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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第九章〜しなければ迷わぬ恋の道〜

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初恋の人

「うぅ...食べすぎた.........」


「少し、欲張り過ぎちゃいましたねぇ」


 部屋の隅で腹をさするかなたに、沖田は眉を下げて笑う。色々と見て回っていたら、いつの間にか日が暮れていた。


「はい...もう当分食べられません」


「お茶ここに置いときますから、落ち着いたら飲んでくださいね」


 かなたの心配をしつつお茶を差し出した沖田は、少し悩んだように腕を組んだ。


「それにしても、宿が一部屋しか取れなかったのは誤算でした」


 土方に「部屋は別々で」と約束した手前、少し申し訳ない。


「私は気にしないので、大丈夫ですよ」


 そう言って笑うかなたに、不用心というか、信用し過ぎというか、どこか土方に向けたのと同じ種類の心配をしてしまう。もちろん、かなたにそういった想いを抱いたことは無いが、自分も男だ。少しは警戒して欲しい。


「かなたさん。僕だから良いですけど、他の人にはちゃんと警戒してくださいよ?」


「あはは、分かってますって」


 軽く笑うかなたに、沖田は少し唇を突き出してしまう。


「とりあえず、宿の人に衝立でも借りてきましょうか」


「そうですね」


 沖田の気遣いを無下には出来ないので、かなたは素直に頷いた。

 衝立を真ん中に立て、それぞれ布団を敷いてとこに着いたところで、沖田が行灯に手を掛けた。


「さて、と。じゃあ、寝ましょうか」


「はい。明日は異国の物巡り、でしたよね?」


 食べ物のことですっかり忘れていたが、今回の目当ては異国の物産を見て回ることなのだ。


「ええ。なんでも口に入れるとシュワシュワ、パチパチとする水があるみたいですよ!」


「シュワシュワ、パチパチ?」


 そう聞くと、炭酸飲料しか思いつかないが、この時代だとレモネードのことだろうか。


「ええ。しかも酸っぱくて、ほんのり甘いみたいです!」


「じゃあきっと、レモネードですね」


「れもねいど? って言うんですか?」


「この時代だとそれが流通してたってのは聞いたことあって、確実では無いですが...多分それだと思います」


「へぇ〜、楽しみだなぁ」


 レモネードに思いを馳せる沖田が可愛くて、ついかなたは口元を緩めてしまう。

 瞼がだんだん重くなり、意識が遠のきかけたその時、衝立の向こうから沖田の声が響いた。


「かなたさん、ひとつ聞いてもいいですか?」


「ん...どうかしました?」


「あの...初恋の人ってどんな人でした?」


 唐突な恋バナに、かなたの意識は一気に戻ってくる。急にどうしたのだろうか。


「は、初恋ですか?」


「ええ、なんか気になって」


 急な質問に少し驚いたが、まあ沖田は自分の恋路を知っているので話してもいいだろう。かなたは体をうつ伏せにして顔を上げると、衝立を少しずらして沖田の顔を見た。


「ええっと...私の初恋の人は....土方さんです」


 少し恥ずかしそうに答えると、沖田はポカンと口を開けたまま瞬きを繰り返す。


「えっと...土方さんが初恋ってことは....今が初めての恋って事ですか?」


 そう思うのも仕方がないが、そういうことでは無い。


「いえ。未来にいる時に、初恋だったのが土方さんなんです」


 新選組を好きになったのはいつだったか、父の書斎にあった新選組の小説を読んでから、特に土方の虜になった。


「運命なんですかねぇ...」


 沖田のその言葉に、思わずかなたは笑ってしまう。


「あはは、どうでしょうか。土方さんに恋してる未来人は多いと思いますよ?」


「ええ!? そうなんですか?」


「はい。沢山の人に慕われていますからね」


 その言葉に、沖田は嫉妬したように頬を膨らませる。


「ぼ、僕は?どうですか?」


「もちろん、沖田さんも人気ですよぅ」


「良かったぁ〜」


 歴史を変えてしまったのでこの先、新選組が人気なるかは分からない。だが、それでも変わらずに慕い続けられる存在にはなりそうだ。


「でも、初恋の人が今も好きっていうのは、なんだか物語みたいでいいですねぇ」


 その言葉に、かなたはドキリとする。けれど、嘘をついても仕方が無いので正直に話すことにしよう。


「あの...えっと...言いにくいんですけど、未来にいる時に他の人とお付き合いはした事はあるっていうか........」


「...え? お付き合いって言うと、その...恋仲になると言うことですよね?」


「は、はい....」


「もしかして......まだ、お付き合いしてるんですか?」


「さ、さすがにもう別れてますよ!」


 気まずそうに目をそらすかなたに、沖田はつい他のことも聞いてしまう。


「じ、じゃあ、恋人っぽいことも?」


「まあ...はい......」


「なっ...!」


 なんと、かなたは生娘では無かった。その事実に沖田は衝撃を受ける。これは絶対に土方には言えない。いや、言えば土方は傷ついて存在ごと消えてしまうかもしれない。


「ま、まあ、その...未来では土方さんは故人だったので」


 確かにそれは仕方がない。が、その事実は沖田の目を冴えに冴えさせた。

 かなたは、沖田の固まる姿を見ると、「今夜はずっとこのままかもしれない」と思い、そのまま瞼を閉じた。

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