第四章:ウェストポートの決戦 後編
第二波が、来た。
今度は、さらに多い。
百匹近くが、一度に押し寄せてくる。
「カット!」
「カット!」
「カット!」
必死に受け流す。
自警団の攻撃も、続く。
矢、槍、剣——
あらゆる武器で、魔物を倒していく。
でも——
「くっ...!」
魔物の一匹が、バリケードを突破した。
「危ない!」
「サーブ!」
咄嗟に攻撃する。
光の球が、魔物に直撃する。
魔物が、倒れた。
「助かった!」
団員が、叫んだ。
でも、隙ができた。
別の魔物が、俺に襲いかかってくる。
「っ!」
「カット!」が間に合わない。
「楽間さん!」
エリシアの声。
でも——
「させるか!」
ガルドが、割って入った。
剣で、魔物を斬る。
「お前が倒れたら、終わりだ!」
「すみません!」
「気にするな!集中しろ!」
ガルドが、俺の前に立った。
「俺たちが、お前を守る!」
他の団員たちも、俺の周りに集まってきた。
「そうだ!俺たちの町だ!」
「みんなで、守るんだ!」
その言葉に、胸が熱くなった。
「...ありがとうございます!」
「カット!」
また、攻撃を受け流す。
今度は、自警団が俺を守ってくれている。
俺一人じゃない。
みんなで、戦っている。
「第二波、撃退!」
ガルドの声。
門の前には、さらに魔物の死骸が積み上がっていた。
「あと...百匹くらいか」
ガルドが、息を切らしながら言った。
「もう少しだ...!」
でも、俺の腕は限界だった。
「カット」を何度も使いすぎた。
もう、感覚がない。
「楽間さん、大丈夫ですか!?」
エリシアが、駆け寄ってくる。
「ヒール!」
回復魔法が、体を包む。
でも、疲労は消えない。
「...あと、少し」
呟いた。
「あと少しだけ...頑張らないと」
「楽間...」
ガルドが、心配そうに俺を見た。
「無理するな。俺たちでも...」
「大丈夫です」
俺は、ラケットを握り直した。
「最後まで、やります」
「...分かった」
ガルドは、頷いた。
「みんな!最後の波だ!全力で行くぞ!」
「おう!」
そして——
第三波が、来た。
残りの魔物、全てが一度に押し寄せてくる。
「うわあああ!」
誰かが、叫んだ。
百匹以上の魔物が、門に殺到する。
「カット!」
「カット!」
「カット!」
俺は、もう意識が朦朧としていた。
ただ、ひたすら——
受け流す。
攻撃を、受け流す。
「楽間!無理するな!」
ガルドの声が、遠くに聞こえる。
「ヒール!」
エリシアの魔法が、何度も俺を包む。
でも、もう限界だった。
腕が、動かない。
「っ...」
魔物の爪が、俺の肩を切り裂いた。
「楽間!」
「楽間さん!」
ガルドとエリシアの声。
でも——
「まだだ...」
俺は、歯を食いしばった。
「まだ...終わってない」
ラケットを、握り直す。
「この町を...守るんだ」
「カット!」
また、攻撃を受け流す。
痛みも、疲労も、もう感じない。
ただ——
守りたい。
この町を。
みんなを。
「楽間さん!」
エリシアの声。
「もう十分です!下がってください!」
「まだだ...」
「カット!」
「カット!」
俺は、ずっと受け流し続けた。
そして——
「最後の一匹だ!」
ガルドの声。
最後の魔物が、倒れた。
静寂。
「...終わった」
誰かが、呟いた。
「終わった...のか?」
「ああ...」
ガルドが、周囲を見回した。
魔物の死骸で、埋め尽くされている。
でも——
「勝った...!」
「勝ったぞ!」
自警団の団員たちが、歓声を上げた。
「やった!」
「町を守ったぞ!」
俺は、その場に膝をついた。
もう、立っていられなかった。
「楽間さん!」
エリシアが、駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか!?」
「...勝ちましたね」
なんとか、笑った。
「はい...勝ちました」
エリシアの目から、涙が溢れた。
「楽間さん、本当に...本当にありがとうございます」
「俺じゃなくて...みんなのおかげです」
そう言って、俺は意識を失った。
目が覚めると、ベッドの上だった。
「...ここは」
「楽間さん!」
エリシアの声。
顔を向けると、エリシアが泣きながら笑っていた。
「よかった...目が覚めて」
「俺...どれくらい」
「三日、眠ってました」
「三日...」
「無理しすぎたんです。体が、限界を超えてたって」
エリシアは、俺の手を握った。
「もう...心配したんですから」
「ごめん...」
「謝らないでください」
エリシアは、首を振った。
「楽間さんのおかげで、町は守られました」
窓の外を見ると、町は平和だった。
人々が、普通に生活している。
「みんな、楽間さんに感謝してますよ」
エリシアが、微笑んだ。
「英雄だって」
「英雄なんて...」
「違います」
エリシアは、真剣な顔で言った。
「楽間さんは、英雄です。この町を、一人で守ったんですから」
「一人じゃないです。エリシアも、ガルドさんも、自警団のみんなも...」
「それでも」
エリシアは、俺の手を強く握った。
「楽間さんがいなかったら、この町は終わってました」
「...」
数日後、俺は回復して動けるようになった。
町を歩くと、人々が俺に声をかけてくる。
「ありがとう」
「あなたは、この町の英雄です」
「恩は、一生忘れません」
照れくさかった。
でも、嬉しかった。
町長の屋敷に呼ばれた。
「楽間殿、エリシア王女」
町長は、深々と頭を下げた。
「この町を、救ってくださり、本当にありがとうございました」
「いえ...俺たちは」
「報酬を、用意させていただきました」
町長は、袋を差し出した。
中には、金貨が入っている。
「これは、町民たちから集めたものです。どうか、受け取ってください」
「でも...」
「お願いします」
町長は、真剣な顔で言った。
「これが、私たちにできる、せめてものお礼です」
エリシアが、俺を見た。
俺は、少し考えてから、頷いた。
「...ありがとうございます。大切に使わせていただきます」
町を出る日。
多くの町民が、見送りに来てくれた。
「また来てね」
「困ったことがあったら、いつでも」
「あなたたちのこと、絶対に忘れません」
俺たちは、手を振って答えた。
「さあ、行きましょう」
エリシアが、地図を広げた。
「次は...どこに行きますか?」
「どこでもいいです」
俺は、笑った。
「困っている人がいるところに」
「...はい」
エリシアは、にっこりと笑った。
二人で、街道を歩き出す。
ウェストポートの戦いは、終わった。
でも、俺たちの旅は——
まだまだ、続く。
第四章:ウェストポートの決戦 完




