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第二章:二人の逃避行 前編

翌日の夜。

俺は、部屋で荷物をまとめていた。

といっても、持っていくものは少ない。着替えが数枚、水筒、そしてラケット。

「これで...いいか」

小さな背嚢に荷物を詰め込む。

本当に、これでいいのか。

城を出て、どこに行くのか。何をするのか。

何も決まっていない。

でも——

エリシアの言葉が、頭に残っていた。

「私たちにしかできないことがある」

それを信じてみたかった。


コンコン、とドアがノックされた。

「楽間さん、準備できましたか?」

エリシアの声だ。

ドアを開けると、エリシアが旅支度をして立っていた。

フードつきのマントを羽織り、小さな鞄を持っている。

「はい。準備できました」

「じゃあ、行きましょう」

エリシアは、にっこりと笑った。

不安はなさそうだった。いや、もしかしたら隠しているだけかもしれない。

「本当に...いいんですか?」

思わず、聞いてしまった。

「エリシアは王女様なのに。城を出たら...」

「大丈夫です」

エリシアは、首を振った。

「どうせ、城にいても居場所なんてありませんから」

その言葉には、寂しさと、でも同時に決意が込められていた。

「それに」

エリシアは、俺を見た。

「楽間さんと一緒なら、怖くありません」

その言葉に、俺は何も言えなくなった。

「...分かりました。じゃあ、行きましょう」


二人で、静かに廊下を歩いた。

深夜の城は、静まり返っている。

警備の騎士たちも、決まったルートを巡回しているだけ。エリシアは、その隙を狙って進んでいく。

「エリシア、詳しいんですね」

「子供の頃、よく城を抜け出してましたから」

エリシアは、少しいたずらっぽく笑った。

「一人で、外の世界を見るのが好きだったんです」

裏門にたどり着いた。

ここには、一人だけ警備の騎士が立っている。

「どうします?」

「任せてください」

エリシアは、騎士に近づいた。

「あの、すみません」

「王女様!?こんな時間に、どうされました?」

「ちょっと...忘れ物を取りに」

「しかし...」

「すぐ戻りますから」

エリシアは、にっこりと笑った。

騎士は困惑した顔をしたが、結局扉を開けてくれた。

「お気をつけて」

「ありがとうございます」


二人で、門を抜けた。

振り返ると、城が月明かりに照らされていた。

「...行きましょう」

エリシアの声に、俺は頷いた。

こうして、俺たちの旅が始まった。


城下町を抜け、街道を歩く。

夜道は暗いが、二つの月が明るく照らしてくれていた。

「どこに向かいます?」

俺が聞くと、エリシアは地図を取り出した。

「この辺り...北の辺境に、小さな村があるんです」

地図の端を指さす。

「最近、魔物の被害が出てるって聞きました。でも、国は魔王討伐が優先だからって、救援を出してないんです」

「...そういう場所、たくさんあるんですか?」

「はい。辺境の村や町は、いつも後回しです」

エリシアは、悲しそうに言った。

「だから...私たちが行きましょう」

「分かりました」


北へ。

二人で歩き続けた。

夜が明けると、街道沿いの森に入って休憩した。

「少し眠りましょう。疲れたでしょう?」

「エリシアこそ」

「私は大丈夫です。見張りしてますから」

「いや、俺が...」

「じゃあ、交代で」

結局、エリシアが先に見張りをすることになった。

俺は、木の根元に背中を預けて目を閉じた。

本当に、これでよかったのか。

でも、今はもう引き返せない。

前に進むしかない。

そう思いながら、俺は眠りについた。

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