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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第十章〜龍の背中〜

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一の兆し

 ザァーっと雨が降り続ける中、土方は小走りに道を進んでいた。雨に追われるように閉まった店の軒先を見つけると、すぐさま身を滑り込ませる。


「少し、雨宿りさせてもらうぜ」


 そうひとりごちながら着物の裾を絞っていると、笠を被った一人の男が、同じく雨を避けるように土方の隣へと駆け込んできた。

 しばしの沈黙の後、男は懐から一枚の紙切れを取り出し、まるで何事もないかのように土方へと差し出す。土方はそれを受け取って目を通した途端、思わず目を見開き、低く息を漏らした。


「なにっ...」


「どうされますか? 副長」


 男はそう呟くように問いかけながら、笠の縁に指をかけ、さらに深く被り直す。


「...説得は出来ねぇか?」


 その土方の言葉に、男はわずかに目を細めた。紙に記されているのは、瓦版のような気軽な話ではない。土方にとっては、大切な人間の生死を分けかねない内容だ。

 それでも彼は、裏切ったも同然とも言える相手に、なお慈悲を与えようとしている。

 

「やれるだけ、やってみます」


「ああ。だが、無理と判断したらすぐに戻ってこい」


「...御意に」


 男はそれだけ言うと、降り止まぬ雨の中へ去って行く。


 土方は手に残った紙切れを足元の水溜まりへ浮かべると、跡形も残らぬようそれを踏みつけた。

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