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第一章:置いていかれる日々 後編

エリシアとの特訓から三日が経った。

その間、俺は毎日、訓練場の端でスキルの練習を続けていた。

「カット」で魔法を受け流す。「サーブ」で魔力弾を撃ち出す。

少しずつだが、感覚がつかめてきた。

ただ——

「おい、楽間」

訓練の合間、山田が声をかけてきた。

「お前、最近何やってんの?」

「え?」

「いや、なんか...ラケット振ってる時、光ってるように見えたんだけど」

「あ...」

バレていたか。

「それ、もしかして魔法?」

「まあ...そんな感じです」

「マジか!」

山田は、驚いた顔をした。

「お前、魔法使えるようになったのか?」

「魔法というか...スキル、ですかね」

「すげえじゃん!」

山田は、素直に喜んでくれた。

「騎士団長に見せてみたら?もしかしたら、訓練に参加できるようになるかも」

「...そうですね」

でも、正直なところ、まだ自信がなかった。

確かに、エリシアの弱い魔法は受け流せる。サーブも、一応飛ばせる。

でも、それが実戦で通用するのか。

「楽間、どうした?」

山田が、不思議そうに俺を見た。

「いや...まだ、ちゃんと使いこなせてないというか」

「そっか」

山田は、俺の肩を叩いた。

「でも、進歩してるってことだろ?それって、すごいことだぜ」

「...ありがとう」

山田は、訓練場に戻っていった。

俺は、ラケットを見つめた。

進歩、か。

確かに、三日前よりはマシになった。

でも、まだまだだ。

クラスメイトたちは、もっと強くなっている。

俺は、まだスタートラインにも立っていない。

「楽間さん」

声がして、振り返ると、エリシアが立っていた。

「エリシア」

「今日も、特訓しましょう」

「はい」

俺たちは、訓練場の端に移動した。

もう、これが日課になっていた。

エリシアが魔法を撃ち、俺がそれを受け流す。

そして、俺が「サーブ」で反撃する。

「楽間さん、上手くなりましたね」

エリシアは、嬉しそうに言った。

「三日前より、ずっと速くて正確です」

「でも、まだまだです」

「そんなことないですよ」

エリシアは、首を振った。

「私の魔法、最初は全然受け流せなかったじゃないですか。今は、ほぼ完璧に防いでる」

「エリシアの魔法が弱いからです」

「そんなこと...」

エリシアは、少し悲しそうな顔をした。

「...ごめんなさい。そういう意味じゃなくて」

俺は、慌てて言い直した。

「えっと...エリシアの魔法は、コントロールが正確だから練習しやすい、って意味で」

「...本当ですか?」

「本当です」

エリシアは、少し考えてから、微笑んだ。

「じゃあ、もっと強い魔法も試してみましょうか」

「強い魔法?」

「はい。私、魔力は弱いけど...頑張れば、もう少し強い魔法も撃てるんです」

エリシアは、両手を前に突き出した。

魔力が、さっきより多く集まっていく。

「...いきます!」

光弾が、さっきより速く、大きく飛んできた。

「っ!」

咄嗟に「カット」の構えを取る。

光弾が、ラケットに当たった。

「ぐっ...!」

さっきまでとは、明らかに違う衝撃。

でも——受け流せた。

光弾は、角度を変えて地面に落ちた。

「...やった」

「すごい!」

エリシアが、駆け寄ってきた。

「楽間さん、あれ私の全力なんですよ!それを防いだ!」

「全力...だったんですか」

「はい!」

エリシアは、目を輝かせていた。

「これなら、もっと強い敵の攻撃も防げるかもしれません!」

「...そうだと、いいんですけど」

俺は、ラケットを見つめた。

確かに、少しずつ成長している。

でも、これで本当に戦えるのか。

その不安は、まだ消えなかった。


その夜、俺は再び中庭にいた。

最近、眠れない夜が多い。

召喚されてから、もう三週間が経つ。

クラスメイトたちは、順調に成長している。

そして、俺も——少しだけ、前に進んでいる。

でも、それで十分なのか。

「また、ここにいたんですね」

エリシアの声がした。

振り返ると、彼女が微笑んでいた。

「エリシア...眠れないんですか?」

「楽間さんこそ」

エリシアは、俺の隣に座った。

「考え事ですか?」

「...まあ」

正直に答えた。

「俺、本当に戦えるようになるのかなって」

「戦えますよ」

エリシアは、即答した。

「だって、私の魔法を全部防いだじゃないですか」

「でも、エリシアは魔力が弱いって...」

「それでも、魔法は魔法です」

エリシアは、真剣な目で言った。

「楽間さんは、魔法を防げる。それって、本当にすごいことなんですよ」

「...そうなんですか?」

「はい。普通の戦士は、魔法を防ぐのに盾や鎧が必要です。でも、楽間さんはラケット一つで防げる」

エリシアは、夜空を見上げた。

「それに...楽間さんの『サーブ』、どんどん威力が上がってますよね」

「まあ...少しずつですけど」

「きっと、もっと強くなれます」

エリシアは、俺の方を向いた。

「私、信じてます」

その言葉が、胸に響いた。

「...ありがとうございます」

「それに」

エリシアは、少し寂しそうに笑った。

「私も、楽間さんと一緒に練習してて...初めて、自分が役に立ててるって思えたんです」

「え?」

「私、ずっと言われてたんです。『魔力が弱い』『役立たず』って」

エリシアは、膝を抱えた。

「姉様たちは優秀で、みんなから尊敬されてる。兄様たちも立派で、国を支えてる」

「...エリシアは」

「私は、何もできない。ただ、城にいるだけ」

その声は、どこか俺と似ていた。

「でも、楽間さんと練習するようになって...少し、変わった気がするんです」

エリシアは、俺を見た。

「私の魔法が、誰かの役に立ってる。楽間さんの成長を、手伝えてる」

「俺の方こそ、エリシアに助けられてます」

「じゃあ、お互い様ですね」

エリシアは、微笑んだ。

しばらく、二人で黙って夜空を眺めていた。

「ねえ、楽間さん」

エリシアが、不意に言った。

「私たち...城の外に出てみませんか?」

「え?」

突然の提案に、驚いた。

「城の外...って」

「はい。この城にいても、私たちは『役立たず』のまま」

エリシアは、真剣な表情で続けた。

「でも、外に出れば...もしかしたら、私たちにしかできないことがあるかもしれない」

「外って...どこに?」

「分かりません」

エリシアは、あっけらかんと言った。

「でも、勇者たちが行かないような場所。誰も助けに行かないような場所」

「...」

「そういう場所でこそ、私たちが必要とされるんじゃないでしょうか」

エリシアの目は、輝いていた。

「楽間さんの力は、まだ発展途上です。でも、きっと実戦で磨かれる」

「実戦...」

「私の魔法も弱いけど、補助や回復なら役に立てます」

エリシアは、立ち上がった。

「二人で...誰も見向きもしない場所を、救いましょう」

その提案は、無謀だった。

まだ訓練も十分じゃない。スキルも使いこなせていない。

でも——

「...いつ、出ますか?」

気づいたら、俺はそう聞いていた。

エリシアは、嬉しそうに笑った。

「明日の夜。準備をしておきます」

「分かりました」

こうして、俺たちの——楽間蓮とエリシアの、本当の旅が始まることになった。

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