表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第五章〜暦の彩り〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/76

贈り物

 組紐を編み始めて五日目。あと少しで完成というところまできた。


 昼、かなたはひと仕事終え、縁側に座って休憩していた。夜遅くまで組紐を作っているせいか、かなり寝不足だ。少し寒いが、陽の光が暖かく、やがて意識を手放してしまう。




 廊下に出た土方は、縁側の柱にもたれかかっているかなたを見つける。動きがないので気になって近づいてみると、すうすうと寝息を立てていた。


「ったく、風邪ひくぞ」


 そうつぶやきながら、自分の部屋から羽織を持ち出し、そっとかなたの肩にかける。最近、自分でも思うほどに面倒見がよくなった気がする。土方はそんなことを思いつつ、かなたの隣に腰を下ろした。隣で心地よさそうに、寝息を立てているかなたの顔をつい、まじまじと見つめてしまう。最近は夜更かしをしているのか、朝も眠そうにしている。一体、何をしているのやら。土方はそんなかなたを見つめながら微笑む。


(ふっ、かわいいな....)


「ん.....?」


 不意にそんな言葉が頭に浮かび、自分でも戸惑っていると、かなたの瞼がかすかに動いた。


「うん..........んん!?」


 先程まで閉じられていた目が大きく見開かれる。


「起きたか」


「ひ、土方さん!?なんでここに?!」


「なんでって、いくら日が出てるからとはいえ、こんな薄着をして外で寝てる阿呆を放っておけなくてな」


「あ、す、すみません....」


 肩にかかっている羽織に気づき、かなたは気まずそうに謝った。


「お前、最近夜更かししてるだろ?....何かあったのか?」


「ちょ、ちょっと縫い物が立て込んでて......!でも、もう終わるんで大丈夫です!!!」


 土方に贈り物のことを悟られないように、かなたは必死に言い訳をする。その勢いに土方は少し気圧される。


「そ、そうか....。そういえば、この前話してた降誕祭こうたんさいの件だがお前、いつがいい?」


「ええっと...キリストの生誕が二十五日なので、その日はどうですか?」


「わかった。じゃあ、その日の晩にお前の部屋で茶でもしようぜ」


「は、はい!茶菓子も買っておきますね!」


 土方はどんなものをくれるのだろうか。自分のプレゼントは喜んでくれるだろうか。なんだか、その事を考えるだけで足取りが軽くなった。





 ーーーー





 慶応元年 十二月二十五日


 夕餉の片付けが終わると、土方はかなたの部屋を訪れた。今日は待ちに待った、クリスマスのプレゼント交換会だ。


「じゃ、じゃあ私から渡しますね....」


 かなたは緊張しつつも、さっそく土方に組紐を渡す。不器用だが、そこまで出来は悪くないだろう。


「これは.....根付か?」


「組紐で作った"ミサンガ"って言うもので....」


「みさんが?」


「はい。私の時代にある、異国から伝わったお守りです。手首や足首にずっとつけて、自然にちぎれると願いが叶うって言われてます。土方さんのお守り代わりになればいいなって思って.....」


 よくよく考えたら少し重いかもしれない。かなたの思いとは別に土方の鼓動は早まっていた。自分のためにここまでしてくれたのかと思うと、なんだかくすぐったい。


「あ、ありがとよ。....早速つけてくれ」


「は、はい!」


 差し出された左手に、かなたはそっと組紐を結ぶ。


「どう.....ですかね?」


「ああ。色合いもいいし、邪魔にもならねぇ。ありがとな。大切にする」


 土方は嬉しそうに笑った。大事にしてくれるのはありがたいが、ちぎれないと願い事は叶わない。


「願い事しといてくださいね!」


「ああ。.....ところでよ、その机の上にある同じ柄の紐はなんだ?」


 指さされた先には、文机に置かれたもう一本の紐がある。


「あ、えっと....紐が余ったので髪紐として使えないかなって」


 作ったのはいいが、よく考えたら土方のミサンガとお揃いになるので、使うのはやめておこうと取っておいた。


「ほお......じゃあ俺と揃いだな。ちゃんと使えよ」


「へ!?いや!そんなつもりじゃなくて......」


「いいから使えよ。じゃあ次は俺の番だ」


 土方は強引に話を切り替えると、裾から小さい紙袋を出した。


「なんです?これ」


 かなたは渡された袋を空ける。中には、現代人には見覚えのある四角い布が入っていた。


「あ!ハンカチだ!」


「やっぱり、お前の時代にもあるのか?"ハンケチーフ"っていう、異国の手拭いらしい」


 触れると、未来のものとは少し違うが、手に馴染む心地よさがあった。ふと端を見ると、筆記体で「Kanata」と刺繍されている。


「......名前が刺繍してある」


「ああ。異国の言葉で"かなた"と入れてもらったんだ」


 そう言うと、土方は気恥ずかしそうに顔を背けた。商人に頼んでいる土方を想像するだけで顔が綻ぶ。


「嬉しいです!ありがとうございます!大切に使います!」


「....おう」


 二人は茶を飲みながら、昔話や未来のことを気ままに語り合った。寒い夜が、いつのまにか温かな時間へと変わっていくようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴史 / タイムスリップ / 新選組 / 幕末 / 恋愛 / 土方歳三 / 女主人公 / コメディ / シリアス / すれ違い / 幕府 / 和風 / 江戸時代
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ