嬉しそうだった。


宴の後、俺たちは村長の家で休ませてもらった。

「楽間さん」

寝る前、エリシアが言った。

「私たち、もう四つの村を助けましたね」

「...そうですね」

「みんな、本当に喜んでくれました」

エリシアは、窓の外を見た。

「こういう村が、まだたくさんあるんですよね」

「...ええ」

「全部、助けられたらいいのに」

その言葉に、俺は少し考え込んだ。

「...無理かもしれません」

「え?」

「だって、辺境の村は、数え切れないほどある。俺たち二人で、全部助けるなんて...」

「...そうですね」

エリシアは、少し寂しそうに笑った。

「でも」

俺は、続けた。

「一つでも多く、助けたいです」

「...はい」

エリシアは、にっこりと笑った。

「私も、そう思います」


翌朝、俺たちは村を出た。

村人たちが、見送ってくれた。

「気をつけて」

「また来てね」

「あんたたちのこと、忘れないよ」

俺たちは、手を振って答えた。

次の目的地へ、歩き出す。


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