第15話:はじめての“つり”
ミルの傷は、数日でほぼ癒えた。
グリュンの回復魔法の効果と、ユイの看病によるものだ。
「ミル、きょうはお肉があるよ!」
ユイは嬉しそうに干し肉を差し出す。
が――
「……クゥ」
ミルはひとくち噛むと、困ったような顔をして首を傾げ、そっと地面に置いた。
「えー……がんばって作ったのにぃ……!」
ユイは肩を落とし、グリュンにすがるように言った。
「グリュン、ミルがたべてくれない……」
「ふむ、では今日は湖へ行くとしようか。釣りでもしながら、好みを探ってみるかの」
「え? つりって、お魚の?」
「うむ。おぬしにぴったりの木竿もあるぞ」
***
三人は小屋を出て、東の湖へ向かった。
穏やかな水面が広がるその場所は、野生の魔物も少なく、狩猟には最適な環境だった。
「こうやって、糸を垂らす。あとは静かに待つんじゃ」
「わかった!」
グリュンが竿を下ろすと、ほどなくして針が跳ねた。
「おっ、きたきた」
釣り上げた魚は銀色に輝き、ミルはそれを見るやいなや――
「キャッ!」
魚に飛びかかり、そのままガブリと食いついた。
「……はやっ!」
「ふむ、どうやらミルの好物は“魚”のようじゃな」
「よかったぁ……。じゃあ、わたしもたくさん釣る!」
そう意気込んだユイだったが、彼女の釣り竿には当たりすらこない。
***
「なんで……グリュンはいっぱい釣れるのに……」
帰り道、しょんぼりと歩くユイ。
(ユイよ……すまぬな)
実は湖にいる魚の多くは、グリュンがこっそり魔法で瀕死にしていた“魔物”だった。
生肉=魔力のある肉でなければ、聖獣は食さない。
ユイの竿にかかるのは、普通の元気な魚たちで、針ごと噛み切って逃げていたのだった。
「まあ、今日はミルの好みがわかっただけでも収穫じゃな」
「うん……でも、つぎはいっぱい釣りたい!」
ユイの純粋な気持ちに、グリュンはそっと笑った。
***
【現在の魔力情報】
最大魔力量:1150(使用上限:190)
《観察》スキル:レベル2
《保存加工》スキル:レベル2
《鑑定》スキル:習熟度18%(誤認の可能性あり)
ミル:ツクミ(聖獣)/幼体/魔力活性肉のみ摂取可能
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