分岐点
慶応二年十一月
「近藤さん、今なんつった?」
土方は、仕事の合間に「話がある」と部屋へやってきた近藤の言葉を聞き返した。
「だから、幕府から直々に幕臣にならないかと誘いがあってだな....」
幕臣とは、すなわち幕府直属の臣下になるという事だ。
昔の自分なら、近藤を押上げれるならと、喜んでそれを受けただろう。
だが、未来から来たというかなたに出会って以来、考え方が少しずつ変わっていた。
もし幕臣になってしまったら、この先どうなるのだろうか。
長く続けられる組織をと、かなたと一緒に積み重ねてきたことが、無駄になるかもしれない。
京に上った時にとうに覚悟を決めたはずなのに、なぜか今その心は妙に揺らいでいた。
「いやぁ、家茂公が身罷られて徳川家も大変だというのに、思い切った決断をして頂いたよ!」
近藤の顔が喜びで輝くのとは裏腹に、土方の表情にはわずかな影が落ちていく。
「...少し、考えさせてくれねぇか」
「ん?ああ、わかった」
近藤はそういうと、ルンルンと部屋から出ていく。
障子を開けて外を見ると、かなたが隊士達と一緒に洗濯物を干しているのが見えた。
あんなに近くにいたはずのかなたが、今はなぜか、ひどく遠くに感じられた。




