贈り物
組紐を編み始めて五日目。あと少しで完成というところまできた。
昼、かなたはひと仕事終え、縁側に座って休憩していた。夜遅くまで組紐を作っているせいか、かなり寝不足だ。少し寒いが、陽の光が暖かく、やがて意識を手放してしまう。
廊下に出た土方は、縁側の柱にもたれかかっているかなたを見つける。動きがないので気になって近づいてみると、すうすうと寝息を立てていた。
「ったく、風邪ひくぞ」
そうつぶやきながら、自分の部屋から羽織を持ち出し、そっとかなたの肩にかける。最近、自分でも思うほどに面倒見がよくなった気がする。土方はそんなことを思いつつ、かなたの隣に腰を下ろした。隣で心地よさそうに、寝息を立てているかなたの顔をつい、まじまじと見つめてしまう。最近は夜更かしをしているのか、朝も眠そうにしている。一体、何をしているのやら。土方はそんなかなたを見つめながら微笑む。
(ふっ、かわいいな....)
「ん.....?」
不意にそんな言葉が頭に浮かび、自分でも戸惑っていると、かなたの瞼がかすかに動いた。
「うん..........んん!?」
先程まで閉じられていた目が大きく見開かれる。
「起きたか」
「ひ、土方さん!?なんでここに?!」
「なんでって、いくら日が出てるからとはいえ、こんな薄着をして外で寝てる阿呆を放っておけなくてな」
「あ、す、すみません....」
肩にかかっている羽織に気づき、かなたは気まずそうに謝った。
「お前、最近夜更かししてるだろ?....何かあったのか?」
「ちょ、ちょっと縫い物が立て込んでて......!でも、もう終わるんで大丈夫です!!!」
土方に贈り物のことを悟られないように、かなたは必死に言い訳をする。その勢いに土方は少し気圧される。
「そ、そうか....。そういえば、この前話してた降誕祭の件だがお前、いつがいい?」
「ええっと...キリストの生誕が二十五日なので、その日はどうですか?」
「わかった。じゃあ、その日の晩にお前の部屋で茶でもしようぜ」
「は、はい!茶菓子も買っておきますね!」
土方はどんなものをくれるのだろうか。自分のプレゼントは喜んでくれるだろうか。なんだか、その事を考えるだけで足取りが軽くなった。
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慶応元年 十二月二十五日
夕餉の片付けが終わると、土方はかなたの部屋を訪れた。今日は待ちに待った、クリスマスのプレゼント交換会だ。
「じゃ、じゃあ私から渡しますね....」
かなたは緊張しつつも、さっそく土方に組紐を渡す。不器用だが、そこまで出来は悪くないだろう。
「これは.....根付か?」
「組紐で作った"ミサンガ"って言うもので....」
「みさんが?」
「はい。私の時代にある、異国から伝わったお守りです。手首や足首にずっとつけて、自然にちぎれると願いが叶うって言われてます。土方さんのお守り代わりになればいいなって思って.....」
よくよく考えたら少し重いかもしれない。かなたの思いとは別に土方の鼓動は早まっていた。自分のためにここまでしてくれたのかと思うと、なんだかくすぐったい。
「あ、ありがとよ。....早速つけてくれ」
「は、はい!」
差し出された左手に、かなたはそっと組紐を結ぶ。
「どう.....ですかね?」
「ああ。色合いもいいし、邪魔にもならねぇ。ありがとな。大切にする」
土方は嬉しそうに笑った。大事にしてくれるのはありがたいが、ちぎれないと願い事は叶わない。
「願い事しといてくださいね!」
「ああ。.....ところでよ、その机の上にある同じ柄の紐はなんだ?」
指さされた先には、文机に置かれたもう一本の紐がある。
「あ、えっと....紐が余ったので髪紐として使えないかなって」
作ったのはいいが、よく考えたら土方のミサンガとお揃いになるので、使うのはやめておこうと取っておいた。
「ほお......じゃあ俺と揃いだな。ちゃんと使えよ」
「へ!?いや!そんなつもりじゃなくて......」
「いいから使えよ。じゃあ次は俺の番だ」
土方は強引に話を切り替えると、裾から小さい紙袋を出した。
「なんです?これ」
かなたは渡された袋を空ける。中には、現代人には見覚えのある四角い布が入っていた。
「あ!ハンカチだ!」
「やっぱり、お前の時代にもあるのか?"ハンケチーフ"っていう、異国の手拭いらしい」
触れると、未来のものとは少し違うが、手に馴染む心地よさがあった。ふと端を見ると、筆記体で「Kanata」と刺繍されている。
「......名前が刺繍してある」
「ああ。異国の言葉で"かなた"と入れてもらったんだ」
そう言うと、土方は気恥ずかしそうに顔を背けた。商人に頼んでいる土方を想像するだけで顔が綻ぶ。
「嬉しいです!ありがとうございます!大切に使います!」
「....おう」
二人は茶を飲みながら、昔話や未来のことを気ままに語り合った。寒い夜が、いつのまにか温かな時間へと変わっていくようだった。




