表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第十章〜龍の背中〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/91

近江屋

遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。

今年も何卒、よろしくお願い致します!

 それからしばらくして、かなたと土方は四条通り近くにある駐屯所へと足を運んだ。すでに土方から事情を聞いていたのだろう、この地域を担当する監察方の隊士が、近江屋の周囲を見張ってくれていたらしい。

 その隊士の報告によれば、近江屋の周辺には怪しい人影がいくつかあり、まるで店を監視しているようだという。

 いつからか降っている雨のせいで、身を隠すには絶好の機会だ。


 土方とかなたは見廻組に気付かれぬよう、笠を深く被り、醤油を買い付けに来た兄弟を装って近江屋へと足を踏み入れた。


「ごめんください」


「はいはい~」


 かなたの声に応じ、店主が奥からひょっこりと顔を出す。かなたは、その店主に無言で坂本からの手紙を差し出した。


「ああ...才谷はんの...上へどうぞ」


 坂本直筆の手紙を持って来ておいて正解だった。

 かなたは無事に奥へ通されたことに少し安堵し、土方と顔を見合せると、階段を登り始めた。


 ギシッ、ギシッと床を軋ませながら二階へ辿り着くと、二人は狭い廊下の先にある扉をガラリと開ける。そこには醤油樽がいくつか置かれており、樽専用の物置のような空間が広がっていた。

 どうやら、その奥にもうひとつ扉があるようだ。かなたと土方はその前で膝をつき、息を整えてから声をかける。


「坂本さん、新選組の中村です」


 その言葉を口にした瞬間、背後に気配を感じ、土方は反射的に振り向いた。

 だが、その動きは後頭部に当てられた硬い感触によって、あっけなく止められる。


(...短銃ピストル...か...?)


 横目で確認すると、かなたの首元には刀が突きつけられていた。かなりまずい状況だ。

 この場をどう切り抜けるべきかと思案した時、背後の人物が声をこぼした。


「おまんら、新選組言うたがか?」


 気配からするに、背後にいる人物はただ一人。坂本と同じ土佐弁を喋る男に、かなたが何かを察したように小さく瞬きをしている。

 その直後、目の前の扉が勢いよく開き、背後の男へと鋭い喝が飛んだ。


「おい!中岡!こいつらはわしの友人じゃあ!」


「...坂本さん!」


 坂本を前に声を上げるかなたの後ろで、中岡と呼ばれた男は苦虫を噛み潰したように顔を歪める。


「ああ? 坂本...おまん、新選組とも仲良うしちゅうがか?!」


「こいつらは特別ぜよ...さ、刀と短銃(ピストル)を収めろ」


 坂本にそう言われた中岡は渋々刀を鞘に戻し、短銃ピストルを懐に収めた。

 それを見届けると、坂本はふっと表情を緩め、かなたたちへと向き直る。


「かなたに土方も、よう来たのう。まあ、中に入れや」


 坂本は二人を部屋の中へと促し、続けて「お前も入れ」と言わんばかりに、中岡へ顔を向けた。

 土方は部屋へ入ると、ちらりとその間取りを見やる。かなり狭い部屋だが、窓はあるようだ。


「おい、坂本。こっち側に座ってもいいか」


「ん? ええぜよ」


 土方は坂本の了承を得ると、窓側へと場所を取り、かなたを隣へと呼び寄せた。そして、外の様子をうかがうように、窓をほんの少しだけ開ける。

 見たところ、見廻組がこちらへ近づいている気配はまだないようだ。


 部屋の扉が閉められたところで、坂本は二人の顔をまじまじと眺め、にこりと笑った。


「それで、急にどうしたがぜよ? ここに居ることは、誰にも言うちょらんかったがやけど...」


 何からどう話すべきか、かなたは考えているのだろうか。

 土方はその様子を案じるように視線を向けるが、かなたの目にはまだ、決めきれない揺らぎが残っている。


 その心理を読みとったのか、坂本は少し話をそらすように中岡へと顔を向けた。


「さっきは、こいつがすまんかったのう。こやつはわしの同郷でな、中岡慎太郎なかおかしんたろうちゅうもんじゃ。中岡、こっちぁ新選組の副長の土方と、その小姓のかなたぜよ」


「フンッ」


 まだ気に食わない様子の中岡は、鼻を鳴らして顔を背ける。

 そんな中岡の姿に、坂本は「困ったやつだ」と言うように眉を下げた。

 その様子を見ていると、つい先ほどまでの緊張が嘘のように、肩の力が抜けていく。

 見廻組の存在すら、一瞬忘れてしまいそうになるほどだ。坂本の纏う空気には、不思議と人を和ませる力があるように思える。


 かなたはそう思うと一息ついて、坂本を真っ直ぐと見つめた。


「坂本さん、実は私...未来から来たんです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴史 / タイムスリップ / 新選組 / 幕末 / 恋愛 / 土方歳三 / 女主人公 / コメディ / シリアス / すれ違い / 幕府 / 和風 / 江戸時代
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ