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新選組トリップ奇譚  作者: 柊 唯
第一章〜江戸時代にタイムスリップ!?〜

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浅葱色

「痛っ...」


 目を開けると、そこは先程までいたはずの駅ではなく、闇に沈む古い日本家屋の前だった。ぼんやり灯る行灯だけが、黒い夜を切り裂いている。まるで、江戸時代の日本に来たような場所だ。


(ここどこ...?夢?........もしかしてこれが噂に聞くトリップってやつだったりする?いや、それともタイムスリップ?)


 地面に手をついたまま、直前の記憶を辿る。確か、駅の階段でつまずいて転んだはずだ。だとするとここはやはり、夢の世界なのだろうか。

 しかし、夢だとしても手についた地の感触が異様にリアルすぎる。


(タイムスリップだとしたらどうする...?帰り方は...?)


 その可能性も視野に入れてみるが、考えれば考えるほどダラダラと嫌な汗が体中から吹き出る。

 とりあえず周囲を確認するべく、目の前の家を見上げる。すると、人影らしきものが視界の端でうごめいた。


「誰だ!」


 その声にかなたの肩はビクリと跳ねる。思わず振り向くとそこには、浅葱色あさぎいろにだんだら模様の羽織をまとった男三人組が立っていた。


(新選組の羽織着てる...撮影かなにかかな?)


 驚きつつも、心は少し高鳴る。

 何を隠そう、かなたは筋金入りの新選組オタクだ。小さい頃からドラマ、アニメ、ゲーム、小説、漫画.....新選組が出るものは片っぱしから漁った。

 大学のレポートでも、新選組の話を用いて教授を困らせるくらいだ。新選組の羽織を着ている人間など、すぐにわかる。


 男たちはジリジリとかなたに近づくと、様子を伺うように目を細めた。


「お前、何者だ」

 そう言うと、一人の男は刀に手をかけた。

 妙に顔の整っているこの男はきっと、土方歳三ひじかたとしぞうだろう。


異国(いこく)のような服を着てますねえ」

 優しくニコニコと笑いながら、かなたのことを見下げているこの長身の男は、沖田総司(おきたそうじ)だろうか。


「君、この家になにか用かね?」

 こっちの男はゴリラみたいなガタイだからきっと、近藤勇(こんどういさみ)だ。


 かなたは男たちを分析しながら、ちらりと周りを見る。どうやら自分は、この家の前の真上から落ちてきたらしい。

 急に出てきたかなたに、彼らはとても警戒しているようだ。


(やっぱりこれ、どう考えてもタイムスリップじゃ....)


「えっ.....と.........」


 『その場合だったとして』の考えが複数頭の中に現れるが、何から考えればいいのかわからず、思考が停止してしまう。


「てめえ、どっかの間者(かんじゃ)か?」


 整った顔立ちの男が刀を抜き、かなたの首に突きつけた。冷たい刃が肌に触れ、背筋が凍る。


「ひっ...!」


 確かなことは一つ。これは映画やドラマの撮影ではない。仮に撮影だとしても、こんな風に一般人に刀を向けることはありえない。せいぜい不法侵入で警察沙汰だろう。

 刀を当てられた首筋に、一筋の汗が伝う。その感触でようやく脳が動き出した。何か、考えなければ...


「あ、あの!」


 かなたは咄嗟に男を見上げた。月明かりの下、土方歳三と思われる人物が刀を構え、自分を見下ろしている。まるで芝居の一幕のように、凛とした佇まいが夜に映えていた。


(美しい...)


 恐怖でいっぱいだったはずの頭の中は、土方の格好の良さに段々と支配されていく。


(.............いや、待て)


 かなたは首を横に振り、すんでのところで意識を取り戻した。

 どんなに大好きな新選組が目の前に居たって、死の間際にいるのかもしれないのだから、それとこれとは違う。


(なにか言い訳を...)


 かなたは、まだ動揺が収まりきっていない脳内をフル回転させた。


「あ、会津藩(あいづはん)お預かり新選組隊士(たいし)の皆様!近藤さん、土方さん、沖田さん、ですよね...?私は遠い未来よりやって来ました、中村かなたと申します!!」


 口から咄嗟に出た口上に自分でも戸惑う。こんなことを言ってしまって良いのだろうか。歴史を変えてしまう可能性を考えていなかった。


「てめぇ、なんで俺たちの名前を知ってやがる。益々怪しいな」


「みらい?」


 沖田は首をかしげ、土方はさらに刀を構え直す。

 どうやら下ろす気は無いらしい。


「ひぃぃぃ....ええっと....」


 後先考えずに、口に出してしまったことを後悔した。頭の回転は早い方だと思っていたが、死の窮地に立たされると、自分の無力さに絶望する。どうしたらいいのか、さすがにまだ死にたくはない。


 すると沖田がうーん、と唸った。


「しかも名前...新選組というのは今日決まった名前ですよ?」


「まだ、名前は広まってねぇはずだぞ。近藤さん、こいつはどこかしらで俺たちを見てた忍びの間者だ。斬るしかねぇ」


「うーん....」


 土方は眉をひそめて近藤を見つめる。近藤は顎に手を当て、顔をしかめた。まずい、どうやら悩んでいるようだ。ここで自分の死を決められても困る。


「ま、待ってください!!!未来から来たって言ったでしょ!?だから名前を知っているんですよぉ!!!」


「じゃあ、何年後の未来だよ」


 間髪入れずに土方が低い声で問う。


「えっと...今は何年何月で?」


 かなたは一番答えてくれそうな近藤に顔を向けた。


文久(ぶんきゅう)三年の八月だが...」


「じゃあ、約160年後です!!」


「はぁ? そんなこと信じられるわけねぇだろ!」


 土方は勢いよく声を上げる。イケメンでも普通に怖いのでやめて欲しい。


「し、信じてください!あなた達を助けに来たんです!」


「助け...というのは?」


 沖田は不思議そうな顔をして、丸い可愛らしい目でかなた見る。


「この先立ちはだかる壁を超える為に助言を...!」


 ほんの数分前までは、「歴史が変わってしまうかも」と思案していたが、よくよく考えると帰る方法も分からないのでもう知ったこっちゃない。今は自分の命が優先することにしよう。


「へえ、楽しそうですねぇ」


 それを聞くなり沖田は再びニコニコと笑いはじめる。思ったよりノリが軽いのか、楽観的な性格のようだ。


「こ、近藤さんお願いです!力になります!助けてください!!」


 かなたは手を揃え、額を地につけた。


「なんだか嘘をついてるようには見えないしなぁ。まあ、話だけでも聞こうじゃないかトシ。こんなにお願いしているんだし...」


「近藤さん!」


 近藤は土方の肩を叩くと、「まあ、いいじゃないか」と優しく微笑んだ。


「ッチ」


 土方は近藤には逆らえないようで、かなたを睨みつつも、渋々刀を鞘に収めた。

 なんとか首の皮一枚繋がったようで、かなたは少し息をつく。しかし、横にいる土方の視線が痛い。


「じゃあ、こちらへ来たまえ」


 近藤は微笑みながら屋敷の方へと手を向ける。

 こうして、かなたは新選組の屯所、八木邸(やぎてい)の離れに通されることになった。

土方は真面目。沖田は楽観的。近藤は優しすぎる。

そんなイメージの3人です。


歴史の補足としては、新選組は旧暦の1863年2月頃に京へ上洛しました。

最初の名前は新選組ではなく浪士組。そこから壬生に滞在することになり、壬生浪士組となり、1863年の八月十八日の政変で新選組という名前を会津藩主の松平容保公によって命名されたと言われています。(諸説あり)

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