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ユイの創造日誌 ~賢者の遺した世界で、少女は未来を紡ぐ~  作者: のほほん
第3章: 「継がれる灯火、試される刃」
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第31話 聖獣と執事と、ダンジョンへの道

澄んだ空と、新緑の匂いに包まれて、ユイとミルは歩いていた。


 背後からは、ふわりふわりと浮かぶ小さな影――グリュンの分身にして、20cmの狼獣人・ルーファス。今日も小さなマントをはためかせて、彼は立派な顔で浮遊していた。


「本日はこのあたりで朝食にいたしましょう。少々お待ちを!」


 キラリと光る目で宣言したルーファスは、空中で回転しながら包みを広げた。取り出したのは、直径3cmの超小型パンと、干し肉の薄切り、そして野草のスープ……。


「……これは、ルーファス用?」


「いえっ、ユイ様に……ぴったりのはず……あっ、また私サイズで……申し訳ございませんッ!」


 小さな額に手を当てて嘆くルーファス。ミルは「キュ……」とため息混じりに草の上へ座り込み、ユイは苦笑した。


「ありがとう。でも、ルーファス。最近ドジっ子がすぎない?」


「いえ……執事とは、どのような状況においても礼節と優雅を忘れぬものでございます。たとえ洗濯物に押し潰されようとも!」


「昨日のはミルが乾かすって言ったのに、自分でやるって言って全身びしょ濡れだったよね……」


「ふっ、これもまた修行……!」


 小さな誇らしげなポーズをとったルーファスだったが、ミルがすかさず木の枝でツン、と軽く突く。


 こうして、のどかな(というより少し賑やかな)旅が始まってから一週間。


 だが、次第にその空気は変わっていく。



◆自然の脅威


「ミル、ここ通れる?」


「キュイッ」


 先導するミルが、滑りやすい斜面を注意深く進む。崖沿いの道はところどころ崩れており、足元はぬかるんでいた。


 草は尖り、虫は多く、気温は不安定。


 自然の厳しさが、旅人を容赦なく削っていく。


 その夜、ユイは小さな火を囲みながら、うんざりと天を仰いだ。


「ルーファス。こういう自然の脅威って、どうにかできないの?」


「ご安心ください。環境適応の補助魔法をかけておりますので……」


「……あれ? 私、すごく暑いし、ミルも息あがってるよ?」


「えっ!? わたくし、涼しゅうございますが……」


「えっ……」


 ――その時、ようやく気づいた。


 ルーファスが自分にだけ適応魔法をかけていたことに。


「ちょ、ちょっとグリュンに連絡して……!」



◆意識リンク・グリュン爆誕


 十数分後。


「アホかお前は!! なんで自分にしか魔法をかけとらんのじゃ!!」


 ルーファスの小さな身体が空中でビリビリ震える。


「ごっ、ご、ごめんなさいぃ……!」


「周囲に魔力フィールドを展開して、対象指定を“ユイとミル”に追加するだけで済むことじゃろうが! まったく、使えん執事じゃな!!」


「ひぃ……はいぃぃ……っ」


 ユイとミルは、妙に親しみのあるやりとりを見守っていた。


「……でも、これでちょっとは楽になるね」


「キュ」



◆飛行魔法の封印、解禁


 次の日。


 霧の濃い谷を越える際、足場が悪く転びそうになったユイに、ルーファスはすぐに浮遊魔法で支えた。


「ルーファス、これ使えるなら、最初から空飛んでればよかったんじゃない?」


「いえ、あの、それは……。人前で飛行するのは禁忌というか、派手ですし、目立ちますし……!」


「でもこのあたり、人いないよ?」


 その言葉をきっかけに、再び意識リンクが発動。


「バッカモォォン!!! だから進みが遅いんじゃ!!」


 グリュンがルーファスに対して容赦なく怒鳴った。


「おぬしらが二ヶ月かかるところを、飛行魔法で行けば半月で着けるわ!! どれだけワシの命を削って作ったと思っておる!!」


「は、ははは、か、かしこまりましたあああああ!!」



◆目的地、霧氷の迷宮の手前にて


 飛行に切り替えた結果、一行は予定よりもはるかに早く、霧氷の迷宮の入り口の手前にまで到着した。


 辺りには冷気が漂い、岩山に囲まれた空間には、異質な魔力の揺らぎが満ちている。


 ミルが耳をピンと立て、ユイは深呼吸した。


「ここが……霧氷の迷宮の前。……いよいよ、始まるんだね」


 ルーファスが空中で静かに一礼する。


「次の拠点での準備の際、装備と物資、そして私の“真の役割”について、全てご説明差し上げます」


「え? 真の役割?」


「ふふふ、どうぞお楽しみに!」


 その言葉に、ユイとミルは首を傾げながらも、前を向いた。


 ここから始まるのは、森の中では知り得なかった、真の冒険と戦いの世界。


 仲間は小さいけれど――


「がんばろうね、ミル」


「キュイッ!」


「……ついでに、ルーファスもね」


「か、影ながら全力を尽くします!」


 三人の旅は、いよいよダンジョンの門をくぐろうとしていた。

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