酸味
土方は湯呑みに入っているそれを見やる。沖田がかなたと一緒に買ってきてくれた大坂土産の、「れもねいど」という異国の飲み物らしい。
びいどろの入れ物から湯呑みに注ぐと、シュワシュワと音が鳴り、中ではパチパチと何かが弾けている。
「土方さん、飲まないんですか?」
目の前にいる沖田は、いつもより少しだけ疲れたような顔でこちらを見つめていた。
「ああ、頂く」
湯呑みを傾けた瞬間、土方は目を見開く。
「すっ....!」
そして舌に来る酸味に、思わず顔をすぼめた。
「あはは。でも、美味しいでしょう?」
「...そうだな。喉に来るこの感覚はなんだ?」
「ああ、それはかなたさんによると、『たんさん』というものらしいです」
異国には妙なものが多いのだな。
土方はそう思いながら、少し落ち着かない様子で湯呑みを置き、腕を組んだ。
「まあ、その...二人が無事に帰って来れてよかった」
「ええ、何事もなくて良かったです」
「で、あの件はどうだったんだ?」
きょとんと首を傾ける沖田に、土方はそっと耳打ちをする。
「その....初恋とかなんとか.....」
「あぁ〜......」
沖田は納得したかのように相槌を打つと、白々しく目を泳がせた。
「あー、えーと...それはですねぇ....」
「なんだよ。早く言えよ」
勿体ぶる沖田に、土方は眉をひそめる。
「あー...かなたさんに初恋の人は居ませんでした!」
「...そうなのか?」
「はい!えっとーなんていうか...はい!居ませんでした!」
沖田は平然と嘘をつく。だが、これも仕方がない。初恋の人は土方でした、と話すとその後が色々とややこしくなる。土方が灰になって消えてしまえば、かなたも悲しむだろう。
「...そうか」
「は、はい...」
ほっとしたような、どこか残念なような土方の表情に、沖田は少し複雑な気分になる。
さすがに、嘘をついたままでは後味が悪いので、せめて二人の仲が少しでも進展するよう、ここは助言でもしておこう。
「そういえば、かなたさんが祇園祭に行ってみたいな〜なんてこと言ってしまたよ!」
「祇園祭?」
「はい!また、かなたさんからお話来るかもしれません!では、僕は巡察があるので!」
失礼しますっ。と沖田は足早にその場から去っていった。
「なんだあいつ...」
なにか様子がおかしいが、これ以上追求も出来ない。
土方は湯呑みを傾けると、再び顔をすぼめた。




