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ユイの創造日誌 ~賢者の遺した世界で、少女は未来を紡ぐ~  作者: のほほん
第3章: 「継がれる灯火、試される刃」
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第28話:目覚めの床、揺れる

 木漏れ日が揺れる午後、小屋の中には静寂が満ちていた。


 寝床の上で、ユイは天井を見上げていた。


 全身の節々に、鈍い痛みがまだ残っている。筋肉の張り、骨の軋み、魔力を使い果たした反動による虚脱感。あの戦いの爪痕は、癒えたとは言いがたかった。


 ミルもまた、部屋の隅でクッションにうずくまり、羽を広げることなく身じろぎもせず眠っていた。普段なら常にぴんと立てていた耳も、今は力なく伏せている。


「……ミル、ごめんね。無理させちゃった」


 ユイが小さく声をかけると、ミルはゆっくりと目を開け、「キュ」と弱々しく鳴いた。


 その声には、悔しさが滲んでいた。


 あの日。必死に戦い、負けて、ようやく一矢報いた――その記憶は、痛みと共に体に刻み込まれていた。


 木の床を杖が静かに叩く音が、遠くから聞こえてくる。


「起きておるか、ユイ」


 グリュンが、ゆっくりと部屋に入ってきた。


 腰をかばいながらも、顔には柔らかい微笑が浮かんでいた。だが、その瞳の奥には、いつもとは違う鋭い光が宿っていた。


「……ちと、話がある。大事な話じゃ」


 ユイは寝返りを打ち、痛みを堪えながら身を起こした。ミルもぴくりと反応し、伏せたまま耳を立てている。


 グリュンはテーブルの前に腰を下ろし、静かに息を吐いた。


「おぬしらが戦った、あのクマ型の魔物――あれはな、森の“主”の一族じゃ」


「……“主”……?」


「うむ。だが、あれは末端の末端。言ってしまえば“斥候”に過ぎぬ。森の奥には、あれなど比にもならぬ存在が潜んでおる」


「……もっと、強いのが……?」


「当然じゃ。あれは、せいぜいCか、良くてBランクの魔物じゃ。だが“森の主”たる存在は――その比ではない。Sランクを超える、“災害級”の存在。人の国でも“SSランク”として恐れられておる」


 ユイの手が、布団の上でぎゅっと握られた。


 ミルも、小さく「キュウ」と震える声を漏らす。


「“主”たちは、常に森の奥で眠っておる。だが時折、動くことがある。わしがこの森に居る理由の一つは、それを監視し、森の外へ出さぬためじゃ」


 グリュンの口調は淡々としていた。だがその声音には、確かな覚悟が宿っていた。


「わしは“番人”として、この森に残っておる。外の世界に“主”が現れれば、人々はひとたまりもない。わしの役目は、それを防ぐことじゃ」


 ユイは言葉を失い、ただじっとグリュンを見つめた。


「……あのとき、感じた気配。きっと、“主”の目だったんだね」


「おぬしらが見つかったわけではなかろう。だが……兆しはある。斥候が現れたということは、いずれ本体が動く前触れじゃ。森の均衡が、揺れ始めておる」


「……グリュン……」


 グリュンは、静かに首を横に振った。


「心配はいらん。すぐにどうこうなる話ではない。じゃが……そろそろ、次の手を打たねばならん」


 その声は穏やかでありながら、どこか遠くを見ているようでもあった。


 その視線の先にあったのは、己の“最期”か、あるいは――。


 ミルがユイに身を寄せる。ユイはそっとミルの背を撫でながら、目を閉じた。


 この森は、ただの森ではなかった。


 守られていた。知らずのうちに、結界の中で。


 それでも、自分はまだ……あまりに何も知らなかった。


 グリュンは立ち上がり、窓の外を見やった。


 その瞳には、深い森の奥――誰も近づかぬ“禁域”を映していた。


(この子が、何かを背負うことになるのなら――)


(せめて、今だけでも……)


 グリュンの背は、ひどく遠く見えた。


 ユイは言葉にできない何かを、胸の奥に感じていた。

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