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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第六章〜日本の夜明け〜

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土佐訛りの男

慶応二年 二月


 かなたが江戸時代に来てからと言うものの、何かと土方は会津藩の藩邸にかなたをお供として連れて出ていた。来たばかりの頃はこの時代の人間のように歩き慣れておらず、足の裏から血が滲むこともあったが、今ではもう慣れたものだ。


 この日もいつものように土方の背中を追いかける。用を終えた所で、土方が休憩しようというので二人は茶屋に来ていた。


「んー。お団子、美味しいですねぇ」


「そうだな」


 こう見えて土方は存外、甘いもの好きだ。疲れに効くから定期的に口にしているのだと、以前に聞いたことがある。無類の甘党・島田には敵わないが。


 そんなことを思い出しつつ、かなたは最後の団子を頬張った。


 その時、奥の席から訛りのある男の声が響く。


「いやぁ、甘いもんは体にしみるき」


 歴史好きとしては色々な創作で聞いたことのあるその訛りは、聞き逃せない。土佐とさ訛りだろうか。かなたは声のする方をちらりと見やると、思わず目を見開く。どこかで見たことのある風貌。癖毛に髷を結ったその男は、歴史の教科書に必ず登場する人物、坂本龍馬さかもとりょうまだった。


 驚愕で固まるかなたの様子に気づき、土方が顔をしかめる。


「どうしたんだ?」


「あ、あ、あの....土方さん。あの男の人って見たことありますか?」


 かなたは坂本の方を指さす。土方は男をちらりと見やると首を横に振った。


「....いや、見たこと無ぇな」


「そ、そっか.....」


 以外にも坂本龍馬の顔は新選組には割れていないらしい。そう思えば最近、薩長さっちょう同盟の話が出ていたが、彼自身の名前は耳にしなかったので、きっと密約として扱われているのだろう。それにしても、あの龍馬に出会えるなんて。


「いやあ、うまかったにゃあ〜」


 坂本を真剣に見つめるかなたに、土方の眉間に皺が寄る。


「....なあ、お前はああいう男が好みなのか?」


「え?」


「いや.....あいつのことばっかり見てるからよ....」


「い、いや!そういう訳じゃないんです!!ただ、気になるって言うか....」


 その一言に、土方の心の中で何かが崩れ落ちた。無精髭でくせ毛男のどこがそんなにいいんだ。思わず項垂れ、短く吐き出す。


「....帰んぞ」


 不機嫌を隠しもせず勘定を済ませ、さっさと店を出ていく。


「えっ、ちょ、待ってくださいよ!」


 かなたは土方を追いかけて足早に店を出る。どうやら、機嫌が悪いみたいだ。自分が何をしたかと、頭を巡らせるが記憶にないので、仕方なく聞いてみる。


「あの......土方さん。なんか怒ってますか?」


「あ?怒ってねえよ」


 やや食い気味で返答されるが、怒っているようにしか見えない。いや、これは間違いなく怒っている。


「もしかして、私なにか失礼なこと言っちゃいました?」


「.......お前が気にするほどのことじゃねえよ」


 その答えとしては、自分は何もしていないということだろうか。だが、そんなことを言われても気になるのは気になる。しばらく沈黙が続く。気まずいので話題を変えよう。


「あの...さっきの茶屋のお団子美味しかったですね!」


「...ああ」


 また沈黙が続く。この調子では会話にならない。どうしようかと、考えていると土方が立ち止まり、ぼそりと呟いた。


「......お前、さっきの男のことそんなに気になるのか?」


 そりゃそうだ。あの坂本龍馬だ。気にならないわけが無い。


「え? ええと...まあ、ちょっと...」


「...そうか」


 そういうと土方はまた歩き出す。


(え、なんかますます機嫌悪くなった!?)


 土方の無言の圧がさらに増している。最悪な空気に耐えきれず、つい土方の袖を掴んでしまった。


「......あの、土方さんが怒ってるの、嫌なんですけど..」


「なっ....!」


 無意識に見上げた視線に、土方は完全に固まる。


(あれ...今度は固まっちゃった....)


「土方さん?」


「わ、悪かった....」


 顔を赤らめ、土方はそっぽを向く。何だかよく分からないが、機嫌が直ったようで良かった。


 ところで、坂本龍馬にはまた会えるだろうか。そんな呑気なことを考えながら、かなたは再び歩きはじめた。

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