第七章:それぞれの正義 後編
一週間後。
魔王討伐の出発日だった。
俺たちは、辺境の小さな村にいた。
ゴブリンを退治し、村人たちに感謝された。
「本当に、ありがとうございます」
村長が、深々と頭を下げた。
「いえ、当然のことをしただけです」
その時——
空が、光った。
「...なんだ?」
村人たちが、空を見上げる。
光の柱が、遠く王都の方角から立ち上っていた。
「あれは...」
エリシアが、呟いた。
「魔王討伐、出発の合図です」
「そうか...」
健太たちが、今、魔王城に向かって出発したんだ。
「楽間さん...」
エリシアが、心配そうに俺を見た。
「大丈夫ですか?」
「...ああ」
俺は、頷いた。
「これでよかったんだ」
でも、心のどこかで——
本当に、これでよかったのか。
そんな疑問が、消えなかった。
それから、一ヶ月が経った。
俺たちは、相変わらず辺境の村々を巡っていた。
魔物を退治し、人々を助ける。
それが、俺たちの日常だった。
ある日、街道で行商人に会った。
「おや、辺境の守護者じゃないですか」
「ああ、どうも」
「聞きましたか?勇者様たちが、魔王城に到着したそうですよ」
「そうなんですか」
「ええ。もうすぐ、魔王との決戦だって」
行商人は、嬉しそうに言った。
「魔王が倒れれば、この世界も平和になりますね」
「...そうですね」
俺は、複雑な気持ちだった。
健太たちは、今、命をかけて戦っている。
俺は、辺境で小さな村を助けている。
どちらが正しいのか——
「楽間さん」
エリシアが、俺の袖を引いた。
「大丈夫ですか?」
「ああ...考え事してた」
「...」
エリシアは、何も言わなかった。
ただ、俺の手を握ってくれた。
そして——
その日の夜。
空が、再び光った。
今度は、さらに強い光。
「あれは...」
村人たちが、空を見上げる。
「魔王討伐...成功したのか?」
誰かが、呟いた。
その予感は、正しかった。
翌日、王都からの使者が来た。
「魔王討伐、成功いたしました!」
使者は、高らかに宣言した。
「勇者・相川健太様が、魔王を討ち取られました!」
村中が、歓声に包まれた。
「やった!」
「魔王が倒れた!」
「これで、平和になる!」
俺も、嬉しかった。
健太たちが、成功した。
世界が、平和になる。
でも——
「楽間さん」
エリシアが、俯いていた。
「どうしたの?」
「...楽間さん、後悔してませんか?」
「え?」
「魔王討伐に、参加しなかったこと」
エリシアは、俺を見た。
「もし参加していたら...楽間さんも、英雄になれたのに」
「...」
俺は、少し考えた。
確かに、もし参加していたら——
魔王を倒す戦いに、加われた。
健太たちと一緒に、英雄になれた。
でも——
「後悔してないよ」
「...本当ですか?」
「本当」
俺は、エリシアの手を握った。
「俺は、辺境の村々を助けてきた。それが、俺の選んだ道だから」
「楽間さん...」
「それに」
俺は、村人たちを見た。
みんな、嬉しそうに魔王討伐成功を喜んでいる。
「この村も、俺たちが助けたんだ」
「...はい」
「それで、十分だよ」
エリシアは、涙ぐんでいた。
「...ありがとうございます」
「え?」
「私、楽間さんと旅ができて...本当によかった」
エリシアは、微笑んだ。
「楽間さんは、優しいです」
その言葉が、嬉しかった。
魔王討伐から、一週間後。
俺たちは、王都に向かっていた。
「本当に、行くんですか?」
エリシアが、不安そうに聞いた。
「ああ。健太たちに、おめでとうって言いたいから」
「...そうですか」
王都は、祝賀ムード一色だった。
街中が飾り付けられ、人々が歓声を上げている。
「勇者万歳!」
「魔王を倒した!」
城の前には、大勢の人々が集まっていた。
そして——
バルコニーに、健太たちが現れた。
勇者パーティ。
健太、美咲、そして他のクラスメイトたち。
「ありがとう、みんな!」
健太が、手を振る。
民衆が、歓声を上げた。
「勇者様!」
「ありがとうございます!」
俺は、その光景を遠くから見ていた。
「...すごいですね」
エリシアが、呟いた。
「あれが、英雄...」
「ああ」
健太たちは、世界を救った。
魔王を倒し、平和をもたらした。
それは、間違いなく偉大な功績だ。
「楽間さんも、あそこにいられたんですよね」
「...まあ、そうかもね」
でも、俺はここにいる。
辺境で、小さな村を助けてきた。
それが、俺の選んだ道だ。
「楽間!」
突然、声がした。
振り返ると、山田が立っていた。
「山田...」
「お前も、来てたのか」
「ああ。健太たちに、おめでとうって言いに」
「そっか...」
山田は、バルコニーを見た。
「すごいよな、健太たち」
「ああ」
「でも」
山田は、俺を見た。
「お前も、すごいぜ」
「え?」
「辺境の村々、お前が助けてきたんだろ?」
山田は、にっと笑った。
「それって、立派なことだよ」
「...ありがとう」
「健太たちは、世界を救った。お前は、辺境を救った」
山田は、俺の肩を叩いた。
「どっちも、英雄だよ」
その言葉が、心に響いた。
「...そうかな」
「そうだよ」
山田は、笑った。
「自信持てよ、楽間」
祝賀会が終わった後、俺たちは城に招待された。
「楽間!」
健太が、駆け寄ってきた。
「来てくれたんだな」
「おめでとう、健太」
「ありがとう」
健太は、嬉しそうに笑った。
「やったよ、魔王を倒した」
「...すごいな」
「お前も、辺境で頑張ってたんだって?」
「まあ...それなりに」
「謙遜するなよ」
健太は、俺の肩を叩いた。
「山田から聞いたぞ。シーサイド港、五百匹の魔物を倒したって」
「...それは、みんなの協力があったから」
「それでも、すごいよ」
健太は、真剣な顔で言った。
「お前は、お前のやり方で戦った」
「...」
「俺は、魔王を倒した。お前は、辺境を守った」
健太は、手を差し出した。
「どっちも、正しかったんだと思う」
その手を、俺は握った。
「...ありがとう、健太」
「こちらこそ」
健太は、にっこりと笑った。
美咲も、近づいてきた。
「蓮...」
「おめでとう、美咲」
「...ありがとう」
美咲は、複雑な顔をしていた。
「蓮、私...」
「うん?」
「私、間違ってたかもしれない」
「え?」
「蓮に、魔王討伐に参加しろって言ったけど...」
美咲は、俯いた。
「蓮は、蓮のやり方でよかったんだと思う」
「美咲...」
「辺境の人たちも、蓮を必要としてた」
美咲は、涙ぐんでいた。
「ごめんね、勝手なこと言って」
「いや、謝らないでよ」
俺は、笑った。
「美咲は、俺のこと心配してくれてたんだろ?」
「...うん」
「ありがとう」
美咲は、少し笑った。
「これから、どうするの?」
「また、辺境に戻るよ」
「...そっか」
美咲は、寂しそうに笑った。
「頑張ってね」
「ああ」
その夜、国王に謁見した。
「楽間殿、エリシア」
国王——アルベルト王が、微笑んだ。
「辺境での活躍、聞いているぞ」
「恐れ入ります」
「いや、感謝している」
国王は、立ち上がった。
「魔王は倒れた。でも、辺境の村々は...我々が見捨てていた」
「...」
「お前たちが、その村々を救ってくれた」
国王は、深々と頭を下げた。
「ありがとう」
「陛下、頭を...」
「いや、礼を言わせてくれ」
国王は、俺たちを見た。
「お前たちは、真の英雄だ」
その言葉に、俺は少し照れくさくなった。
「これからも、辺境を頼む」
「はい」
俺は、頷いた。
「俺たち、続けます」
翌日、俺たちは王都を出た。
また、辺境へ。
「楽間さん」
エリシアが、嬉しそうに言った。
「私たち、認められましたね」
「...そうだね」
「これからも、頑張りましょう」
「ああ」
二人で、歩き出す。
魔王は倒れた。
でも、俺たちの旅は——
これからも、続く。
第七章:それぞれの正義 完---




