魚の気分
それから一ヶ月ほどが過ぎ、駐屯所の設置場所や駐在する隊士の割り振り、屯所からの出動要請の規律などが一通り整えられた。
「くっ...ああ〜」
土方は大きく伸びをしながらあくびを漏らし、縁側を跨いで畳にごろりと寝転がる。
かなたが発案した駐屯所のおかげで、仕事の半分ほどが他の隊士に分担されるようになった。
決まってからの一ヶ月は、駐在先となる店や空き家の持ち主への挨拶回りで慌ただしかったが、それもようやく落ち着いてきたところだ。
土方はぼんやりと向こうの空を眺めていると、またひとつ大きなあくびを零した。
そのまま瞼がじわじわ重くなり、外に背を向けて横向きになる。意識が沈みかけたその時、軽い声が耳を突き抜けた。
「土方さーん」
この声の主は沖田だ。こいつはうるさいので無視して、寝続けよう。
そう思った矢先、沖田が土方の部屋にずかずかと入ってきて、彼の肩を揺さぶり始めた。
「土方さん。寝てるんですか? 土方さん!」
「だぁ!もう、うっせーな!なんだよ!」
「起きてるんじゃないですかぁ」
「寝入る所だったんだよ」
少し不貞腐れながらも上体を起こすと、沖田はにこにこと笑いながら目の前に座り込む。
「仕事が減ったからって、サボっちゃだめですよ〜」
「さぼ...?」
初めて聞く言葉に、思わず顔を歪ませる。すると、沖田は「かなたさんが教えてくれたんですよ」と、得意げに笑った。
「未来では、怠けることを『サボる』や、『サボった』と言うそうです」
かなたの口からは時々、妙な言葉が飛び出すが、未来では皆不可解な言い回しで暮らしているのだろうか。
行くはずもない未来の生活を想像し、土方が頭を悩ませていると、沖田が眉を下げ、可愛らしい瞳でこちらを覗き込んだ。
「土方さん、暇なら今から出かけましょうよぉ」
「嫌に決まってんだろ。久しぶりの暇だぞ」
「そんなこと言わないでくださいよぉ。引きこもってばかりも体に悪いですよ!ほら、美味しい焼き魚を出してる飯屋さんがあるんですよ!そこ行きましょ!そこ!」
魚か...悪くはない。
土方は渋々立ち上がり、羽織に袖を通した。どうにも、弟のような沖田の頼みごとには弱いのだ。




