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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第六章〜日本の夜明け〜

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目指す場所

 怪我の痛みで寝れず、かなたは中庭で風を浴びていた。いつの間にかもうすぐ夜が明けようとしている。麻酔が庶民に使われることの無い、この時代での傷の縫合は想像を絶する痛みだった。もう二度と経験したはくない。


(今日は色々あったな.......)


 かなたが物思いにふけっていると土方がやってきた。


「おい、怪我の具合は大丈夫なのか」


「あ、土方さん。はい、痛くて眠れなくて。でも、さっき縫った時よりかは、なんとか.....」


「そうか......」


 二人は夜明けの空を仰いだ。そういえば前にもこんな風に痛みで眠れない時があった。たしか、歩きすぎて足の裏を血だらけにした時だ。あの頃に比べれば、少しは強く生きられるようになった。まあ、また怪我はしているのだけれど。


「怒鳴って、悪かったな」


「いえ....いつも飛び出してしまう私が悪いので....」


 このやり取りも何回目だろうか。だけど今回は、大怪我をしてしまった。


「今まで、ゆるく生きてきましたけど、この時代の怖さを思い出しました。人は、簡単に死んでしまうんですよね....」


 かなたは自分の手のひらを見つめる。芹澤を刺した時も、いとも簡単に散っていった。


「.......元の時代に、帰りたいと思ったか?」


 土方は少し悲しげな目でかなたを見つめる。


「そう、ですね....私の居た時代では日常的に死ぬかも、なんて考えることはありませんでしたから」


「随分、平和な時代なんだな」


「はい。.....でも、こんな痛い思いしても、私はまだここに居たいと思っています」


 かなたは土方の方へ振り向き顔を合わせる。


「最後までこの目で新選組を見たいです。みんなを生かしたい、そう思っています」


「.......そう、か」


 思えば、かなたの目指す場所を、初めて聞いた気がした。その想いに、土方はより一層かなたを守りたい思いが強くなった。


 夜はすっかり明け、東の空に朝日が差し込む。その光は、かなたと土方の未来を照らすかのように、静かに二人を包んでいた。





 ーーーー





 翌日かなたは怪我をしたことにより、熱を出していた。仕方が無いので、西村屋への報告は土方と山南に行ってもらうことになった。




 西村屋の屋敷へ到着すると、前回と同じようにすんなりと通される。前と違うことと言えば、西村屋は既に座って待っていた。


「おお...これは新選組の山南はんと....副長はんやな?今日は中村はんはおらへんのかいな?」


「中村は盗賊とやり合っている最中に怪我をした。だから俺が代わりに来た」


 土方は不機嫌を隠さずに座り込んだ。


「ほ、ほんまどすか....?それは申し訳ないことした....。ほんで中村はんの具合は?」


 西村屋の顔が青ざめる。


「命に別状はありませんのでご安心ください」


「そうでっか......」

 

 山南が返事をすると西村屋は、ほっと胸をなでおろした。疑っていたが、彼は本当にこちらに敵意がないようだった。


「そらよかったわ......ほんで、盗賊の方はどうなりましたやろ」


「ああ、片はついた」


 土方が淡々と事の経緯を語ると、西村屋は眉を下げ、申し訳なさそうに頭を垂れた。


「さすがは新選組はんや。おおきに....ほんまに助かりました」


 前回のような自信に満ちた態度はない。どうやら、かなたの怪我が彼にも堪えているようだ。山南がそんなことを思っていると、横で土方が口を開いた。


「しかし、一つ聞いておきたいことがある」


 土方の目が鋭さを帯びる。


「あの野盗共.......動きが妙に組織的だった」


「普通の盗賊にしては、手際が良すぎましたね。我々の憶測では、元御庭番衆(おにわばんしゅう)か何かではないと、踏んでいるのですが」


 山南の言葉に、西村屋は一瞬目を伏せ、申し訳なさそうに頭を下げた。


「....その通りや。あの連中は元幕府側の人間なんどすわ。やけど、職を解かれて幕府を恨んどるんや。どこからかは分からんけど、あんたらに会うちょっと前に、うちの店が幕府とつるんどるて、噂が立ってしもてな」


「その噂のせいで付けまわられた、と」


「せや。けど雇うた用心棒は皆次々にやられて行くもんで.....困っとった時に才谷はんから新選組の話を聞いたんや」


「なるほどな。だが、今回の襲撃はこれまでとは違ったんじゃねぇのか?」


 西村屋は苦い顔で頷いた。


「そや。あんたらと会うてすぐに、新選組と繋がるいう話が流れてしもたんや。それであいつら、本気で潰しにかかってきたんやろな」


「つまり、もともと狙われていたところに、新選組との繋がりが加わって、さらに敵対心を強めたってことか」


「それもそうですが.....そんなに早く情報が回るとすると、誰かが裏で手を回していたのでしょうか?」


 山南の言葉に西村屋は眉を下げた。


「うちの使用人があの連中に金貰っとったみたいや。今朝方に捕まえて奉行所に突き出しましたわ」


 大きな脅威ではなかったにせよ、信頼していた者に裏切られるのは西村屋としても痛手だろう。


「ほんまに、すんまへんでした!それに、中村はんにも怪我を負わせてしもて.....」


 西村屋は深々と頭を下げた。


「.....まあ、あんただけが悪いわけじゃねぇ。だが、うちの者が怪我を負ったことは事実だ」


「せやからこそ、約束は守ります。新選組はんには、うちからの支援をさせてもらいます」


 土方と山南は互いに目を合わせる。


「それはありがたいお話です」


「今後は定期的に資金と物資を送らせてもらいます」


「ああ、よろしく頼む」


 決して円満な交渉ではなかったが、どうにか話はついた。こうして新選組と西村屋の縁は、確かなものとなった。

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