表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第十章〜龍の背中〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/91

不穏

 先月ついに、幕府の終わりの鐘となる、大政奉還(たいせいほうかん)がなされた。

 帝側の新政府軍と、幕府側の旧幕府軍による戦が、いよいよ始まりを見せている。


 幕府の傘下を抜けた新選組は、戦に出陣しないとはいえ、この町の混乱を収めなければならない。最近は、かなたも市中見回りに同行したり、駐屯所からの情報をまとめたりと、忙しい日々が続いていた。


(気が抜けない時期になってきたな...)


 町民の不安が募るにつれ、その混乱に乗じた犯罪も後を絶たない。都度、隊士を募ってはいるが、まだまだ人手は足りないのだ。


「猫の手も借りたいよ」


 かなたはそう呟きながら、自分の横で眠っていたミケ子をひと撫でする。

 すると、ドタドタと誰かが駆けてくる足音が聞こえてきた。


「かなた、いるか?」


「土方さん。どうしました?」


 土方は、部屋の周囲に人の気配がないのを確かめると、障子をピシャリと閉める。そして、真剣な面持ちでかなたの前に腰を下ろした。


「最近、伏見のとある宿周辺を見廻組が見張っているらしい」


「...え」


【伏見のとある宿】


 その言葉を聞いて、真っ先に坂本龍馬の姿が脳裏に浮かんだ。

 思えば、ここ最近めっきり坂本から手紙が来ていない。なぜ、もっと早く気づかなかったのだろうか。季節はすでに、坂本が暗殺された年月(としつき)だ。

 市中の混乱や、やるべきことに追われるうちに、その違和感はいつの間にか記憶の端へと押しやられていた。


見廻組(あいつら)は気付かれてねぇつもりだろうがな...新選組(うち)の伏見に常駐してる監察方が、察して連絡よこしてきたんだ」


 土方は眉を寄せ、かなたを真っ直ぐに見据える。


「坂本のことは気に食わねぇが、恩がある。あいつお陰で、今の俺たちがあるのも事実だ...伝えに行くか?」


 だが、坂本は今は伏見にはいないはずだろう。

 かなたは少し考えると、土方へと視線を向けた。


「坂本さんは今、伏見にはいないと思います」


「そうなのか?」


「はい...確か、四条にある近江屋(おうみや)という醤油屋さんに下宿しているはずです。見廻組が伏見にいたのは、坂本さんの動向を探るためだったのかと...」


「そうか...」


 ーー行くべきなのか。


 そんな思いが頭をかすめる。

 かなたは不安に突き動かされるように立ち上がると、無意識のうちに拳を胸元へ添えた。

 新選組以外のことで、むやみに歴史を変えたくはない。けれど相手が坂本のこととなると、どうしても気になる。


 かなたが立ち尽くし言葉を失っていると、土方は座ったままその様子を見上げ、口を開いた。


「お前の顔見てたらわかる。あいつの身が危ねぇんだろ? どうする。行くか?」


「えっ...と......」


 行ったところで、自分に何ができるだろうか。事情を説明して下宿先から逃がすか、それとも見廻組と対峙するか。どちらにしても、土方だけでなく新選組も巻き込んでしまう。

 かなたが視線を落としたまま黙り込むと、土方は立ち上がりかなたの肩を掴んだ。


「俺はお前に、行って後悔するより、行かないで後悔する方を選んでほしくねぇ。行くなら...俺が連れてってやる」


 その真剣な眼差しを前に、かなたは胸の奥で揺れていた迷いを押し込めるように、拳を握りしめた。


「行きます......!」


「わかった。じゃあ、すぐに準備して表で待ってろ。俺は近藤さんに事情を説明してくる」


「わかりました」


 部屋を去っていく土方の背を見送ると、かなたはすぐさま外に出る準備を始めた。

 震える指先をぎゅっと掴み、深く息を吸う。


 行って、何をすべきなのか。どう動くのが正しいのか。

 答えの出ない思考だけが、頭の中をぐるぐると巡り続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴史 / タイムスリップ / 新選組 / 幕末 / 恋愛 / 土方歳三 / 女主人公 / コメディ / シリアス / すれ違い / 幕府 / 和風 / 江戸時代
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ