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ユイの創造日誌 ~賢者の遺した世界で、少女は未来を紡ぐ~  作者: のほほん
第3章: 「継がれる灯火、試される刃」
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幕間5 命の残響

 夜は深い。

 静寂の中で虫の音だけが時を刻んでいる。


 グリュンは灯りもつけず、窓辺に佇んでいた。

 月の光が静かに背を照らし、老いた獣人の横顔を浮かび上がらせる。


「……寿命、か」


 その言葉は、自嘲にも近かった。


 霧氷の迷宮での出来事。

 ルーファスが二度目の詠唱魔法を行使するために──“主たる自身の寿命”を代償としたこと。


 自らの意志で、分身に貸与した魔力。

 だがそれは、確かに“残り時間”を削るものだった。


「何年、縮んだのか。あるいは──何ヶ月か」


 誰にも語ることはない。

 ユイにも、ルミにも。

 この命の終わりは、自分ひとりで迎えるつもりでいた。


 けれど──


(間に合うのだろうか)


 胸の奥が微かに熱を帯びる。

 冷静さを欠くわけではない。だが、“焦燥”というものを久しぶりに覚えていた。


 それほどまでに、あの霧氷の迷宮で見た“痕跡”は異質だった。

 魔力の流れが逆巻き、外部からの干渉が前提であるかのような構造。


「……呼び水。いや、“観察者”か」


 ユイは強くなるだろう。

 彼女の契約は未だ成長途上であり、再構成という力も拡張の余地がある。

 ミル──いや、ルミの存在も、その先の未知を抱えている。


 彼らは未来に向かって歩いている。

 だが、自分は──


(私は、その未来にいられるのか?)


 その問いには、答えはなかった。


 すでに自らの肉体には、老いだけでなく、魔力の“消耗痕”が刻まれている。

 常人の数倍以上の魔力を宿し、それを操作し続けてきた身体。

 その限界は、とうに超えていたはずだ。


 それでも生きているのは、ただ、運命の猶予か、あるいは“必要とされている”からなのか。


「……あと一度。あと一歩でいい」


 グリュンは空を見上げる。

 月は満ちていた。

 それはまるで、何かを告げるように──沈黙のまま光を放っていた。


 彼はふと、微笑む。


「やはり、老いは贅沢だな。考える暇がある」


 そっと目を閉じる。


 静けさの中に、命の音が、わずかに響いていた。

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