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第19話:風の芽吹き ―はじまりの修行録―③

  訓練の朝。まだ陽も高く昇りきっていない森の中、小屋の前には昨日よりも引き締まった表情のユイが立っていた。隣には、ふさふさとした尾を揺らしながら、柴犬ほどの大きさに成長したミルの姿もある。


「……今日からは攻撃魔法を教えてくれるんだよね?」


「うむ。昨日までで基礎確認と支援魔法の導入で終わったが、今日からはより実践に近づける訓練となる。覚悟はよいな?」


 グリュンの問いに、ユイは強くうなずいた。 


 まず取り組んだのは、まだ試すことのできていなかった「土」と「闇」の属性魔法。ユイは全属性適性を持つため、扱えるはずだが、基礎が整っていなければ暴走の危険もある。


「土は形を与え、守りに優れる属性。まずは足元の土に呼びかけるようにしてみよ」


「……うん。えっと……」


 ユイは目を閉じ、地面にそっと手を触れる。体内の魔力の流れを意識し、土の気配を探るように集中を深めると、地面がわずかに揺れ、小さな土の塊がもこりと盛り上がった。


「できたっ……!」


「初めにしては上々じゃ。ではそれを、“盾”にするのじゃ」


 言われた通り、ユイは手をかざし、再構成と魔力操作を合わせて“盾”の形をイメージする。次第に、盛り上がった土が縦に延び、小さな土壁となった。


「……ちょっと、ぐらぐらしてるけど……」


「ふむ、それはイメージの甘さ。盾の“強度”や“支え”をより具体的に想像せねばならん。再構成とは似ておるが、魔法は魔法としての“意味”を持たせねばならぬ」


 続いて試したのは、闇属性。


「闇は“遮る”と“呑む”属性じゃ。光の反対にある性質じゃな。感覚がつかみにくければ、自身の影に意識を向けてみよ」


「……うん。影……」


 ユイは自分の足元にある影に手をかざす。すると、ほんの一瞬、影がゆらりと波打つように動いた。


「な、なんか……冷たい感じがする」


「それで正解じゃ。闇は冷静さを求める。焦る心では操れぬ」


 ユイは指先に魔力を集中させ、影を細く伸ばすように意識を向ける。すると、影がゆっくりと延び、地面に沿って細い線を描いた。


「これは……武器になったりするの?」


「闇魔法の初歩には“幻惑”や“視覚妨害”があるが、使い方次第では影を刃にする者もおる。だがそれには繊細な操作が求められるゆえ、焦らず進むのじゃ」


 午前中の訓練が終わった頃、ユイはふう、と深いため息をついた。


「……土と闇、面白いけど難しいなぁ」


「そりゃあ、魔法というものは本来、何年も修行してようやく会得するものじゃ。今のおぬしの成長速度は十分異常じゃよ」


 その横で、ミルが「キュイ」と鳴いた。その瞬間、彼の尻尾の先から、ふわりと金色の光が弾け、空中に小さな矢のような光弾が生まれた。


「えっ、ミル!?」


 その光はまっすぐにグリュンの杖に向かって飛び、寸前でグリュンが片手を上げて魔力で弾き飛ばす。


「……ほう、聖魔法の“聖光弾”か。しかも詠唱なしで放ったな」


 ユイは呆然とミルを見つめる。


「……そんなの、教えてないのに……!」


 ミルは何事もなかったようにユイの足元に座り、誇らしげに尻尾を振る。


「キュイ!」


 夕刻になり、訓練場の隅で焚き火を囲みながら、ユイは頬を紅く染めてスープをすすっていた。


「……疲れたけど、なんか楽しいかも」


「ふふ、それが“成長の兆し”じゃ」


 その夜、ユイは再びチュートリアルと会話する。


(チュートリアル、今日の記録は?)


《本日の魔力消費総量:1620。魔力量上昇:4。現在の魔力量:7436(560)》


(ミルの魔法……あれって、本当に聖魔法?)


《解析結果:高純度の聖属性魔力を観測。詠唱は省略。特異な習得方法により推定学習経路不明。成長段階において説明不可領域あり》


(うーん、よくわかんないけど……やっぱりミルって、ただの動物じゃないんだなぁ)


《ユイ様の観察力は有効です》


(それって褒めてるの?)


《はい、全力で》


(……ありがと)


 そう呟きながら、ユイは微笑んで布団に潜り込んだ。


 次回は、ついに賢者との模擬戦――。


 小さな体の中に、わずかな緊張と、少しの期待が膨らんでいくのだった。

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