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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第七章〜伊東派攻略〜

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目標

 かなたは境内の落ち葉を集めながら、ほうきの音だけが響く静けさを感じていた。


 結局、鈴木はどうしたのだろうか。あれから数日経ったが、顔を合わせていない。


 しばらく掃き続けていると、チリンと小さな鈴の音が耳に届いた。風のせいかと思ったが、耳を澄ますと確かに近くから聞こえる。音の方へ目を向けると、先日、鈴木と一緒に助けた子猫が落ち葉の中にちょこんと座っていた。


「あ、君は......」


 近づこうとしたその時、猫の後ろに立つ人物に気づく。


「よう」


「鈴木さん」


 鈴木はひょいっと片手で子猫を抱き上げ、その柔らかな毛を撫でながらかなたのそばへ歩み寄ってきた。その姿は、以前よりどこか穏やかに見える。


「飼うって決めたんですか?」


「まあな。屯所にいりゃあ、少しは役に立つだろ」


 まさか、猫にまで働かせるつもりなのか。癒し枠としてなら大歓迎だが。


「名前は?」


「お前も助けただろ。だから、お前が決めてくれ」


「うーん..........」


 大事なことを任されてしまい、真剣に頭を悩ませる。だがいい名前が思いつかない。


「三毛猫の女の子だから....ミケ子とかどうですか?」


「お前、粋ってもんがねぇな」


 自分で任せておいて、その言い草はないだろう。


「まあいい。ところで、この前の話なんだがよ....」


 鈴木は気まずそうに俯いた。この前の話、というのは伊東の件だろう。


「お兄さんのことですか?」


「ああ。兄貴と離れる覚悟を決めた」


 鈴木の目には、かつての揺らぎはもう見えなかった。そこには前へ進もうとする意志が宿っているように見えた。


「だが、完全に断ち切った訳じゃねぇ。まだ見切りを付けられない所もある」


「それは当たり前です。家族ですから、切っても切れぬ縁はあります。完全に断ち切ることが、必ずしも正しいとは限りません。けじめは大事ですけど、逃げ道を残しておくのも悪いことじゃないですよ」


 鈴木はふっと笑みを浮かべると、またすぐに真剣な表情へ戻った。


「だから、お前に手を貸してほしい」


「はい!もちろんです!」


 かなたは拳を握り、顔の横でぐっと掲げた。


「それで、鈴木さんはこれからどうしたいですか?」


「そうだな...まずはここに居る意味を見つけてぇ。兄貴にくっついて来たようなもんだからな....」


「目標は大事ですからね。じゃあ付いてきてください!」


「どこへ行くんだ?」


「こんな話に、打ってつけの人がいるんですよ!」


 そう言って、かなたは鈴木を連れて境内を後にした。





 ーーーー





「なるほど。それで私の所へ.....珍しい組み合わせなので、少し驚きましたよ」


 かなたと鈴木が訪れたのは、山南が仕事をしている監察方の資料室だった。

 土方とは正反対に、新選組の"飴"のような存在である山南は、かなたがその柔和さに信頼を寄せ、監察方の筆頭であり相談役として推した人物でもある。


「はい。私が単独で動くのは良くないと思ったので....」


 脳裏にチラつくのは土方の姿だ。もう、危ないことはしないと約束したので、一人で動く訳にも行かない。


「そうですね。なんにせよ、人の意見を聞く、というのは大切なことです」


「話、ねぇ....」


 鈴木は兄ばかりに頼っていたので、話を聞くのは好きでは無さそうだ。今も部屋の隅で猫と戯れている。


「経験則、というのは大事ですよ。鈴木さんにも、経験がものを言う時はあるでしょう?自分が体験すれば、見えてくるものもあると思います。もちろん、経験談を聞くのも大切です。組長を務めている今の鈴木さんには、そうやって目標を見つけることが良いと、私は思います」


 山南の言葉にかなたは頷く。


「私もそれがいいと思います!鈴木さんは考えるより行動派ですし、肌で感じた方が目標が見つかりやすいかと」


「うむ....分かった。じゃあ早速動いてみるか」


 思ったよりも素直な反応に、かなたは少し安心した。


「じゃあまずは、私と一緒に隊士さん達に話を聞きに来ましょう!」


「はい。くれぐれも、お気をつけて」


 かなたは去り際に深く頭を下げた。


「やっぱり山南さんに相談して良かったです!鈴木さんのこと、ちゃんと受け止めてくださって、ありがとうございます」


 山南は柔らかく笑った。


「力になれたなら何よりです。鈴木さん、焦らず一歩ずつ進めばいいのですよ」


「ああ。ありがとな、山南」


 ぶっきらぼうな口調ながらも、鈴木のその声にはどこか素直さが滲んでいた。


 二人を見送った山南は、再び手元の仕事に戻る。

 かなたが伊東派にまで歩み寄ろうとする姿に、やはり只者ではないなと微笑み、筆を取るのだった。

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