第45話 帰還、そして深夜の対話
──氷の世界は終わり、白く光る空の下での帰還。
霧氷の迷宮──最後の扉が閉ざされ、三人は再び太陽の下に立った。
「……ただいま」
ユイが呟いた。外の空気が、まるで別の世界のように暖かかった。
ルミも背伸びを一つして、目を細める。
その様子を見て、グリュンがにっこりと笑った。
「……よくがんばったね」
その声が包む空間は、小さな森の隠れ家のようだった。
だが、今はそこが“帰るべき場所”になっていた。
* * *
館内には、暖かな灯りと煮えたぎる音が満ちていた。
「さぁ、座って」
グリュンは手際よく大皿を並べ始める。
スープに焼き魚、野菜煮込み──旅の疲れを癒すための食卓が用意されていた。
ユイとルミも胸が弾んで、席に着く。
「うわぁ……ごちそうだぁ……!」
ユイが目を輝かせると、グリュンはクスリと笑った。
「魔物を倒し、迷宮を踏破したのだもの。当たり前だろう?」
ルミも、箸を手に取って寿司のネタを選ぶ。
「……おいしい。心と体に染み入るね」
* * *
食事のあと、旅立ち前の提案があった。
「しばらく休もう。心も体も、癒す時間を取るのだ」
グリュンが提案すると、ユイとルミは静かに頷いた。
「それがいいと思ってた」
ユイは優しく微笑み、ルミは満足そうにうなずく。
二人は少し会話を交わして部屋へ戻っていった。
灯りは消え、夜は静かに更けていく。
* * *
寝静まったあと──
わずかに漏れるランプの光の下、グリュンとルーファスが向かい合っていた。
ユイとルミは、深い眠りに落ちている。
「……お疲れさま、ルーファス」
グリュンが優しく声をかける。
だが、その表情は深刻だった。
「お疲れさまでは、ありません。報告も済みましたし、一度滞った使命でもあります」
ルーファスはうなずきながら懐から通信触媒を取り出す。
「ですが──あの空間にあった“転送紋章”“何かに視られていた”という予兆。これを無視するわけには、いかないと思いまして」
グリュンは静かに頷いて、話を促す。
「……うむ。あれは“誘導された痕跡”だろうな。ヒュドラが終わった後、紋章が浮かび、黒い雫が落ちた。それは“向こうの視線”と断定できる」
「はい。迷宮の構築に誰かが介入していた。私たちは、“呼び出された”可能性さえある」
ルーファスの言葉には、覚悟があった。
「ふむ……それがわかっただけでも、大きな収穫だ」
グリュンが、ランプの火をそっと指で消す。
「……私も、これ以上は放っておけない」
「はい」
静かな夜に、二人の声が響く。
* * *
そして朝──
ユイとルミが目を覚ますと、すっきりとした食卓と穏やかな空気があった。
グリュンは微笑み、「いい朝だね」と声をかけた。
ルーファスは、少しだけ背を伸ばし──
戦いは終わっていないが、確実に次へ進んでいる、そう感じていた。
旅立ちの準備は整っている。
霧氷の迷宮を越えた先で待っている、新たな“呼び出し”の予感を抱きながら──
三人はまた立ち上がる。




