第六章:見捨てられた港町 中編
「町長」
俺が、言った。
「作戦があります」
「作戦...?」
「町民を、安全な場所に避難させてください。その間に、俺たちが魔物を倒します」
「...君たち、本気か?」
町長は、信じられないという顔をしていた。
「本気です」
「でも、五百匹だぞ」
「一度に戦いません。魔物をおびき出して、少しずつ倒します」
「...」
町長は、少し考え込んだ。
「具体的には、どうするんだ?」
「まず、魔物の巣を特定します」
俺は、地図を見た。
「倉庫街、旧市街、東地区...それぞれに、魔物が集まっているはずです」
「ああ...」
「一つずつ、潰していきます」
「一つずつ...?」
「はい。最初は倉庫街。そこに火を放って、魔物をおびき出す」
俺は、作戦を説明した。
「おびき出された魔物を、俺たちが迎え撃つ。数を絞れば、戦える」
「...なるほど」
町長は、少し考え込んだ。
「でも、それでも数十匹は出てくるぞ」
「民兵の皆さんに、協力してもらえませんか?」
「民兵...」
「俺が魔物の攻撃を受け止めます。その間に、民兵の皆さんが攻撃する」
「...それは」
町長は、有力者たちを見た。
みんな、不安そうな顔をしている。
「本当に、できるのか?」
「やってみます」
俺は、ラケットを握った。
「ウェストポートでは、三百匹の魔物を倒しました」
「...ウェストポート?」
町長は、驚いた顔をした。
「もしかして、君たちが『辺境の守護者』...?」
「そう呼ばれてます」
「...そうか」
町長は、少し希望の光が見えたような顔をした。
「なら...やってみるか」
「本当ですか!?」
エリシアが、嬉しそうに言った。
「ただし」
町長は、真剣な顔で言った。
「町民の避難が最優先だ。魔物を倒すことより、人命が大事だ」
「分かりました」
「明日の朝、避難を開始する。その間に、準備を頼む」
「はい」
こうして、シーサイド港奪還作戦が始まった。
翌朝。
町は、避難の準備で慌ただしかった。
町民たちが、荷物をまとめて集合場所に向かっている。
「楽間さん、本当に大丈夫ですか...?」
民兵のリーダー——ガレンという若い男性が、不安そうに聞いた。
「正直、不安です」
俺は、正直に答えた。
「でも、やるしかないですよね」
「...そうだな」
ガレンは、苦笑した。
「俺たちも、この町を守りたい」
「ありがとうございます」
民兵は三十人。
ウェストポートの時の自警団より少ない。
でも——
「みんな、この町を愛してるんですね」
エリシアが、町民たちを見て言った。
「ええ」
ガレンは、頷いた。
「生まれてから、ずっとこの町で育った。簡単には、捨てられない」
その言葉に、俺は決意を新たにした。
「絶対、取り戻しましょう」
「ああ」
昼過ぎ、町民の避難が完了した。
町には、俺たちと民兵だけが残った。
「じゃあ、始めるぞ」
ガレンが、民兵たちを集めた。
「まずは、倉庫街だ」
倉庫街は、港の近くにあった。
古い木造の倉庫が、立ち並んでいる。
そして——
「...いるな」
倉庫の中から、気配がする。
サハギン——魚人のような魔物。
鱗に覆われた体、鋭い爪と牙。
「数は...」
エリシアが、小さく呟いた。
「五十...いえ、六十くらいいます」
「六十か...」
ガレンが、緊張した顔をした。
「楽間、本当に大丈夫か?」
「やってみます」
俺は、ラケットを構えた。
「ガレン、合図したら火を放ってください」
「分かった」
「エリシア、後方で回復お願いします」
「はい」
深呼吸する。
「...行くぞ」
ガレンが、松明を倉庫に投げ込んだ。
火が、燃え広がる。
「ギャアアア!」
倉庫から、サハギンたちが飛び出してきた。
六十匹——一度に。
「来ます!」
俺は、迎え撃つ構えをとった。
サハギンの先頭が、爪を振りかざして襲ってきた。
「カット!」
ラケットで受け流す。
「カット!」
「カット!」
次々と襲ってくる攻撃を、全て受け流す。
「弓、放て!」
ガレンの号令。
矢が、サハギンたちに降り注ぐ。
「ギャア!」
数匹のサハギンが、倒れた。
「いいぞ!続けろ!」
俺は、ひたすら「カット」を続けた。
ウェストポートの時と、同じだ。
俺が防御に専念し、仲間が攻撃する。
「カット!」
「カット!」
腕が、痺れてくる。
でも——
「ヒール!」
エリシアの回復魔法が、体を包む。
「ありがとう!」
また、「カット」を続ける。
時間が、経った。
どれくらいだろう。
十分?三十分?
「最後の一匹だ!」
ガレンの声で、我に返った。
最後のサハギンが、倒れた。
「...やった」
俺は、その場に膝をついた。
「楽間!大丈夫か!?」
ガレンが、駆け寄ってくる。
「ああ...疲れたけど、大丈夫」
「すごいぞ!六十匹を、本当に倒した!」
民兵たちが、歓声を上げた。
「やったぞ!」
「倉庫街、奪還だ!」
でも——
「まだ、終わってません」
エリシアが、冷静に言った。
「旧市街と東地区、まだ魔物がいます」
「...そうだな」
ガレンは、頷いた。
「休憩したら、次だ」
俺は、立ち上がった。
まだ、戦いは始まったばかりだ。




