第四章:ウェストポートの決戦 前編
満月の夜まで、あと六日。
俺たちは、自警団と共に準備を進めていた。
「ここに、バリケードを築く」
自警団の団長——ガルドという筋骨隆々の男性が、門の前を指さした。
「魔物を、一度に数匹しか通れないようにする」
「はい」
団員たちが、木材や石を運び始める。
俺とエリシアも、手伝った。
「楽間さん、こっちお願いします」
「分かりました」
重い丸太を運ぶ。
訓練場での基礎体力トレーニングが、こんなところで役に立つとは。
「あんたたち、本当に大丈夫なのか?」
ガルドが、心配そうに聞いてきた。
「三百匹の魔物だぞ。今まで、そんな規模の戦いをしたことは...」
「ありません」
正直に答えた。
「でも、やるしかないですよね」
「...そうだな」
ガルドは、苦笑した。
「俺たちも、初めてだ。でも、この町を守りたい」
「俺たちも、同じです」
「...ありがとう」
ガルドは、俺の肩を叩いた。
「あんたたちが来てくれて、本当によかった」
準備は、着々と進んでいった。
町の門の前に、バリケードを築く。
魔物を誘導するための、罠も仕掛ける。
「これで、魔物は門からしか入れない」
ガルドが、満足そうに頷いた。
「あとは...戦うだけだ」
夜、俺たちは宿屋で休んでいた。
「楽間さん」
エリシアが、心配そうに聞いた。
「本当に、大丈夫ですか?」
「...正直、不安です」
俺は、窓の外を見た。
「三百匹なんて、想像もつかない」
「でも、楽間さんなら...」
「エリシアは、俺を買いかぶりすぎです」
少し、笑った。
「俺、そんなに強くないですよ」
「そんなこと、ありません」
エリシアは、真剣な顔で言った。
「楽間さんは、いつも諦めない。どんな相手でも、工夫して戦う」
「...」
「だから、私、信じてます」
その言葉が、嬉しかった。
「...ありがとう、エリシア」
「私こそ、楽間さんについていくだけで」
エリシアは、少し寂しそうに笑った。
「私、魔力が弱いから...あまり役に立ててないですよね」
「そんなことないです」
俺は、首を振った。
「エリシアの回復魔法がなかったら、俺はとっくに死んでます」
「でも...」
「それに」
俺は、エリシアを見た。
「エリシアがいてくれるから、俺は戦える」
「...え?」
「一人だったら、怖くて逃げ出してます。でも、エリシアが一緒だから...頑張れる」
エリシアは、顔を赤らめた。
「...私も、です」
小さく、呟いた。
「楽間さんがいてくれるから...私も、頑張れます」
二人で、しばらく黙っていた。
「明日も、準備ですね」
エリシアが、話題を変えた。
「ええ。あと五日...しっかり準備しないと」
「はい」
その夜、俺は久しぶりに、ぐっすり眠れた。
満月の夜まで、あと三日。
準備は、ほぼ完了していた。
バリケード、罠、武器の補修——全て整った。
「あとは、訓練だな」
ガルドが、団員たちを集めた。
「楽間、お前の戦い方を見せてくれ」
「分かりました」
俺は、訓練場に立った。
自警団の団員たちが、興味深そうに見ている。
「エリシア、お願いします」
「はい」
エリシアが、魔法を撃つ。
光弾が、俺に向かって飛んでくる。
「カット!」
ラケットで受け流す。
光弾が、角度を変えて地面に落ちた。
「おお...」
団員たちが、どよめいた。
「すごい。魔法を、あんなに簡単に...」
「サーブ!」
今度は、俺が攻撃する。
光の球が、的に向かって飛んだ。
「スマッシュ!」
さらに強力な攻撃。
的が、吹き飛んだ。
「...すげえ」
団員たちが、感嘆の声を上げた。
「あれが、『卓球部員』の力か」
ガルドが、感心したように言った。
「確かに、お前なら魔物の攻撃を受け止められるな」
「頑張ります」
「俺たちは、お前が受け止めている間に攻撃する」
ガルドは、団員たちを見た。
「弓と槍で、確実に仕留めるぞ」
「おう!」
団員たちが、声を上げた。
その日の夜、町の人々が俺たちのところに来た。
「あの...」
若い女性が、遠慮がちに言った。
「これ、お礼の気持ちです」
手作りのパンと、スープだった。
「ありがとうございます」
エリシアが、受け取った。
「でも...まだ、何もしてないのに」
「いえ」
女性は、首を振った。
「あなたたちが、残ってくれた。それだけで、嬉しいんです」
「...」
「他の町からの冒険者たちは、みんな逃げました。でも、あなたたちは...」
女性の目には、涙が浮かんでいた。
「この町を、守ってくれる。本当に、ありがとうございます」
その言葉に、俺は胸が熱くなった。
「俺たち...頑張ります」
「お願いします」
女性は、深々と頭を下げた。
他にも、多くの町民が訪れた。
子供たちは、俺たちに花束をくれた。
老人たちは、お守りをくれた。
「絶対、勝ってくださいね」
「この町を、守ってください」
みんなの期待が、重かった。
でも——
「頑張らないと、ですね」
エリシアが、花束を見つめながら言った。
「ええ」
俺も、頷いた。
「絶対、守りましょう」




