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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第九章〜しなければ迷わぬ恋の道〜

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初めての土地

 ゆらゆらと揺れる舟に乗って、どれくらい時間が経っただろうか。何度か厠のために休憩を挟んだが、そろそろこの揺れのせいで気分が悪くなりそうだ。


「かなたさん、大丈夫ですか?」


「はい...なんとか....」


 沖田はかなたの背中をさすり、水の入った竹筒を差し出す。


「もうすぐ着きますから、あと少しだけ頑張ってください」


「はい。ありがとうございます...」


 水をひと口飲むと、喉が潤い少しだけ気分が和らぐ。一息ついたその時、遠くからざわざわと人の声が響いてきた。

 細い川路に入ると、先程まで緩やかに流れていた空気とはまるで一変して、賑やかな人の喧騒に包まれる。商人の声や、魚を焼く香ばしい匂い。京の町とは全く違うその活気に、かなたは思わず瞬きを繰り返してしまう。


「...わぁ!凄いですね、沖田さん!」


「ふふ。京の町とは似ても似つかないでしょう?」


 流石は"天下の台所"と呼ばれるだけあって、そこかしこで食べ物の匂いが漂ってくる。


「お兄さん達、着きましたえ」


 舟が岸に着くと、沖田は先に降り、かなたの手を取って岸へと導く。

 船着き場の階段をのぼり、通りへ出ると舟からは見えなかった景色が広がっていた。川沿いにはずらりと米俵や木箱が積まれ、荷を運ぶ人々が威勢よく声を張り上げている。軒を連ねる店からは呼び込みの声が飛び交い、行き交う人々の肩が触れ合うほどの賑わいだ。


「すごい人ですね...大坂も祭りか何かあるんでしょうか?」


「大坂は港町ですからね。不思議なことに、これが普通なんですよ」


 初めて来る町に目を奪われるかなたの様子が、沖田には子どものように見えて微笑ましくなる。


「そういえば、気分はどうですか?」


「あ...いつの間にか治ってます」


「では、腹ごしらえでもしましょうか!」


 そういうと、沖田は再びかなたの手を引いて屋台の並ぶ通りへと案内した。


「何がいいかなぁ...あ、ふな焼きなんてどうです?」


「"ふな焼き"?」


 魚のフナでも焼いているのだろうか。そう思って見てみるがどうやら違うらしく、薄く丸いクレープのような生地を焼いてその上に、味噌のようなものを付けている。


「折り曲げた形が、魚の鮒に似ているから"ふな焼き"と言うみたいですよ」


「なるほど....」


 沖田はふな焼きを二つ買い、一つをかなたに渡した。焼きたての香ばしい匂いと、ほのかな温もりに思わず頬が緩む。


「いただきます」


 口にしてみると、サクッとした食感とともに、ほのかな甘のある味噌の香りが広がった。どうやらこの生地は、小麦粉のようだ。そのせいか、どこかお好み焼きのようでもあり、甘さの中にはどら焼きを思わせる素朴さもある。

 もしかして、これがその原型なのだろうか。



「美味しいです!」


「喜んでもらえて良かったです。まだまだ、沢山美味しいものがありますよ。お寿司も食べに行きましょうか」


「はい!」


 その勢いのまま、二人は見つけた店すべてに立ち寄るという暴挙に出たのだが、後悔するのはそう遠くない話だった。

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