第六章:見捨てられた港町 後編
一時間の休憩後、俺たちは旧市街に向かった。
旧市街は、古い住宅が密集している地区だった。
「...いるな」
ここにも、サハギンの気配がする。
「数は...」
エリシアが、集中して感じ取っている。
「百...いえ、百二十くらいです」
「百二十...」
ガレンが、息を呑んだ。
「さっきの二倍じゃないか...」
「大丈夫です」
俺は、ラケットを握り直した。
「やり方は、同じです」
「...分かった」
ガレンは、民兵たちを配置した。
「行くぞ」
火が、旧市街に放たれた。
「ギャアアアア!」
サハギンたちが、一斉に飛び出してきた。
百二十匹——
圧倒的な数だ。
「カット!」
「カット!」
「カット!」
必死に受け流す。
でも、数が多すぎる。
「くっ...!」
一匹の攻撃が、俺の腕をかすめた。
「楽間!」
「大丈夫!」
「ヒール!」
エリシアの魔法が、すぐに傷を癒す。
「カット!」
また、受け流し続ける。
民兵たちも、必死に攻撃している。
矢、槍、剣——
でも、魔物の数が多すぎる。
「このままじゃ...」
ガレンが、焦った声を上げた。
「楽間、無理するな!一旦引け!」
「いえ...」
俺は、歯を食いしばった。
「まだ、戦えます」
「でも...」
「ラリー...」
攻撃を受けるたびに、力が溜まっていく。
一回、二回、三回——
十回、二十回、三十回——
「スマッシュ!」
溜めた力を、一気に解放する。
巨大な光の球が、サハギンたちを薙ぎ払った。
「ギャアアアア!」
二十匹以上のサハギンが、一度に吹き飛ばされた。
「な...なんだ、今のは...」
ガレンが、驚愕の声を上げた。
「すごい...」
民兵たちも、呆然としている。
「今です!攻撃を!」
エリシアの声で、我に返った。
「そ、そうだ!攻撃しろ!」
ガレンが、号令を出す。
残りのサハギンに、民兵たちが攻撃を集中させる。
そして——
「最後だ!」
ガレンが、最後のサハギンを斬った。
静寂。
「...終わった」
俺は、その場に倒れ込んだ。
「楽間!」
「楽間さん!」
ガレンとエリシアが、駆け寄ってくる。
「大丈夫...疲れただけ」
「無理しすぎだ...」
ガレンは、心配そうに俺を見た。
「休め。次は、明日でいい」
「いえ...」
俺は、立ち上がろうとした。
「まだ、東地区が...」
「明日だ」
ガレンは、強い口調で言った。
「お前が倒れたら、終わりだ」
「...分かりました」
俺は、諦めた。
確かに、もう限界だった。
その日は、解放した旧市街の家で休んだ。
「楽間さん、無理しないでください」
エリシアが、心配そうに言った。
「大丈夫...」
「大丈夫じゃないです」
エリシアは、少し怒っているようだった。
「楽間さんが倒れたら...私、どうすればいいんですか」
「...ごめん」
「謝らないでください」
エリシアは、俺の手を握った。
「ただ...無理だけは、しないでください」
「...ああ」
その夜、俺はぐっすり眠った。
エリシアの手の温もりが、心地よかった。
翌朝。
俺は、回復していた。
「よし...行こう」
最後の戦い。
東地区。
ここに、残りの魔物——約三百匹が集まっているはずだ。
「三百か...」
ガレンが、緊張した顔をした。
「ウェストポートと、同じくらいだな」
「ええ」
俺は、頷いた。
「でも、あの時は自警団が五十人いました。今回は...」
「三十人だ」
ガレンは、苦笑した。
「厳しいな」
「...すみません」
「謝るな」
ガレンは、俺の肩を叩いた。
「お前がいなかったら、この町はもう終わってた」
「...」
「さあ、最後だ。やるぞ」
民兵たちも、決意の顔をしていた。
「おう!」
東地区は、かつて繁華街だった場所だ。
大きな建物が、立ち並んでいる。
そして——
「...いる」
建物の中から、無数の気配。
三百匹。
今までで、最大の数だ。
「行くぞ」
ガレンが、火を放った。
「ギャアアアアア!」
サハギンの大群が、飛び出してきた。
波のように、押し寄せてくる。
「来ます!」
俺は、構えた。
「カット!」
「カット!」
「カット!」
ひたすら、受け流す。
でも、数が多すぎる。
攻撃が、途切れない。
「くっ...」
腕が、悲鳴を上げている。
「ヒール!」
エリシアの魔法が、何度も俺を包む。
でも、それでも追いつかない。
「楽間!無理だ!引け!」
ガレンが、叫んだ。
「まだ...」
「カット!」
「カット!」
でも——
俺の動きが、遅くなっている。
限界が、近い。
「このままじゃ...」
その時——
「楽間!」
別の声が聞こえた。
振り返ると——
「山田...!?」
山田が、騎士の鎧を着て立っていた。
そして、その後ろには——
「遅くなってすまない!」
「援軍だ!」
二十人ほどの騎士たちが、現れた。
「山田、どうして...」
「お前の噂、聞いたんだ」
山田は、にっと笑った。
「シーサイド港で、一人で戦ってるって」
「...」
「放っておけるか」
山田は、剣を抜いた。
「俺たちも、手伝うぜ」
「山田...」
「礼はいらねえ。さあ、やるぞ!」
騎士たちが、加わった。
二十人の援軍——
これで、民兵と合わせて五十人。
ウェストポートと、同じ数だ。
「行くぞ!」
山田が、サハギンに斬りかかる。
他の騎士たちも、続く。
「民兵も続け!」
ガレンが、叫んだ。
俺は、また「カット」に専念した。
でも、今度は——仲間がいる。
山田たちが、俺を守ってくれている。
「カット!」
「カット!」
「ラリー」で力を蓄える。
一回、二回、三回——
十回、二十回、三十回——
五十回、百回——
「スマッシュ!」
最大の力を、解放する。
巨大な——いや、もはや巨大すぎる光の球が、サハギンの大群を薙ぎ払った。
「ギャアアアアアア!」
五十匹以上のサハギンが、一度に吹き飛ばされた。
「す、すげえ...」
山田が、呆然と呟いた。
「楽間、お前...化け物か?」
「...まだだ」
俺は、立ち続けた。
「まだ、終わってない」
残りのサハギンに、全員で攻撃を集中させる。
そして——
長い、長い戦いの末——
「最後の一匹だ!」
山田が、最後のサハギンを斬った。
静寂。
「...終わった」
誰かが、呟いた。
「終わったのか...?」
「ああ...」
ガレンが、周囲を見回した。
サハギンの死骸が、そこら中に転がっている。
でも——
「勝った...!」
「勝ったぞ!」
騎士たちと民兵たちが、歓声を上げた。
「やった!」
「町を取り戻したぞ!」
俺は、その場に膝をついた。
もう、立っていられなかった。
「楽間!」
「楽間さん!」
山田とエリシアが、駆け寄ってくる。
「大丈夫か!?」
「ああ...疲れただけ」
なんとか、笑った。
「勝ちましたね」
「ああ...勝った」
山田は、俺の肩を叩いた。
「お前、本当にすげえよ」
「山田こそ...来てくれて、ありがとう」
「当たり前だろ」
山田は、にっと笑った。
「友達だろ、俺たち」
その言葉が、嬉しかった。
「...ああ」
俺は、意識を失った。
三日後。
俺は、目が覚めた。
「...ここは」
「楽間さん!」
エリシアの声。
「よかった...目が覚めて」
「俺...」
「三日、眠ってました」
エリシアは、涙ぐんでいた。
「もう...心配したんですから」
「ごめん...」
窓の外を見ると、町は復興し始めていた。
人々が、戻ってきている。
「町は...」
「取り戻しました」
エリシアは、微笑んだ。
「楽間さんのおかげです」
数日後、俺は回復して動けるようになった。
町は、活気を取り戻していた。
市場も開き、港にも船が戻ってきた。
「楽間殿」
町長が、深々と頭を下げた。
「この町を、救ってくださり...本当にありがとうございました」
「いえ...俺だけじゃなく、みんなのおかげです」
「それでも」
町長は、涙を流していた。
「あなたは、この町の英雄です」
町を出る日。
多くの町民が、見送りに来てくれた。
「ありがとう」
「また来てね」
「あなたたちのこと、絶対に忘れません」
俺たちは、手を振って答えた。
山田も、一緒に来ていた。
「楽間、これからどうすんだ?」
「また、辺境を回ります」
「そっか...」
山田は、少し寂しそうに笑った。
「城に戻らないんだな」
「ああ。俺の居場所は、ここだから」
「...そっか」
山田は、俺の肩を叩いた。
「じゃあ、頑張れよ。また会おう」
「ああ。ありがとう、山田」
山田たち騎士団は、王都に戻っていった。
俺とエリシアは、また街道を歩き出す。
「楽間さん」
エリシアが、地図を広げた。
「次は、どこに行きますか?」
「どこでもいいです」
俺は、笑った。
「困っている人がいるところに」
「...はい」
エリシアは、にっこりと笑った。
二人で、歩き続ける。
シーサイド港の戦いは、終わった。
でも、俺たちの旅は——
まだまだ、続く。
第六章:見捨てられた港町 完




