鈴木は仲間になりたそうにこちらを見ている。
町中を歩く時は、いつ何時も油断してはならない。新選組という組織が幕府の元を離れたからと言っても、恨みつらみを抱えている奴らは山ほどいる。
土方は周囲へ気を配りながら、沖田と並んで飯屋への道を進んでいた。
七条大橋に差し掛かったところで、橋のたもとに見覚えのある男が立ち止まっているのが目に入った。といっても、見えているのは後ろ姿だけだ。それでも誰か分かったのは、男の肩に乗っている猫のおかげだった。
三毛猫は器用に胴体だけを男の肩に預け、手足をだらんと垂らし、これ以上ないほどくつろいでいる。
猫はこちらに気づくと、目を細めて「にゃあ」と機嫌よく鳴いた。その声につられるように、男が振り返る。
「土方と沖田じゃねぇか。何してんだ?」
「お前こそ何やってんだよ。鈴木」
鈴木はダルそうに欄干に肘をつくと、親指で川をさした。
「前に原田が、ここで魚が取れるっつってたからよぉ、取れねぇかと思ってよ」
そうは言っているが、見たところ鈴木の手元に釣竿らしきものは無い。ただ見ているだけでは、何も取れるわけがないのに。
(こいつは馬鹿なのか?)
土方の心中とは裏腹に、沖田が空気を読まずに笑顔で口を開く。
「でも、鈴木さん。釣竿が無いと釣れませんよ?」
「そこまで行動するのには、まだ俺のやる気が足らねぇんだよ」
そう言うと、鈴木はまた川を見つめはじめる。彼がそれでいいのならいいのだろう。
土方は無理やり納得すると、面倒くさくなる前にその場を去ろうと足を踏み出す。
しかしそんな思いをよそに、鈴木は思い出したかのように「そういえば...」と呟いた。
「お前らは何しに来たんだ?」
まずい。彼に飯屋に行く言えば、間違いなく自分も行くと言い出すだろう。それに、どうせ沖田のことだから勘定を自分に払わせるに違いない。
どうにか誤魔化せないかと考えたが、時すでに遅し。沖田が嬉しそうに満面の笑みで答えた。
「焼き魚が美味しい、と評判の飯屋に行くんです」
「ほーう。それはいいな。俺も行く」
土方はその言葉に肩を落とし、深々と溜息をつく。既に歩き始めている二人の勢いは、もう誰にも止められない。
観念した土方は、黙って鈴木と沖田の後を追うしかなかった。




