また一つの訃報
それから二日後。
かなたが日々届く物資の計上をしていると、屯所の入口の方から騒がしい声が聞こえてきた。
「? なんだろ……」
気になって玄関の方へ足を運ぶと、隊士たちがわらわらと群がっているのが見える。
その人だかりの先には、見覚えのある姿があった。
「斎藤さん!」
「……中村か。久しぶりだな」
斎藤はそう言うが、彼とはつい最近会ったばかりだ。
かなたは斎藤のもとへ駆け寄ると、他の隊士たちに聞こえないよう、そっと彼の耳元に顔を寄せた。
「……あの、もしかして……伊東さんの件ですか?」
伊東の件といえば、史実では伊東が近藤暗殺を企み、それを察知した新選組が先に彼を粛清するはずだった。
しかし、かなたが歴史を変えたことで、その流れは無くなっていた。
それでも斎藤が堂々と屯所を訪ねてきたということは、伊東の身に何かあったのだろうか。
そう思案していると、斎藤は言葉を濁すように目を逸らした。
「……まあ、そうだな。詳しい話は副長の部屋でしよう。お前も来い」
そう言われ、かなたは斎藤を先に土方の部屋へ向かわせると、茶を用意してから後を追った。
――――
「失礼します」
襖を開けると、火鉢を前に土方と斎藤は神妙な顔つきで座っていた。
かなたは部屋へ入り、茶を二人に渡して恐る恐る口を開く。
「あの…それで…」
「ああ…」
斎藤は茶を口に含むと、少しだけ目を伏せた。
「昨日、決起会を開いた御陵衛士は、その後の帰りに襲撃に合い……全滅した」
「……!」
驚いて言葉が出ないかなたを前に、土方は腕を組むと深くため息をついた。
「伊東さんは元々、少し前から近藤さんの暗殺を企んでたようだ。だが、俺は斎藤に、暗殺計画をやめて、また一緒にこっちでやらねえかって、説得を頼んでたんだけどよ…」
そう語る土方の目には、少し悔しさが滲んでいるようにも見える。
「あの…襲撃者は一体?」
かなたの問いに、斎藤は少し悩むように目を細めた。
「確実とは言えないが、きっと幕府の関係者だと…俺は思っている」
斎藤はその場に居合わせていなかったのか、憶測でしか語れない様子で、その言葉に土方もかなたも何も言えずにいた。
「仕方がねえ…よな…お前が無事でいてくれただけで、良かったぜ」
「痛み入ります」
二人のやり取りを見ながら、かなたの脳裏には鈴木の顔が浮かぶ。
(鈴木さんは、知ってるのかな…)
そんなかなたの心中を察したのか、斎藤がゆっくりとこちらへ顔を向けた。
「実は、ここに来る前に、鈴木にはもう報告したんだ」
「…そ、そうなんですか? あの、鈴木さんは、どんな感じでしたか?」
「結構、すんなり受け入れているような感じだったな。俺も少し驚いたんだが…」
「そうですか…」
本当に大丈夫だろうか。どんなに仲違いをしても、血を分けた兄弟だ。切ってもきれぬ縁はある。
「行ってこいよ、鈴木の所へ」
「え…」
そう告げる土方に、かなたは少し戸惑う。
だが、土方はそんなかなたに困ったように眉を下げ、ふっと微笑んだ。
「気になるんだろ? 俺たちじゃ、あいつを励ますことなんて出来ねぇからな…行ってやってくれ」
「……わかりました」
土方の気遣いに胸が締めつけられる。鈴木のことを思うと、目の奥がじわりと熱くなった。
そしてかなたは、部屋を後にする前に、土方へと向き直る。
「あの…土方さん、一つお願いしてもいいですか?」




