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独立研究二課


時は巻き戻り、六時間前。

四ツ木隊長は考えていた。

何か違和感があったのだ。

しばらくの間、彼は幸仁たちが逃げていった通路を眺め続けている。

「ここから地上に逃げていった」

隊員田原が四ツ木の疑問を拾った。

「隊長、何を言っているんですか。地上の出入り口はあっちですよ。

迷宮の出入り口は一つだけですから、ここは行き止まりです」

隊員の一人が告げる。

「何?!つまり、地上には出ていない。『来た道を戻れ、そのまま地上を目指すんだ!』とか言っていたのはブラフか!騙された!」

「ええ。奴らは袋の鼠です。この通路をくまなく探せば、きっと奴らの手がかりは見つかります」

「警察に手柄を持っていかれるのは癪だったから、有難い。

よし、動けるものはこの通路の調査を始めろ!」

「「「了解!」」」



やがて四ツ木隊長に報告がもたらされた。

「見つからなかっただと?」

「はい。間違いありません。こちらが完成した立体地図です。この通り、くまなく捜索しました」

隊員はタブレットを手渡した。

「地形がどうなっているかなど興味ない」

「それは申し訳ありません。ああ、実はもう一つ報告が。

n -000が見つかりました」

「何だと?どういうことだ!」

「頭部、右足、右手、そして『終末の心臓』が欠けていますが、設計図にあった零号機で間違いありません。ゴーレム整備工場らしき場所で発見されました」

「『終末の心臓』は、さっきのゴーレムが持っていたな。

他のパーツもそうなのかもしれない。

奪還しなくては。

とりあえず、発見された零号機は一課に回せ。

できる限りの復元をさせる」

「了解です。ですが、応じますかね?」

「あの男なら応じるさ」

山田副隊長が割って入る。

「四ツ木隊長。報告が」

「何だお前。俺は今機嫌がいい。それを損なうようなことは言うなよ」

「それは無理ですが報告しなくてはなりません。なんていったって、我々の安全に関わることなのですから。簡潔に言います。

迷宮が拡大しました」

「…稀にあることだな。通路が増えたとか、そんなものだろう」

「外側に拡大したのです。洞窟の外も迷宮になっています」

「は?」

「それにより補給が途絶えました。早急に手を打たなくては、我々は干からびます」

「…何だと」

「そのため、他の隊に救援を要請しました。洞窟内の補給地点の全てを放棄して地上に脱出し、救援を待ちましょう」

「何を考えている?そんなことをすれば我が隊の評価は…!」

「そんなものどうだって良いでしょう。とにかく今は未知の現象が起こっています。

安全を優先しましょう。探索は合流してからでもできます」

「ああ、もういい。もう知らん。お前に任せる。

それで、誰が来る?」

「おそらく河寺(かわでら)隊になると」

「あのクソ野郎か。指揮権はどっちが優先されるんだ?」

「同格だそうです。張り合って事態を拗れさせないでください」

「無理な相談だ!あいつは無能なくせに、俺よりも高い評価を受けている。

必ず出し抜いてやるさ」

事態が拗れることを確信して、副隊長は頭を抱えた。



椅子にもたれかかりながら、彼女はパソコンを眺めていた。

腰まで伸びた捻れる茶髪に、グリーンの瞳。

ピアスが揺れ、ネックレスが光る。

陽崎亜理翠である。

「四ツ木隊は蛸霧山の洞窟を捜索中、迷宮に不法侵入した一般人に襲われ5名が重軽傷を負う、だってさ。これが公式発表だよ。笑わせるな。一般人相手に何名が怪我させられているんだよ」

黒い肌の大男がコーヒーを彼女の前に置く。

「迷宮に入った一般人にどうしても罪を着せたいらしいですね。四ツ木隊長は」

「いいや、四ツ木隊長に報道を動かすほどの力はないよ。もっと強い力が働いている。

例えば—」

ドゴォオオオオン!!

入り口のドアが部屋の奥に吹き飛んでくる。

「引くタイプのドアだったとは不覚です」

犯人とは思えない華奢な少女が、ドアがあった場所に立っている。

身長の二回り大きいコートで全身をほとんど覆い隠している。

透明な瞳、銀色の髪は、今の行動がなければ記憶からも透過してしまいそうなほど儚げだった。

「何をやっているんだよ、メアリス」

「申し訳ありません。穴があるなら入りたいし、ないなら掘ってでも入りたい気分です」

「お前にそんな感情はあるのか?」

「わかりません」

陽崎は、コヒーカップを片手に持ち、グリーンの瞳に若干の怒りを滲ませながら問い詰める。

「テメーら、一体どういうつもりだよ」

「卑口教授の紹介でここに…」

「言われなくても、テメーらの正体は知っているぜ。指名手配犯と破壊兵器。

まさか、挨拶する前からこんな問題を起こすとはね。そりゃ、国から狙われるわけだ」

彼女は妖艶な仕草で、メアリスの頬を撫でた。

「しかし、例の破壊兵器がこんな少女とは。まさか、『終末の心臓』を移植したやつの趣味か?」

「聞きたいですか」

「ハッ、つまんねぇ返事だな。そんなのどうでもいいさ」

彼女は、向かい合って設置されたソファーの片側に腰掛けた。

「座れよ、話したいんだろう?」



「卑口教授から話を何処まで聞いていますか」

「教授ね。表ではそうなっているのだろうが、気持ち悪い呼び方だな。

あいつに何が教えられるってんだ。

まぁ、どうでもいいか。

テメーらが追われるに至った経緯と、迷宮探索隊に入りたいって話。

両方知っているぜ」

「俺は迷宮を閉じたいんです。これが事態を解決させると考えているから」

「ほう。何となくやりたいことがわかってきたぞ。

要するに、卑口の野郎は私に迷宮の謎を解明してもらいたいってのか。

迷宮攻略隊独立研究二課のボスである、私にね」

「協力していただけませんか」

「協力も何も、迷宮について調べるのが私の仕事だぞ。

テメーらが来なくてもやっているさ」

黒い肌の大男が、客人である二人の前にコーヒーを置いた。

「では、俺がここに来るよう指示された理由は?」

「ここで捕まるためじゃね?」

「はい?」

「何を驚いている。私はこれでも国の人間だぞ。テメーをとっ捕まえて、その少女を捕獲するのが仕事だ」

「…」

「ま、そんなことはしねーけどよ。『終末の心臓』が手に入れば、分析するのは一課だ。

私がその少女の身体中全てを調べ尽くすまでは、国に売り払うことはしないと約束できるぜ」

「では、全て調べ終えれば売るつもりですか」

「それはテメーら次第だ。

テメーらの働きがよくて、この課に必要不可欠な存在だというなら売らない。

でも、ゴミみたいな働きしかしないなら、上層部へのプレゼントにした方が得だ。

選ばせるのは、テメーらの行動だよ」

「仕事とは」

「迷宮攻略隊独立研究課は、国に忠実な研究者を最大限活用するための組織だ。

迷宮攻略部隊に同行できるという特権が与えられている。

かなり自由な組織で、どんな研究を行ってもいい。

その代わり、定期的な報告会で成果をアピールできなきゃクビだがな」

「俺の仕事は研究の手伝いですね」

「そうだな」

「ですが、新参者が何食わぬ顔で同行していれば、他の隊から疑われないか心配ですが…」

「安心しろ。メンバーが二人、迷宮内で行方不明になっていてな。

上には報告していないから、そいつらと入れ替わって誤魔化すことができるさ」

「なぜ報告していないんですか」

陽崎は、幸仁の唇に指先を押し当てた。

語れないということを暗示している。

「私はこれからあらゆる迷宮に入り、そこで得たデータをまとめて、迷宮化する原因を突き止めようと考えている。

テメーはいい感じに動いて、せいぜい私の役に立て。

役立たずなら、そのうち国のところに送ってやるさ」

「そんなことはさせませんよ」

幸仁は、陽崎が味方なのか確信を持てていない。

破壊兵器を自由に動かせる幸仁に対し、表立って敵対するのは危険である。

だから協力関係を装い、虎視眈々と嵌める機会を伺っている。

そう解釈することも可能なのである。

彼女がそれをする理由はある。

国に恩を売るため。

メアリスを調べ上げるまでは手を出さないと宣言しているが、油断させる罠かもしれないのだ。

警戒しておくに越したことはない。

幸仁はそう結論づけた。

「それじゃ、早速仕事に向かおうか」

「今からですか」

「ああ、蛸霧山の迷宮が拡大したらしくてね。山全体が迷宮になった。

迷宮がこれほど拡大するのは初めてかもしれない。

これは新しい情報が手に入るチャンスだ。

データ収集のため、河寺隊に同行するぞ」

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