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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第二章〜初めの改革と決意〜
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食の改善

かなたが江戸時代に来て、早いもので二週間が経った。慣れない土地で、慣れないことばかりするのは大変だ。特に重労働が多すぎる。その上、この時代の食事は質素なのだ。


(このままじゃ、斬られるより先に栄養失調で死ぬかもしれない...)


かなたは人生で初めて食べ物で命の危機を感じた。人の良いおだやかな山南に食の改善でも相談してみようかと、山南のもとを訪ねた。


「おや、かなたさんどうしました?」


「あの、今のご飯じゃ栄養が偏ると思って、改善したいのですが...」


「栄養...?」


“栄養”という言葉は、この時代では一般的ではないようだ。


「あ、えっと...とにかく、このままのご飯では体に悪いと思うのです!お金の問題もあると思いますが食事の改善をした方がいいと思います!」


かなたはキリッとした顔で押し通す。


「なるほど...確かにお金の問題はありますね。今日の夕食当番は井上さんなので、彼に食材のことを聞いて貰えますか?」


「わかりました!」


かなたは話が終わると急ぎ足で井上の元へ向う。


「井上さん!」


「中村君か、どうしたんだ?」


「山南さんに相談したんですけど、食事に偏りがあるので改善したいと思って....それで、食材の相場を知りたくて...。買い出しに同行させてもらってもいいですか?」


「私は構わんが...土方くんの許しを貰わないとな」


「あ、そうでした...」


かなたからのお願いで土方は許しをくれるだろうか。不安げなかなたを見て、井上は少し微笑みながら言った。


「ふむ...私から言っておこう。『手伝いが欲しい』とでも言っておくよ」


「え!いいんですか!ありがとうございます!」


それでも土方は許してくれるだろうか。そう心配していたが、土方はあっさりと許しをくれた。井上の気遣いのおかげだろう。


そんな流れで、かなたは井上と連れ立って、初めての買い出しへ出かけることになった。



ーーーー



町は、今日も相変わらずの賑わいだった。行き交う人の数も、物売りの声も、現代とはまるで違う空気をまとっている。


かなたが辺りをきょろきょろとしていると井上は一軒の店へと足を踏み入れた。中にはたくさんの野菜が置かれている。八百屋だろうか。どうやらここが今の新選組 御用達の店みたいだ。


井上と店主がやりとりをしている話を聞きながら、値段の相場を確認する。江戸時代のお金の感覚は現代と全然違うので頭を切り替えて考えなければならない。


(やっぱり、今の新選組のお金では賄えないことだらけだなぁ...)


しかも京の料理は味付けも薄い。体力仕事の多い新選組にはちょっと物足りないはずだ。こういう小さな積み重ねがストレスになる。


かなたは残りの予算を確認しながら、井上に相談を持ちかけた。


「井上さん、調味料って少しだけ追加で買えませんか? 」


「うん?ああ、構わんよ。残りで買えるだけ買ってみよう」


やさしく頷いてくれた井上に、かなたは心から感謝した。買い出しを終えると、井上とは一度別れて、かなたはその足で近藤のもとへと向かう。


「近藤さんお願いがあります!」


かなたは正座をし近藤と対面で座る。


「なんだね?かしこまって」


「鶏を飼いたいんです!!!」


「鶏...?」


「はい。卵は体に良いので料理に出したいんですけど高いので、鶏を飼って卵を量産しようかと...」


「なるほどな。そうだな....ちょうどこの前の下賜金かしきんがあるんだ。それで買おう」


あっさり了承されたので戸惑う。しかもこの前の下賜金とは八月十八日の政変のものじゃないだろうか。


「大切なお金...ですよね?いいんですか?」


かなたは自分から言い出したものの、怖気付く。


「何を言っている。大切なお金で、大切な隊士達の役に立つならいいじゃないか。それに、かなた君は監視付きだと言うのに、文句も言わずに雑用をしてくれるからな!」


なんという慈悲深い方なのだろう。この人に付いていく人が多いのも頷ける。慣れずにめげそうな時もあったが、頑張っていて良かった。


「ありがとうございます!!」


そしてかなたは井上にお願いをして、今日の夕飯をを作ってみることにした。味付けは薄すぎるので少し濃さを足し、卵料理やなけなしの金で買った肉を焼いたりして出した。


「なんだ、今日の飯すごい美味いな...!」


「味付けもいつもみたいに薄くねえしよ...。江戸の味噌汁を飲んでるみたいだぜ!」


原田と永倉は感嘆の声を上げる。


「この丸い白いのはなんだ..?こっちは肉か?」


藤堂が目を丸くしながら膳を覗き込んでいる。


「それは茹でた卵です!ゆで卵って言います。塩で食べてください!お肉は焼いて醤油と塩と砂糖で味付けしてみました!」


江戸時代に肉食文化は禁忌なのだが、薬食くすりぐいとしての文化はある。栄養改善を目的にした食事なら、問題にはならないはずだ。


ふと見ると、土方も静かに箸を動かしていた。口には出さないが、その顔はどこか緩んでいる。


「土方さん顔が綻んでますよぉ」


沖田がにやにやと、からかうように言う。


「...うるせーぞ総司、黙って食え」


それを見てかなたはみんなが喜んでくれて良かった、と小さく笑う。


だが、いくら今までの飯を変えずにやり繰りしようとも資金問題は改善しない。お金のことも考えて、幹部隊士で話し合った、結果かなたは五日に一度、料理を出すことなった。


この先隊士達もどんどん増えていくだろう。資金面に対して何か考えておくべきか。


かなたの改革はまだ始まったばかりである。

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