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ユイの創造日誌 ~賢者の遺した世界で、少女は未来を紡ぐ~  作者: のほほん
第3章: 「継がれる灯火、試される刃」
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第42話 止まらぬ再生

 フロストヒュドラ──倒したはずのその巨体が、蒼い魔力の奔流とともに再び立ち上がる。

 五つの首がゆっくりと持ち上がり、再構成された肉体が霧氷の空を裂く。


「なんで……まだ動けるの……?」


 ユイが声を震わせる。

 ルミの氷刃が深々と突き刺さったはずの胴体から、まるで何もなかったかのように再生が始まっていた。


「……魔力が、外部から流れ込んでいる」


 静かに答えたのはルーファスだった。


「紋章が核となり、どこか別の空間から魔力を直接受け取っている。迷宮自体が、ヒュドラを“再生させる兵器”として動かしているのでしょう」


「つまり、倒しても意味がない……?」


 ルミの声は冷静だったが、その目は明らかに焦りを帯びていた。


「ええ。正確には“魔力供給を断たない限り、完全に倒せない”ということです」


 ルーファスは短く息を吸い、前に出る。


「……一度だけ、封印魔法を試みます。敵の魔力再生を一時停止させる術です」


「そんなことが……!」


「制御が難しく、代償も大きいですが──今は手段を選んでいる場合ではありません」


 ルーファスが手を広げ、空間に蒼と銀の魔法陣を描く。

 空気が凍るような緊張が、周囲に広がっていく。


「時よ、流れを止めよ。再生の因果を断ち、輪廻を凍てつかせよ──」


 詠唱が完了した瞬間、空間が“止まった”。

 ヒュドラの動きが一瞬、完全に凍結する。


「──《時停めの封印陣クロノ・シール》!」


 魔法陣の光が広がり、紋章から溢れていた魔力が強制的に遮断された。


「……今しかない!」


 ユイとルミが再び突撃の体勢に入る。

 だが──


「……ダメだ。時間が持たない!」


 魔法陣の縁が揺らぎ、封印が解除されかけていた。

 敵の魔力量があまりに大きすぎる。


「もう一度……! もう一発、同じ魔法を……!」


 ユイの言葉に、ルーファスが静かに首を振る。


「申し訳ありません。魔力が……足りませぬ」


 その声に、ユイとルミは動きを止めた。


 ルーファスは静かに懐から、黒金の通信触媒を取り出す。


「ですが、方法はあります。外部から“補給”を受ければ──あと一発、撃てます」


「本当にできるの……?」


「ええ。今のうちに、体勢を立て直しておいてください。すぐに戻ります」


 微笑んだその顔は、平静を装っていた。

 そして、通信魔法が起動する──


 次の瞬間、虚空の空間に裂け目が生まれ、そこから現れたのは──

 賢者グリュン。その瞳は深く、そして全てを見通していた。


『……ルーファスか』


「はい。ご無沙汰しております。こちら、想定外のAランク個体が出現しました。時間魔法一発分は撃ちましたが、次の詠唱には、魔力が──」


『……寿命を寄越せということだな』


「……はい」


 ルーファスの声は、僅かに低くなった。


 彼は魔力で作られた存在。

 ゆえに、外部からの魔力供給は“主”の代償によって成り立つ。


『説明は要らん。お前の目を通して、すべて視えている。……選ぶのは、お前だ』


「ありがとうございます。では……賜ります」


 その瞬間、背中を突き抜けるような、純粋な魔力の奔流が流れ込んでくる。

 だが同時に、それはグリュンの寿命という“時間”を削るものであった。


(この命は、主より与えられしもの。ならば、主の時間を燃やしても──ユイ様を、護る)


 ルーファスは再び前を向いた。


 ユイとルミは、彼が何を代償にしたのかを知らない。

 それでいい。知る必要などない。


「──《時停めの封印陣》、再構成開始」


 蒼と銀の魔法陣が、再び空間に描かれていく。

 再生を完了しかけていたヒュドラの動きが、再び止まり始めた。


「今度こそ、終わらせましょう──この災厄を」


 決着の時は、すぐそこに迫っていた。

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