表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユイの創造日誌 ~賢者の遺した世界で、少女は未来を紡ぐ~  作者: のほほん
第3章: 「継がれる灯火、試される刃」
48/51

第44話 深淵に灯るもの

 氷の霧は、静かに薄れつつあった。

 戦いの終焉とともに、霧氷の迷宮もその沈黙を取り戻していた。


 ──そして三人は、ついにその地へ辿り着く。


 白く凍てついた階段を、ゆっくりと降りる。

 足元に響く足音は、やけに静かだった。


「……ここが、10階層の奥、最終層……」


 ユイが呟いた。


 その先に広がっていたのは、いままでとは明らかに異なる空間だった。

 天井も高く、空気も動いている。そしてなにより、“霧が存在していない”。


「おかしいわね……この迷宮は、霧氷が満ちているのが特徴だったはずなのに……」


 ルミの警戒心が高まる。

 迷宮の支配領域に異変が生じているのは、間違いない。


「この階層……妙に、温かい……?」


 ユイが、そっと床に触れる。

 氷ではなく、岩肌。霜すら張っていない。


「ルーファス、ここ……本当に同じダンジョンなの?」


「いえ、雰囲気も構造も、ここだけ“切り離された空間”のように見えます。地脈の流れもまるで別……いえ、逆流しています」


 ルーファスは視線を奥へ向けた。


 中央に、古びた石造りの台座が見える。

 その上に載っていたのは──


「……なにこれ……?」


 ユイが手を伸ばそうとするが、ルーファスが静かに制止する。


「待ってください、ユイ様。それは……“残滓”です。恐らく、この迷宮の“核心”だったものの痕跡」


「もう……壊れてるの?」


「壊された、可能性が高いです。人工的に、もしくは──外部からの干渉で」


 重苦しい沈黙が場を支配する。

 この迷宮は、誰かに“破壊された”のか。


「まるで……力だけ奪われて、空っぽになった箱みたい……」


 ルミの言葉に、ユイが思わず振り返る。


 ──迷宮の最奥で得られるはずだった報酬も、知識も、何も残っていない。


 ただひとつ。


 空間の中心に、ぽつりと光が瞬いた。


「……?」


 ユイが気づく。

 その瞬間、空間が微かに歪んだ。


 次の瞬間、目の前の空間に刻まれたように──“紋章”が浮かび上がる。


 氷の紋章。


 それはヒュドラの心臓部で見たものと、まったく同じ意匠だった。


「ルーファス! これって……!」


「っ……残留魔力ですな。ですが……これは、“あの時のヒュドラの核”ではありません。似ているが、格が違う……これは、“転送用の紋章”」


 その瞬間、空間の中心に、ぽたりと落ちた“黒い雫”。


 それは魔力でも、霧でもなかった。

 何かもっと、原初的で“禍々しい気配”を帯びていた。


「なに、これ……」


 ユイの中で、契約の力が反応する。

 彼女の胸の奥で、淡い金の光が震え始めた。


(ちがう。これは──危ない)


 身体が自然に、後退しようとする。


 そのときだった。


 “視られた”という感覚。


 何かがこの場にいて、ユイたちを“確かに見ている”。


 それが現れることはなかった。

 けれど、明確に“接触”の痕跡だけが残された。


 それは予兆。

 この迷宮の最深で、何者かが“意図的にヒュドラを再生させていた”可能性を示す証。


「これは……単なる試練じゃなかったのね」


 ルミの声は、低く震えていた。


 そしてユイもまた──その異常さに気づいていた。


 このダンジョンは“調律されていた”。

 誰かが、彼女たちをここに導いたようにすら思えるほど、すべてが整っていた。


(次に待つのは、もっと……)


「戻ろう」


 ユイの声に、ルーファスとルミが頷いた。


「まずは報告と、整理を。……そして次の対策を」


 霧氷の迷宮、踏破完了──

 だが、その裏で蠢く気配が、確かに存在した。


 決戦の幕は、すでに上がり始めているのかもしれなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ