遊ばないワケ
今週は単話のため、2話投稿です。
よければ次話も閲覧お願いします!
「山南さん、どうぞ」
「ありがとうございます」
山南はかなたから米の入った茶碗を受け取ると、自身の膳に置き、静かに手を合わせた。
「いただきます」
その合掌を合図に、広間の隊士たちが一斉に箸を取り、飯を口へ運ぶ。かなたも支度を終えると、山南の隣に腰を下ろし、味噌汁の碗へと手を伸ばした。一口含むと、ほっと力が抜ける。
この仕事終わりの一杯が格別なのだ。
などと、酒を口にした永倉が言いそうなことを考えていると、山南が箸を止めてかなたの方へ笑みを向けた。
「今日は彼らがいないので、静かですね」
山南のいう"彼ら"というのは永倉、藤堂、原田のことだろう。あの三人は毎日のように飯の取り合いをしていて、とにかく騒がしい。そのたびに、穏やかな山南の顔が少しずつ歪んでいくのだから、見ているこちらの身にもなってほしいものだ。
仏の顔が鬼の形相へと変わる瞬間を思い出し、かなたはその記憶を頭の奥へとしまうと、にっこりと笑った。
「そうですね」
当の本人たちは、どうやら土方と沖田、そして鈴木と祇園へ出かけているらしい。
そう知ったのは、土方からかなたのもとへ届いた一通の手紙だった。そこには、「今日の夕餉は用意しなくていい」という用件とともに、祇園にいる旨が簡潔に記されていた。
「それにしても、土方君が花街へ行くなんて久しぶりの事ですね」
山南のその言葉に、かなたは土方が出かけた記憶を思い返してみる。確かに、よく考えてみれば、ここ最近で彼が花街へ足を運ぶ姿を見たのは、かなたと君菊の置屋を訪れたときくらいだろうか。
その出来事でさえも三年も前の話なので、かなたの知る限りでは数年は行っていないことになる。
「確かにそうですね...なんで行かなくなったんでしょう?」
「さあ? 何ででしょうか?」
山南は意味ありげに微笑むと、何事もなかったように再び箸を動かし始めた。
「...?」
よく分からないが、まあ...いいだろう。気晴らしになるのなら、それでいい。
かなたはもう一口、味噌汁をすすると、「ふぅ」と肩から力の抜けた息を吐いた。




