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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第七章〜伊東派攻略〜

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好きこそ物の上手なれ

他の隊士に話を聞くといっても、案外難しいものである。唐突に話を始めても、相手はどう思うだろうか。そんなことを思いながら、鈴木は隣にいる土方の小姓をちらりと見やる。


「なぁ、誰から聞きに行くんだ?」


「うーん、そうですねぇ....事情を分かってくれそうな試衛館組の幹部達に聞くのが一番いいかな、とは考えていますが.....鈴木さんはどうですか?」


「まあ、そうだな。山南の様子からして、俺もその方がいいと思ってた」


「じゃあ、そうしましょう!」


そう話していると、ちょうど永倉・藤堂・原田のいつものメンバーが縁側で談笑しているのが見えた。


「ちょうどいいですね!早速行きましょう!」


「お、おい!待て!」


かなたは鈴木の手を勢いよく掴んで走り出す。その姿に気づいた永倉たちは、手を振って迎えた。


「おーい....ってなんだ?珍しい組み合わせだな」


「はい!よく言われます!」


永倉の一言に、かなたは先ほど山南に言われたことを思い出して元気よく答えた。


「よ、よう....」


鈴木は手に抱いていた猫を下ろすと、居心地が悪そうに顔を背けた。


「猫?」


藤堂はミケ子を抱くと、物珍しそうに眺めた。


「お、おう....猫、好きか?」


鈴木の慣れないコミュニケーションに心が痛くなる。そんなに無理をしなくてもいいのに。


藤堂は「可愛いなぁ」と言いながら、肉球をぷにぷにと触るが、ミケ子は嫌そうにタシタシとその手を押している。


「鈴木が面倒みてんのか?」


「まあ、そうなるな」


永倉の問いに、鈴木は曖昧に頷く。仕方ない、なにせ猫とはまだ数日前に出会ったばかりなのだ。


「名前はなんて言うんだ?」


「ミケ子です!」


原田の言葉にかなたは食い気味で答える。


「ミケ子かぁ......」


藤堂の微妙な反応を見て、かなたは少し目を細めた。さっき鈴木にされていた反応と同じだ。自分としてはいい名前だと思うのだけれど。


「それで、急に二人してどうしたんだ?」


原田が腕を組みながら、怪訝そうに眉を上げた。


かなたは小さく息を整えてから、これまでの出来事をかいつまんで話し始めた。

鈴木と一緒に子猫を助けたこと、伊東派の件で兄と決別する覚悟をしたこと、山南に相談したこと....


「そんな訳で、鈴木さんのこれからの目標を探そうと思いまして。事情を踏まえて、幹部の皆さんにお話を聞くのが一番だと思ったんです」


「なるほどなぁ」


永倉が顎に手を当てて頷く。

鈴木は少し居心地悪そうに頭をかきながら、ぽつりと口を開いた。


「それで、単刀直入に聞くが...お前らは何のために戦ってるんだ?何を背負って剣を振ってんだ?」


鈴木の問いに、永倉の顔つきが一変し、腕を組んで語り始める。


「....戦う理由か。俺はな、こう思うんだ。この世は何が正しいかなんて誰にも分からねぇ。けど、自分が信じるもんを守るために剣を取る。命を懸けて背中を預け合える仲間がいるから、俺はこの剣を振るう。人は生きる意味を探してさまよって、迷いながらも...それでも前に進むんだ!」


珍しく真剣な顔付きの永倉に、かなたは目を丸くし、藤堂も「おお....」と声を漏らした。鈴木ですら息を呑んだ。


「じゃあ、お前が剣を振る理由ってのは...その仲間のためか?」


鈴木の問いに永倉は一呼吸おいて、口角を上げた。


「仲間も大事だが、それだけじゃねぇ。人が剣を振る理由なんて、もっと単純だ。腹の底から笑える瞬間、心を震わせるもの、それ即ち......」


「....それ即ち?」


永倉の真剣な表情に、かなたは目を輝かせながら復唱する。


「女だ!!」


「...は?」


その瞬間、永倉以外の全員の目の色が変わった。


「そして酒!この二つがあれば、俺の人生楽しいもんよ!」


ガハハと笑う永倉に、藤堂と原田は揃ってため息をつく。


「おいおい、新八さんそりゃないぜ.....」


「真剣な話かと思った、俺たちの時間を返せ」


「でもまあ....道楽で仕事をしている人もいますからねぇ。永倉さんの言うことは一理ありますよ」


「かなたは人が良すぎるな。ま、道楽なら俺も最近それが楽しみで生きてるってのはあるな」


そういうと原田は立ち上がり、目の前の部屋から竿を持ち出した。


「俺は最近、鴨川で魚釣って食うのが楽しみなんだ」


魚という言葉を聞いて、ミケ子はにゃあっと鳴いた。まだ子猫だというのに、その言葉を理解しているのだろうか。


「お前にも今度食わせてやろうか?」


原田がそういうと、ミケ子は嬉しそうにスリスリと足元に近寄った。


「魚釣り?左之さんそんなことやってたのか?」


「どうりで最近、居ない日が多いと思ったぜ」


どうやら原田の趣味は、藤堂や永倉も知らなかったらしい。


「魚を釣ってどうしてるんだ?食べるのか?」


鈴木は首を傾げた。


「そうだ。でも、ただ食うだけじゃねぇ。色んな味付けを試して食ってんだ。かなたが前に教えてくれただろ?その味を真似してみたり、異国の調味料を買ってみたりしてるんだ。面倒なこともあるが、美味く出来れば達成感もあるしな。なにより、酒にも合う」


そういえば、現代の味付けで料理を出したことがあったか。この時代に来たばかりの頃は、試衛館組が料理当番だったので、色んな人に味付けを聞かれたのを思い出す。


「かなたの料理は食べたことのないもんばっかり出てくるからな。確かにその味で魚を食うなんて...美味そうだ」


永倉がじゅるり、とよだれを啜ると鈴木は顔をしかめた。


「中村の料理はそんなに美味いのか?」


「そういえば、鈴木さんはご飯の時、別々でしたね」


伊東派で食を共にする者は少ない。なぜなら、大抵はどこかへ飲みに行ったりしているからだ。


「おうよ!今までに食べたことの無い味で驚くぜ!あれは、江戸にも無い味だ」


「江戸にも無い味.....異国の料理とは違うのか?」


永倉がゴリ押しするので、鈴木も興味を持ち始めたみたいだ。未来の味付けなので、和洋折衷と言ったところだろうか。この時代では、外国の料理に近い味になるかもしれない。

なんにせよ、鈴木にはかなたが『未来人』とは言えないので、なんとなく誤魔化すしかない。


「ま、まあ、次から一緒に食べましょうよ!」


「あぁ...」


「伊東さんの傍を離れるっていうなら、今日から飯も一緒でいいんじゃねぇの?」


藤堂は鈴木に向けて優しく笑った。


「それも、そうだな.....俺も酒は好きだし、そう言った料理も悪くねぇ」


少し照れながら答える鈴木に、永倉・藤堂・原田は笑顔でうなずいた。最初に話を聞いたのが、この三人でよかった。


かなたは心の中で次に出す食事の献立を考える。まず最初に、鈴木に出す料理は何がいいだろうか。

思い浮かべるだけで、みんなが楽しそうに食べている姿が頭に浮かび、自然と笑みがこぼれた。

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