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ユイの創造日誌 ~賢者の遺した世界で、少女は未来を紡ぐ~  作者: のほほん
第3章: 「継がれる灯火、試される刃」
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第41話 覚醒の兆し

 フロストヒュドラ──


 五つの頭が唸りを上げ、凍てついた咆哮が霧氷の迷宮全体を揺らす。

 その姿は“氷の災厄”の名にふさわしく、霧すら凍てつかせるほどの魔力を放っていた。


「やば……これは、本物のAランクだよ……!」


 ユイの声が震える。

 ただ立っているだけで体温が下がっていく。防寒具を貫通して骨まで冷える異常な冷気──それがこの魔物の圧だ。


「……いや、正確には“Aランクの中でも上位個体”ですな……! 単純な力だけなら、街一つを凍らせかねませぬ!」


 ルーファスが歯を食いしばりながら答える。


「ルミ、どうする!?」


 ユイの呼びかけに、擬人化したルミが氷刃を展開する。

 金の瞳が冷たく光った。


「全力でいく。回復の余裕はない。これ以上進化させない」


 次の瞬間、五つの頭が一斉に吐息を放つ。


 ──《氷槍のアイス・テンペスト

 無数の氷柱が上空から降り注ぐ。規模は、もはや攻撃魔法というより“災害”だった。


「《氷障壁・多層展開》!」


 ルミが空中に三重の魔法陣を展開し、巨大な氷の盾を幾重にも積層して衝撃を受け止める。


 だが──


「くっ……全部、貫通してくる!」


 その奥、さらに二首が螺旋状に冷気を回転させ──《凍結旋槍》が直線で飛来する。


 ユイがとっさに飛び退く──だが回避が間に合わない。


「ユイ様あああああああ!!」


 ルーファスが身を投げ出す──その瞬間、


 ──パシィン!!


 氷が砕けた。

 しかし、それは防御によるものではなかった。


「……え?」


 ユイの体から、白銀の魔力の波紋が広がっていた。


 周囲の空間が“反転”するように、攻撃の軌道が歪んだ。


 冷気が逸れ、氷が宙で弾かれ、敵の魔力すら押し返すような、異質な干渉。


「これ……私の……?」


 心臓の奥にいた“違和感”──それが、いま、目を覚ました。


「これは……属性の再構成……!? いや、それ以上……?」


 ルーファスが目を見張る。


「ユイ、体の中の“何か”が動いてる。契約で得た力、ようやく……!」


 ルミが叫ぶ。


「今はまだ完全じゃない! けど、その力で敵の魔力場を崩せる! 隙を作って!」


「──うん!」


 ユイが前へ出る。

 手の中の杖が共鳴し、淡く銀の光が集まり始める。


(名前は……わからない。でも……これだけは、言える)


「私の力……返して!」


 空間が歪む。


 ──《再構成・反射リフォージ・リバース》!


 フロストヒュドラが吐いた冷気が、そのまま逆流するように押し返された。


 五つの首が一瞬たじろぐ。


「いまだ、ルミ!」


「──了解!」


 氷刃が五方向に分裂。

 擬人化形態で放つ最大の連撃──《氷牙・裂斬》!


 凍てついた大地を砕きながら、ルミの刃がヒュドラの頸を次々に断ち切っていく。


 ──どおん!!!


 五つの首が、次々と地面へと落ちる。

 爆風。魔力の逆流。激しい霧氷が散った。


 地鳴りとともに、フロストヒュドラの巨体が崩れ落ちた。


「……やった……?」


 ユイが息を切らしながら、手をつく。


 ルーファスが慎重に歩み寄り、魔力感知を行う。


「……魔力波、収束。敵性反応──なし」


「本当に……?」


 ルミが眉をひそめる。


「完全に消えた?」


「……ええ。少なくとも“今”は、ですが……」


 その時。


 ──グウゥゥ……ググ……。


「……っ!?」


 大地が揺れた。

 倒れたはずのフロストヒュドラの体に──またしても蒼い魔力が流れ込む。


「再生!? まさか……!」


 ユイが叫ぶ。


 首が、一つずつ再構成されるように戻っていく。

 肉体の繊維が、氷結した魔力で無理やり繋がっていく。


「これって……自己再生!? そんなの、聞いてないよ!」


「違う! これは……紋章だ!」


 ルーファスが睨む。


「紋章から、外部の魔力供給がある! これさえ断ち切れば……!」


「けど……時間が……!」


 五つの首が、完全に蘇りかけていた。


「一度は倒せたんだ。もう一回、やるだけ!」


 ユイの目が、恐怖に震えながらも、確かに光っていた。


「次で決める!」


 ルミが氷を砕いて立ち上がる。


 再び戦闘が始まる──

 “本物”の決着をつけるために。

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