第7話:はじめての“つかいすぎ”
道具作りの日々が続くなかで、ユイは毎日何かしらの発見を繰り返していた。
「ライト、つけてみてもいい?」
夕暮れ、森の縁から帰ってきたユイは、ぽそりと口にした。
グリュンが火を起こす前に、自ら手のひらをそっと前へと伸ばす。
「おう、やってみなさい。だが、無理はするなよ」
「うん」
ユイは深呼吸し、手を差し出して、魔力を緩やかに流し始めた。
「……ライト」
ぽう、と光が灯る。前回よりも少しだけ、明るい。
周囲の影が柔らかく揺らぎ、森の木々の陰が室内の壁に映し出された。
(できた……!)
ほんの短い時間だったが、確かに魔法の“光”がそこにあった。
だが、次の瞬間――
「……ん……あれ……?」
ユイはふらりと身体を揺らし、顔色がサッと青ざめた。
「おい!」
グリュンがすかさず駆け寄るも、ユイの膝は力を失い、床にへたり込む。
「う、うごけ、ない……」
「魔力、か。無理しおったな……!」
ライトの発動には【60】の魔力を消費する。
ユイの現在の使用上限は【120】、だがここ数日で何度も《創造》スキルを試し続けていたため、魔力は既に残り少なくなっていた。
「……なんだか……きもち、わるい」
「寝てろ。すぐに粥をつくる」
グリュンは手際よく鍋に湯を沸かし、刻んだ根菜と米を入れた。
その手つきには焦りがなく、ただ淡々とした優しさがあった。
***
夜、布団の中でユイは目を覚ました。
(からだ、うごく……)
横には湯気のたつ椀と、丸めた布が置かれていた。
(つかいすぎた……)
頭の中に、チュートリアルの声が響く。
『魔力の過剰使用が確認されました。現在、軽度の魔力枯渇症状です。』
「……しってる」
『魔力の使用は、現在の“許容値”を超えると危険です。安全な目安を守って使用してください。』
「わかった、よ……」
自分の中にある力。けれど、万能ではない。
(もっと、つよくならなきゃ……)
ふと、ユイは隅に置かれた“自分で作った箸”に目を向けた。
(ちゃんと、つくって、つかえるようにしたい)
その夜は久しぶりに深く眠った。
***
【現在の魔力情報】
最大魔力量:870(使用上限:125)
魔力回復完了まで残り:3時間
【スキル習熟度】
《創造(木製箸)》:44%
《魔法:ライト》:13%(初の限界使用を記録)
***
次の日、ユイは光魔法を使わず、素直に火打石で火を起こした。
「今日は、ちゃんと火をつかう」
「おお、それがええ。魔法は頼るもんじゃない、“手段”のひとつよ」
グリュンの言葉に、ユイはこくんとうなずいた。
魔法は便利だ。でも、それに頼りすぎると、倒れてしまうことを知った。
スキルも、光も、すべて“つかいかた”しだい。
“道具”も“ちから”も――正しく使って、はじめて意味を持つ。
ユイはその日、光を使わずに、世界を“見つめる”目を少しだけ変えたのだった。