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ユイの創造日誌 ~賢者の遺した世界で、少女は未来を紡ぐ~  作者: のほほん
第3章: 「継がれる灯火、試される刃」
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第40話 氷牙の咆哮

 霧氷の迷宮──第十階層。


 そこは、九階層までとは全く異なる空気に支配されていた。

 霧は濃く、音も凍るような沈黙が漂い、視界は常に十数メートル先までしか届かない。


「……気温、さらに下がってる。息、白いってレベルじゃない……」


 ユイが吐く息が一瞬で霧氷となって舞う。

 まるで空間そのものが、凍結という名の牢に閉じ込められているかのようだった。


 先頭を歩くのは、擬人化したルミ。背中には氷の紋様が浮かび、足元には霜が走る。

 そして後方には、ルーファスが緊張した面持ちで魔力探査を行っていた。


「……妙ですな。構造が、ほとんど“動かない”。まるで、この層だけ“静止”しているかのような……」


 その言葉に、ユイの胸がどくん、と脈打った。


(止まってる……? なんだろう……胸の奥が、ずっと前から変な感じがする)


 契約を結んだ日から、ずっと抱えていた“違和感”──体の奥に渦巻く何か。

 言葉にできないまま、それが今、ざわついていた。


 ──ギシャッ。


 乾いた足音。霧の向こうから、確かな“気配”が迫る。


「来る!」


 ルミが叫ぶより早く、氷柱の間から現れたのは──


「……フロストリザード……」


 ユイが呟く。


 背丈は三メートル近く、全身が凍結鱗に覆われた冷気の使い手。

 氷魔法に特化した高硬度の爬虫型魔物。Bランク、だが通常の個体とは明らかに“何か”が違っていた。


 背の中心部──心臓部に近い位置に、奇妙な刻印のようなものが刻まれていた。


「……紋章?」


 ユイの目がそれを捉えた瞬間──


 フロストリザードが咆哮を上げ、五メートル近くジャンプする。


「くるっ!」


 ユイが地を蹴る。ルミが滑るように立ち塞がる。


「《氷盾・結界壁》!」


 氷の防壁が前方に展開され、衝撃を受け止める。


 直後、ルミが氷刃を一閃──擬人化形態のまま、鋭い斬撃で敵の前足を切り裂いた。


「……効いてない……!?」


 血は出た。だが、その傷がすぐに凍って“自己修復”を始めていた。


「再生能力……?」


 ルミが目を細めた瞬間、ユイが叫んだ。


「来る! こっちにも!」


 左右から追加のフロストリザードが現れた──合計三体。


「分散して各個撃破ですな! ユイ様、援護を!」


「うん!」


 ユイは杖を構える。契約後、より明確に感じるようになった“魔力の核”が今、じわりと熱を帯びる。


(この中……なんだろう……ずっと、奥に何かがいる……)


 背骨の奥。心臓と胃の間。そこに何か、冷たくて強い魔力の塊がある。


 まるで──“何かを呼び起こせ”と言っているように。


「ユイ、後ろ!」


 ルミの警告と同時、ユイが杖を回す。


「《再構成・展開リフォージ・スプレッド》!」


 空間に広がる透明な盾──その数、五枚。

 自動配置された魔力障壁が敵の突撃を食い止める。


「いける!」


 思わず声が出た。だが、その時──


 目の前のフロストリザードの紋章が、蒼く光った。


「魔力増幅……!? 供給源がある……!」


 ルーファスの顔色が変わる。


 次の瞬間、三体のフロストリザードの身体が、蒼白い光に包まれ始めた。


「なにこれ……!?」


 骨が伸び、鱗が割れ、背中が裂け──そこから、さらに別の首が生えていく。


「っ──ユイ、離れて!」


 ルミがユイを抱えて跳躍。


 目の前で爆ぜるように変化を終えたのは──


 ──五つの頭を持つ、巨大な氷竜。


 《フロストヒュドラ》。Aランク。

 この迷宮で想定されていた“最終兵器”だった。


「Aランク!? おいおい、話が違いますぞ……っ!」


「これは……想定外……!」


 ルーファスが本気で魔力探査を開始する。

 その顔には、もういつもの軽さはなかった。


 ──霧氷の迷宮、最終層。


 本当の地獄が、ここから始まる──。

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