幕間3 :契約について
ミルは木の枝の上から、眠るユイを見下ろしていた。
小さな胸が、微かに上下する。
その鼓動が聞こえるようで、ミルの耳がぴくりと動いた。
(ボク……また、守れなかった)
金の瞳を伏せる。
あのクマ型の魔物の圧倒的な力を前に、ボクは何もできなかった。
突進しても、引き裂かれそうになって、叩きつけられて、ユイに助けられた。
いつもそうだ。
彼女は小さい体で、泣きそうな顔をしながら、それでも前に立つ。
ボクが先に飛び出しても、最後に倒れるのはユイだった。
(このままじゃ、ダメだ)
葉の影から差し込む光に、ミルの体毛が柔らかく照らされる。
ミルはそっと、自分の口元を舐めた。
まだ微かに、鉄の味が残っている。
(ユイの血……こっそり、舐めた)
気を失っていた時、ふとした拍子に、ユイの指から血が流れた。
その一滴を舐め、ボクの口の中で、自分の血と混ぜた。
そうすれば、**契約**に必要な“互いの血”が揃う。
(名前も知ってる。信頼も……あるよね)
ミルは目を細める。
契約に必要なのは三つ。
一、互いの信頼。
二、互いの名。
三、互いの血。
そしてそれをつなぐのは、ただ一つ――**共感**。
(だから……できるはずなんだ)
契約魔法は、もう準備してある。
ただ、お互いに“そうだ”と意識を合わせるだけ。
言葉はいらない。
心が通じれば、それで成立する。
でも。
(喋ったら、バレる……かも)
契約を結ぶと、一部の力が共鳴し、言葉を伝えることもできるようになる。
そうなったら――ユイは怒るかもしれない。
(勝手に血を舐めたって……嫌がられるかな)
不安だった。
それでも、彼女ともっと強くつながって、力を合わせたいと思った。
守りたかった。
だから、いつかは話すつもりだ。
でも、タイミングを間違えたらきっとダメだ。
(……ちゃんと、向き合って話そう)
ミルは木から静かに降りて、ユイのそばに丸くなった。
彼女の体温に寄り添いながら、そっと目を閉じる。
夢の中でなら、言えるかもしれない。
――ボクは、君を守りたい。
それが、ミルの小さな決意だった。




