気付いた想い
かなたとの降誕祭から数日後、土方は少し苛立っていた。理由はただ一つ。かなたが、自分の贈った組紐と揃いの髪紐を、まだ使っていなかったからだ。土方は、かなたが一人になるのを見計らって声をかける。
「おい、かなた。あの髪紐つけてねぇじゃねえか」
「え!だ、だって付けたらみんなにお揃いだって思われますし.....!」
「いいから付けろよ。なんか言われたらたまたまだって言っときゃいいんだよ」
「えぇ!」
なぜ土方がそこまで執着するのか、かなたには分からなかった。自分の小姓としての独占欲なのだろうか。
「今、持ってねぇのか?」
「あ、ありますけど.....」
先日、土方に言われたことを無視できず、いつ付けようかと持っていた髪紐を、かなたは懐から渋々取り出す。土方はそれを手に取った。
「結んでやるから、後ろ向け」
「え、土方さんが結ぶんですか!?」
「ああ」
そういうと土方はかなたの髪に付いていた紐を解き、丁寧に結いはじめる。指先が髪に触れるたび、背筋が熱を帯びる。最近、本当に自分の体が分からない。胸は高鳴り、息が苦しいのに不思議と安心もする。何かの病気なんだろうか。
病気といえば、ある男が同じような症状で医者に行った、という話を見たことがある。男の話を聞いた医者はこう言うのだ。「それは恋の病だ」と。
(.....これが、恋)
自覚した途端、鼓動はますます速まり、頬が熱くなる。息が苦しい。だめだ、何か違うことを考えなければ。
「出来たぞ」
「あっ、ありがとうございます」
顔が赤いのが自分でも分かる。見られたくなくて、思わずそっぽを向いた。そんな様子に気づいたのか、土方が顔を覗き込む。
「どうした?」
「い、いえ!なんでもないです!そういえば、そろそろ沖田さんにお薬を持っていかないといけないので、行きますね!では!」
かなたは逃げるように走り去った。廊下の隅で立ち止まり、息を落とす。寒いと思ったら雪が降っている。なのに、体の熱は逃げてくれない。なんだかそれが凄く切なく感じた。
ーーーー
数刻前からぽつりぽつりと雪が降り始めていた。沖田は自分の部屋の障子を開け、外に向かって白い息を吐く。
「うぅ....寒い」
肩を抱きながら、白い粒が降りてくるのを見ていると廊下の奥から、かなたが見えた。
「沖田さん、風邪を引きますからちゃんと部屋に入ってください」
そう言って足を止めたかなたの手には、薬湯をのせた盆がある。たが、かなたの顔はいつもと違い、少し影を帯びていた。そんな様子に沖田は口を開く。
「あれー、かなたちゃんの髪紐、もしかして土方さんとお揃いですか?」
「っ.....!」
瞬く間にかなたの頬が真っ赤に染まる。その様子に、沖田は思わずにやりとした。これはもう、"好き"だな。
「か、からかわないで下さい!」
「土方さんと、いい感じなんですか?」
「そ、そんなことはない......です......」
どんどん顔が曇っていくかなたに、沖田は核心を突く。
「......好き、なんですか?」
「........」
短い沈黙ののち、かなたは小さく頷いた。
「.....はい」
めでたいことのはずなのに、今にも泣きそうな顔をしている。沖田は優しく、その頭をぽんぽんと撫でた。
「言わないんですか?土方さんに」
「この想いは.....隠します。土方さんは、新選組と共に生きていますから、こんなこと言えるはずありません」
早くこの感情を消してしまわなければ、嫌われてしまう。そう思うほど、胸は苦しい。
「かなたさんが言いたくないなら、言わなくてもいいです。けれど、自分の感情を押し殺すのは良くないですよ」
「.....沖田さん」
「土方さんも、かなたさんの落ち込んでいる姿より、笑ってる姿の方が好きだと思います」
そういうと、沖田はにこりと笑う。その笑顔に、張りつめていた心が少し軽くなった。
「それにね、僕は嬉しいんです。こんなに近くで土方さんを見て、土方さんのことをよく知っている人が、彼のことを慕ってくれているんですから」
「ふふ、沖田さんも土方さんの事が好きなんですね」
「もちろんです!」
二人が笑い合う中、雪はより一層強くなる。この雪のように土方への想いも、積もり積もっていくのだろう。けれど、この気持ちは胸にそっと閉まっておこう。誰よりも彼の近くで支えながら、遠くから静かに慕い続けよう。
皆様、いつもご覧頂きありがとうございます!やっと第一部が終わりました(一応)。
これからもかなたの改革は終わりませんが、今までとは少し違った改革になると思います!変わってないやんけ、と思われたら申し訳ございません(。-人-。)
引き続き、よろしくお願い致します(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”




