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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第七章〜伊東派攻略〜

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けじめ

 かなたと話したその夜、鈴木は部屋で一人、猫と戯れていた。

 飼う飼わないにしろ一旦預かれ、とかなたに言われたので、仕方がなく部屋に連れてきた。


 子猫はひとしきり鈴木の袴の紐で遊ぶと、文机の下に隠れて眠り始める。


「お前は自由すぎるな」


 少し笑みを零したところで、襖が音を立てて開いた。


「兄貴、どうしたんだ」


 部屋の前には兄の伊東甲子太郎が立っていた。


「ここに居たのか。また花街で酒でも飲んでいるのか思ったよ」


「俺だって四六時中飲んでるわけじゃねぇよ」


 昼間、かなたと交わした会話を思い出したせいか、鈴木は兄にどこか距離を感じる。その足音に気づいた子猫が顔を覗かせ、小さく鳴いた。


「にゃぁ」


 その鳴き声に、伊東は鼻を鳴らした。


「また拾ってきたのか。お前は昔からそうだな」


 伊東は子猫を抱き上げると顔を近づける。


「こんな主人に拾われても、何の得もしないのにな」


 その言葉に鈴木の眉がわずかに動いた。


「それは、どういう意味だ?」


「なんだ?珍しく怒っているのか?そのままの意味さ。兄がこんなにも頭を使っているのに、弟は猫と仲良く遊んでいるだけだ」


 図星だった。兄ほど賢くもなく、兄がいないと何も出来ない人間。自分の未来に光なんてものはない。


 ーーー鈴木さんの人生は他の誰のものでも無い、鈴木さんのものです。


 その時、昼間に話した気に食わなかったはずの小姓の言葉が頭にちらつき、鈴木はぽつりと呟いた。


「....俺の人生は俺のもの、か」


「ん?何か言ったか?」


 その時、心のどこかで何かが弾けた。今までまとわりついていた劣等感が、音もなく剝がれ落ちていく。


「くっ...クックックッ....アハハハハハ!」


「な、なんだ急に」


 罵っていたはずの弟が突如として笑い始め、その異様さに伊東は思わず面を食らう。鈴木はゆるりと立ち上がり、兄を一瞥した。


「で、兄貴。俺になんの用があって来たんだ?」


 伊東は動揺を抑えながらも口を開く。


「あ、ああ。そろそろ、ここを出ていっても良いかと考えていてな.....」


「出でく......?新選組を乗っ取るんじゃなかったのか?」


「ここを乗っ取ったとしても、結局は幕府の言いなりになる。それなら、自分で組織を作った方がいいと考えたんだよ」


 兄は自身で道を開こうと言っているのだから、自分もそうしてやろうじゃないか。


「そうか.....じゃあ、役立たずの弟は邪魔だろうから退散するよ」


 そう言い放つと、鈴木は伊東の腕から子猫を引き剝がし、部屋を出ていった。


「おい、どこへいくんだ!」


 遠ざかる兄の言葉も、もう鈴木には聞こえていなかった。

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