24話:親子の獣、命の選択
【24話:命の重さ】
開けた湿地の中、羽の生えた猪のような魔物が鋭い鳴き声を上げながら跳ねていた。
「いくよ、ミル!」
ユイの掛け声と共に戦闘が始まる。ミルが高所から飛びかかり、羽獣の背に一撃を加える。鉄棒を振りかざしたユイは、回避する羽獣を見逃さず、的確に脚を狙って打ちつけた。
しかし──それでも倒れない。
「……タフすぎる……!」
魔法を放つ。
「フレイム・ショット!」
炎の矢が羽獣の脇腹を貫き、肉が焦げる匂いが辺りに漂った。呻くように倒れこむ羽獣。しかし、すぐに、血を滴らせながらも立ち上がり、再び二人に向かって突進する。
何度も致命傷に近い打撃を与えた。それでも、羽獣は立ち上がる。
「……どうして……?」
ユイの魔法がもう一度羽獣を狙う。しかしその瞬間、ミルが急に横から飛びかかり、ユイにぶつかった。
「ミル!?」
放たれた魔法は軌道を外れ、羽獣の横をすり抜けるように炸裂する。
ミルは羽獣の周囲を低く駆け、耳を伏せながらユイの前に立つようにした。
その時、ユイにも見えた。
背後の茂みから、小さな影が五つ──か細い声をあげながら、羽獣に向かって近づいてきた。
「子ども……?」
羽獣は血まみれの身体で、よろよろとその子どもたちをかばうように前に立つ。牙をむきながら、それでも威嚇の姿勢を崩さなかった。
「……私たち……間違ってた……」
ユイはそっと鉄棒を下ろし、ミルに囁いた。
「ねぇ、ミル。お願い。あの子……助けたい。回復魔法、お願い」
ミルは一瞬だけ迷ったように見えたが、すぐに頷く。
「キュイ」
ミルの掌から淡い光がこぼれ、羽獣の傷を癒していく。羽獣は警戒しながらも、子どもたちに顔をすり寄せていた。
ユイは自分のリュックから小さな保存袋を取り出し、狩ったばかりの魔物の肉を取り出す。
「これ、さっきの……私たちの獲物だけど……。お詫びに、食べて」
羽獣は肉の匂いに反応しながらも、慎重にその場にとどまった。子どもたちが小さく鳴き、母の足元にすがりつく。
ユイとミルは、ゆっくりとその場を離れた。
◇ ◇ ◇
だが、その時だった。
背後から、あの叫び声が響く。
「……っ!」
振り返ると、あの巨大なクマのような魔物──森の主と呼ばれる一族の一体──が羽獣の親子を襲っていた。
既に数匹の子どもたちは地に倒れていた。
最後の一匹を守ろうと、羽獣が血だらけの身体で立ち上がる。
その姿に、ユイは息を呑んだ。
「やめて……!」
叫びも届かず、巨大な前脚が羽獣を押し潰す。骨が砕ける音とともに、最後の子どもも──
「やめてぇええええええ!!」
ユイの瞳に、涙と怒りが浮かぶ。
ミルも毛を逆立て、唸り声を上げた。
だが、クマ型の魔物は満足したかのように咀嚼もせず、残骸を踏みつけながら踵を返そうとしていた。
食べるためではない。
ただ、殺すためだけに。
「……絶対に許さない……!」
怒りに震えるユイの声は、森の空気を裂いた。
その眼差しは、もう「子ども」のそれではなかった。
――この怒りが、次なる戦いの火種となる。




