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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第九章〜しなければ迷わぬ恋の道〜

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頑張る理由

 かなたの日課のひとつは、土方の部屋を掃除することだ。特に忙しい日なんかは布団もそのままに、彼は仕事にとりかかる。

 新選組が会津藩お預かりを抜けてからは、町の商人や町年寄、火消しなどと協力して活動しているので、土方は連日そのやり取りに追われていた。


「土方さん、入りますね」


「おう」


 今日も例に漏れず、起きて朝餉を済ませるとすぐに筆を取ったようで、布団や着替えが散乱している。あの、マメな土方がこんな風になっているのだから、かなり忙しいのだ。


 かなたは障子を開けて風を通し、布団を押入れに突っ込むと、脱ぎ散らかしている着物を畳んで箪笥へしまった。

 次に、文机の横に積まれた紙束を整え、乾燥させた茶葉を畳の上に撒き、箒で掃く。

 一通り片付け終わったところで、土方が口を開いた。


「いつも、すまねぇな」


「いえ、特に最近はお忙しいですから...」


 かなたも時々、土方の仕事を手伝っているし、他の隊士にも出来ることは回している。

 それでも、明らかに手が足りていない。


「これも最初だけだと思ってはいるが、ここまで続くといつ終わるかさえも検討がつかねぇな」


 その言葉を聞いてかなたは、「うーん」と唸る。他にも土方と同等に役職を与えられればいいのだが、そうなると隊士の数もお金も必要になる。

 とはいえ、独立してから半年は経ったのだから、そろそろ新しい案を入れてもいい頃だろう。


(近々、またみんなを集めて話し合おう...)


 そんなことを考えていると、土方がふとこちらを振り返った。


「そういえば、れもねいどってやつ、美味かったぜ。ありがとな」


「それは良かったです!あれは冷たくするとさらに美味しくなるので、土方さんが良かったら、また今度一緒に大坂に飲みに行きましょう」


「そうだな」


 そういってまた筆を走らせる土方を見て、かなたはその背中に近づいた。


「あの、今日は何か手伝うことありませんか?」


 土方はその言葉を聞くと、書類の山から一枚の紙を取り出す。


「じゃあ、町年寄への手紙を書いてくれねぇか。書きたいことはここにまとめてるからよ」


 新しい筆を取り、土方は紙と一緒にかなたに手渡した。


「わかりました」


 かなたはそれを受け取ると、文机の上の書類を移動させて土方の隣に腰を下ろす。

 筆を動かす彼女の真剣な目線に、土方はついそちらに顔を向けてしまう。


「......」


 そんなに見られるとやりにくいのだが。かなたは思わず、土方をちらりと見た。


「あ、あの...どうかしました?」


「いや...前から思ってたんだが、お前字が綺麗だよな」


「え?」


 突然の言葉に、かなたは目を丸くする。すると、土方が筆を置き頬杖をついて言った。


「なんつーか、強弱があってしっかりとしてて、粋な男が書いてるみてぇな字だな」


 そこは、品があって可愛らしい字だと言って欲しかったが、まあいいだろう。


「綺麗だなんて、初めて言われましたよ」


 特にこの時代の『綺麗な字』、なんてものはよく分からない。なぜなら、かなたには全てふにゃけて見えるからだ。


「そうなのか? 多分、みんな思ってるぜ」


「あはは。それは言い過ぎですよ」


 土方の大袈裟な言葉に、かなたは小さく吹き出してしまう。


 そんな他愛もないやり取りを交わしながら仕事をしているうちに、どれくらいの時間が過ぎただろうか。

 かなたは手紙を書き終えると、筆を置き静かに息をついた。


「終わったか?」


「はい。...そろそろ、お昼ですね」


「そうだな。俺も一区切りついたし、今日は広間で飯でも食うかな」


「じゃあ私、ご飯の準備してきますね」


「ああ...なぁ、かなた」


 かなたが立ち上がろうとしたその袖を、土方がそっと掴む。


「...どうしました?」


「祇園祭に行きたいって、聞いたんだが...」


 沖田にでも聞いたのだろうか。もちろん行きたいのは山々だが、少し悩む。


「あ、そうなんです。あさって露店が出るって聞いて、土方さんを誘おうと思ったんですけど...お忙しそうなのでやめようかなって...」


 さすがにこの忙しさなら無理だろう。

 そう思っていると、土方がかなたの袖を掴んだまま、少しだけ体を引き寄せた。


「...頑張るから、行こうぜ」


「え...いいんですか?」


「おう」


 土方に甘えすぎではないだろうか。そんな思いが浮かぶが、彼がせっかくこう言ってくれているのだから、素直に喜ぼう。


「じゃあ、あさって夕方に出ましょう!」


「ああ。...それで悪ぃが、今日の昼飯はやっぱり部屋で頼む」


「わ、わかりました!すぐ持ってきますね!」


 バタバタと駆け出していくかなたの背を見送りながら、土方は小さく息を吐き、畳の上にごろりと横になる。


「ふぅ、頑張るか...」

どうしても、一緒に行きたい土方サン

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