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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第一章〜江戸時代にタイムスリップ!?〜

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未来人

「とりあえず、君の話を聞かせてもらおうか」


 そう口を開いたのは、新選組(しんせんぐみ)局長(きょくちょう)の一人 近藤勇だ。


「あの、ちゃんとお話を聞いてくださってありがとうございます」


 なんとか弁明の機会をくれた近藤に、かなたは頭を下げた。


「とりあえず怪しいのは変わらねえから、縄で縛るぜ」


 そういうと、土方はかなたの腕を取り、縄で()()()縛りはじめる。すると沖田がやれやれと言った表情で土方を見た。


「まあ、女の子なんだからお手柔らかにしてあげてくださいよ。土方さん」


「!?」


 相も変わらずニコニコとしている沖田の言葉に、土方と近藤は目を見開いた。


「君、女だったのか...?」


「へ...?そうですけど...」


 どうやら、江戸時代では高く結んだポニーテールにズボンは男の格好らしい。それに加え、かなたは中性的な顔立ちをしている。とはいえ、さすがに現代で男に間違われたことは無かった。


「どうりで細っこいと思ったぜ...」


 土方はかなたを見ながら、自分の手をグーパーとしている。


(.......セクハラ)


 かなたは思わずそう頭の中で呟き、ジトッとした目で土方を見た。


「どうみても、振る舞いが娘さんじゃないですか〜」


 そう言いながら沖田は、かなたの腕に巻かれた縄を慣れた手つきで解く。振る舞いなどは、分かる人には分かるのだろうか。


「というより君、血が出ているじゃないか」


 近藤は懐から手ぬぐいを取りだし、かなたに差し出す。どうやら、首に伝っていたものは汗では無く、血液だったようだ。幸いにも傷は深くなく、血は既に乾ききっていた。


「土方さんのせいだ〜」


「........」


 沖田の睨みに、土方はバツが悪そうに目を逸らした。

 刀で怪我をしたということは、やはりここは本物の江戸時代なのだろう。まだ半信半疑だったが、一気に現実に引き戻される感覚にかなたは息を呑んだ。


「して...君はなぜ上から降ってきたのかね?」


 近藤はそう聞いてくるが、かなたにもわからない。


「えっと...私がいた時代で階段から落ちたと思ったら突然ここに来てしまって...」


「ふむ...」


 近藤は顔をしかめる。その反応に、かなたも思わず眉を下げた。どういう原理でここに来たのか、それさえも検討がつかない。


「忍びだからどうせ屋根に張り付いてて、ドジして落ちてきたんだろ」


 土方の言葉に、かなたはムッとした目を向ける。とにかくここは、彼に命の補償を約束してもらわなければならない。


「でも土方さん、僕たちがいた場所に屋根なんかありませんでしたよ? しかもその子は突然、僕たちが居た真上の方から降ってきたじゃないですか」


(沖田さんナイスアシスト!)


 沖田の証言に土方を納得させられるかと思い、かなたはほんの少し期待を抱いた。


「屋根から飛んだんだろ」


「そんな跳躍力ありません!」


 かなたはこれでもか、と言わんばかりに声を上げてしまう。なんとしてでも、土方は認めたくないらしい。それを見かねて近藤が口を開く。


「百六十年後の日ノ本(ひのもと)...だったか?そこから来たというのは?」


「そ、それもほんとです!!こんな格好、異国の服でも見たことないでしょう...?それに新選組という名前、今日決まったみたいですが、当てましたし...!」


「屋根裏に張り付いてたから知ってたんだろ」


 土方の言葉に、かなたはがっくりと肩を落とした。どうやっても何も信じて貰えない。なにか証拠があればいいのだが...


(...証拠?)


「あの!未来から来た証拠があります!」


 かなたは、ズボンのポケットにスマホが入っていることを思い出し、手を突っ込むとそれを取り出した。


「な、なんだね、この四角い鉄の塊のようなものは?」


 近藤は初めて宇宙人を見るかのような目で、スマホをまじまじと見つめる。


「これは、スマートフォンと言って、遠く離れた人とやり取りが出来るものなんです!写真も撮れます!」


「遠く離れた人と...?手紙とは違うのか?」


 かなたの説明に、近藤はスマホを手に取りながら首を傾げた。


「今はこの時代に"これ"を持ってる人がいないので....やり取りは出来ませんが、私の居た時代だと、遠く離れた人に手紙のようなものを"これ"で出だすと、すぐに返事がくるんです!」


「ほお...?」


()()()()というのはあの(うつ)()の様なものですよね?撮ると魂が抜かれるという噂の....」


 江戸時代の人間なら身震いしそうな言葉に、沖田は興味津々と目を輝かせる。


「そうです!実際に魂が抜かれることはありませんけどね。撮ってみても?」


「是非、お願いします!」


 かなたは持っていたスマホを三人の方へ向けるとパシャリ、と音を立ててシャッターを切った。


「な、なんだ!音がしたぞ!」


 カメラの音に初めて土方が動揺する。これに驚くとは、なんだかちょっと可愛らしい。


「これです!」


 そう言って、かなたはスマホの画面を三人に見せた。すると、近藤は取り憑かれたようにその画面に魅入る。


「これは...本当に写真か?色がついているように見えるが...」


「しかも、すごく鮮明ですよ....!なんだか未来から来た、と言うのも信じられますよ!」


「何言ってんだ総司。こんなもん、なんかのからくりだろ」


(うぅ....頑固すぎる......)


 土方の警戒さは仕方がないといえば仕方がない。かなたも現代にいた頃に誰かから、『未来から来た』と言われても信じることはなかっただろう。

 すると、その盛り上がりに乗じて、近藤がわくわくとした表情で問いかける。


「ちなみに...この日ノ本は、この新選組は、君たちの時代ではどうなっているのかね?」


 近藤はその答えを笑顔で待つが、かなたにはこの先の出来事を話すのはさすがに言いづらい。何せ新選組はあと6年もすれば、ほぼ全滅する。

 かなたは恐る恐る三人を見た。


「えっと、それは....話してもいいんでしょうか?」


「嘘だから言えねえだけだろ」


「土方さんちょっと黙って!」


「ふごっ!」


 見かねた沖田が土方の口を勢いよく塞ぐ。その姿を見ながら、かなたは目を伏せた。


「あの...私の居た時代とこの時代は違いすぎるので、説明が長くなりますし、そもそも、この話をしてしまったら皆さんは、今から進む道を変えたりするんでしょうか?」


「.....!!」


 かなたの言葉を聞いた近藤たちは、ハッとして我に返る。


「私は、もちろん皆さんのことは助けたいと思っていますが....未来の話をして皆さんの想う信念を(たが)えたくはありません」


 かなたは真っ直ぐとした目で三人を見つめた。押し付けかもしれないが、自分にも敬愛する新選組像がある。


 一瞬、場の空気がぴたりと止まった。


「......わかった、君のことは信じよう」


「...え? いいんですか?」


 かなたは近藤の予想外の言葉に、ポカンと口を開けてしまう。


「おい、近藤さん!」


「トシ、俺たちのことを考えてくれているんだ。悪い子ではないと、俺は思うよ」


「....ックソ」


「あ、あの!ありがとうございます!!」


 納得のいかない土方は、呆れたように目を瞑る。だが、彼が信じられないのもかなたには分かる。なので、ひとつの提案をしてみる。


「あ...でも、土方さんみたいに、すぐには信じられないってのは当たり前だと思います...なのでここは一つ、私を試してくれませんか?」


「というと?」


 その提案に沖田が首を傾げて聞き返す。


「これから起こる出来事について皆さんをサポート...じゃなくて、手助けします!なので、それが本当に当たっていた....というか功績みたいなのを出せたら信じてほしいです!それまではずっと監視して頂いても構いませんし、認められなければ斬って頂いて構いません」


 かなたは再びまっすぐと三人を見つめる。その目に近藤はかなたの信念を感じた。


「トシ、彼女の言うことは理にかなっているとは思うが...」


「はぁ......わかったよ...」


 土方はため息をつくと、冷ややかな目つきでかなたに指をさしながら忠告する。


「だが、おかしな真似をすればすぐ斬るからな」


「は、はい...!ありがとうございます....!」


「じゃあ、これからよろしくお願いしますね!かなたさん!」


 沖田の一言で、かなたはようやく自分の命が一時期といえ、助かったことに力が抜けた。


 ....まあ、ひと息つけたのは、ほんの束の間だったのだけど。

私たちが実際にタイムスリップしたら、やはりスマホを見せる他ないのでしょうか。

一番の証拠ですよね。

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