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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第十一章〜西国の豪傑〜

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鳥羽・伏見、開戦の刻

 慶応四年一月



 ひとつの銃声が、開戦の合図だった。

 そこから伏見の状況は一変し、銃声や砲撃の音が町中に響き渡っていた。




「おい、かなた! 悪ぃが、サラシを三十ほど持ってきてくれ!」


「はい!!」


 そう原田が正門から叫べば、かなたが走り回る。


「野村! こっちには米二俵だ!」


「わかりましたぁ!」


 そう永倉が叫べば、野村が走り回る。そんな日々が続いていた。

 伊東の死から、皆一様に後悔を背負いながら日々を生きている。


 そこへ、藤堂が慌てた様子で屯所へと駆け込んできた。


「おい、やべーって! 戦が始まってから、また避難者が増えてる! もう三条の方まで寺は一杯だ!」


 すると山南が奥からすぐに現れ、藤堂に寺の位置を示した地図を渡した。


「では、洛外(らくがい)の北の方の寺へ民たちを移しましょう。お寺側には、何軒か文を送っていますので、話は通ると思います」


「わかった! じゃあ、監察方に話をつけるよう頼んでくる!」


「ひ、ひぃ……これじゃあ身が持たねえっすね……」


「そ、そうだね……山南さん、的確な指示をありがとうございます」


 膝に手をつく野村とかなたに、山南は相変わらず屈託のない優しげな顔で、にこりと笑う。


「いえ、私にはこれくらいしか出来ませんから」


 そう言うと、山南はまた奥へと去っていった。


「そろそろお昼の時間だし、私たちも休憩しようか」


「そうですね……あっ、俺は先に行ってますよ!! はい!」


 急によそよそしくなった野村を不思議に思い、かなたはその視線を追って後ろを振り返る。

 するとそこには、今しがた戻ってきたのであろう土方が、爆発しそうなほどの形相で正門に立っていた。


「あ、あれは……放っておこうよ……」


「い、いや! 無理ですよ! 中村さんしか無理ですって!」


 そんなやり取りをしている二人に、土方はズカズカと近づくと、かなたの首根っこを掴み、そのままずるずると引きずって連行しはじめた。


「中村さん、どうか達者で……!」


 そんな野村の声も遠ざかり、かなたは嫌な汗をかきながら、土方に部屋へと連れていかれるのだった。




 ――――





「そ、それで? どうかしたんですか?」


 恐る恐る口を開くかなたに、土方は自分を落ち着かせるようにため息をついた。


「新政府の奴らがな、こっちにいちゃもん付けてきたんだよ」


「ええ?! 何をいまさら…」


 新政府というと、薩長率いる帝側の名称で、幕府側は今や旧幕府軍と呼ばれている。

 あと少しもすれば、幕府の人間は賊軍として北へと追い詰められていくのだろう。


「町年寄に捕縛者を渡している件で、お前らは表では幕府を抜けたと言っているが、裏では協力関係にあるんじゃないかと…そう言われたんだ」


 たしかに、そう疑われてもおかしくはない。

 だが、町の人々のために尽力している中でそんなことを言われるのは、やはり胸に引っかかるものがあった。


「そうですね…あちらの言いたいことは分かりますけど、こっちも必死にやってるのに、なんだか理不尽ですね」


「だろ?!」


 土方も珍しく冷静さを欠いているようで、まるで沖田のように唇を尖らせている。

 かなたは顎に手を当てて少し考え込むと、やがて口を開いた。


「これから先、そう言われて新選組の立場が危うくなるのも困りますよね…なのでここはひとつ、新政府のお偉いさんに話を通してみませんか?」


「新政府のお偉いさんに会ってどうすんだよ? まさか新政府側につくなんて言わねぇだろうな」


「それをしたら、隊士たちも不満だらけでしょうから…あくまでこちらの独立は維持しましょう。その条件で、和睦を結ぶんです」


 うまくいく保証はない。

 それでも、新政府側に話をつけるのが一番手っ取り早い方法だろう。


 独立を維持する以上、あちらの厳しい条件を飲むことになるかもしれない。

 それでも――隊士や町の人々の安全が、何より優先されるべきだ。


「まあ、他に手がねえとなると、そうするしかねえのか…」


 土方は不服そうに眉を寄せたが、それでも否定はしなかった。


 すぐに二人は、近藤と山南に相談するため、招集をかけることにした。

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