第7話 盗まれた名剣 1
ジュース休憩を挟んだ後、俺達は目的地である鍛冶屋へ辿り着いた。
被害に遭った鍛冶屋は営業中らしく、入口の扉が開放されている。
「行きますよ?」
「は、はい」
引き籠りな上に人見知りまで発揮するユナさんが俺の背に隠れつつ、鍛冶屋の中へ。
中から作業音は聞こえてこず、更には人の姿もない。
「すいません! 誰かおられますか!」
店の奥か、あるいは住居として使っている二階か。
どちらにいても聞こえるよう、大きな声で問うてみると――二階に続く階段からドンドンドンと荒々しい足音が聞こえてきた。
降りてきたのはヒゲモジャなドワーフ族の中年男性だったのだが。
「おうおう、客か!? 冷やかしか、バカヤロコンニャローめ!」
随分と……。その、男らしい店主だなと思う。
彼は俺と後ろに隠れるユナさんの顔を見ると、接客用のカウンターにどすんと両手を下ろした。
「ここはデートスポットじゃねえぞ!? ええ!? バカヤロ、コンニャローめ!」
「いえ、デートで来たわけじゃありません」
まずはそこを否定すると、更に階段から足音が聞こえてくる。
遅れて降りてきたのは奥様だ。
「あんた! せっかく来てくれたお客さんになんて態度とってるの! 直しなさいっていつもいつも言ってるじゃない!」
「お、おう。すまねえな、バカヤロ、コンニャローめ……」
すごい。
奥様には勝てないのか、店主がシュンとしてしまった。
ところで「バカヤロ、コンニャローめ」は口癖なのだろうか? 特殊な語尾じゃないよな……?
「あら? 貴方はこの前の?」
「こんにちは。奥様」
旦那へ説教する奥様が俺に気付いてくれた。
俺はここぞとばかりに来店した理由を語っていく。
同時に窃盗犯を捕まえるために協力してほしい、とも。
「盗まれた物ってどんな物なんですか?」
店主に問うと、彼は腕を組みながら苦々しい表情を浮かべる。
「盗まれたのは、全ドワーフが憧れる匠鍛冶師ハッサンが打った名剣――スパチーノだ! バカヤロ、コンニャローめ!!」
匠鍛冶師ハッサンと名剣スパチーノ。
これら二つの名は俺でも聞いたことがあるほど有名だ。
まず、匠鍛冶師ハッサン。
彼は大陸の北にあるドワーフの国で名声を欲しいままにする、剣専門鍛冶師の一人だ。
「確か国で名工『匠』の称号を与えられた、国宝人間でしたっけ」
「そうだ、バカヤロコンニャローめ! 王より直々に与えられる『匠』の称号は全ドワーフ男児の憧れよ!」
そんな『匠』の称号を持つハッサンが打った名剣スパチーノ、聞こえてくる噂はただの名剣を凌駕している。
希少なミスリルで作られた直剣は、単なるミスリル製の剣とは訳が違う。
切れ味は凄まじく、鋼と同等の外皮を持つという鋼ワームの体を易々と両断してしまう。
更には術者が剣に魔法を付与する『魔法剣』の機能も備わっていて、ミスリルの特性も十分に発揮することができる上、性能も通常の物より数倍優れているという。
「名剣スパチーノを実際に使った者達は匠をベタ褒めしていたそうだ! これも噂だがな! バカヤロ、コンニャローめ!」
俺と店主が盛り上がっていると、俺の背に隠れていたユナさんの顔がひょこりと現れた。
「わ、私、名剣ペペチーノなら実際に見たことがあります」
「なにぃ!?」
ペペチーノも同じく匠が作り出した剣である。
こちらも長剣であり、やはりミスリル製のようだ。
「というか、その名剣を親父さんがどうして所持しているんです?」
このままにしておくとユナさんと親父さんがいつまでも喋り続けそうだったので話を進めることにした。
「実はな、二週間前に王都でオークションがあったのよ。そこにスパチーノが出品されると聞いて……」
「この馬鹿は借金してまで剣を競り落としたのよ! 本当に信じらんない!」
「うっ……。だ、だって匠の作品は全ドワーフ男児憧れだしよ……。実物を手にすれば俺の技術も磨かれると思って……。バカヤロ、コンニャロ……」
なるほど、名剣を参考にクオリティアップを図ったということか。
「嘘おっしゃい! 壁に飾って毎日ニヤニヤしてるだけだったじゃない!」
「…………」
奥様の猛追を受け、遂に店主は「バカヤロコンニャロめ」とさえ言わなくなってしまった。
「とにかく、借金までして競り落とした名剣が盗まれてしまったと。他にも盗まれた物があるんですよね?」
「お、おお! 名剣の他にも魔銀で打った剣やら、高い商品が根こそぎやられちまったんだバカヤロ、コンニャローめ!」
他にも高額商品が盗まれてしまい、現在では目玉の商品がスッカラカンの状態だという。
「じゃあ、まずはスパチーノの捜索から始めましょう」
一番高額な商品は名剣スパチーノだ。
有名な剣でもあるため、窃盗犯も簡単には売りさばけまい。
オークションなんぞに出品すればたちまち噂になってしまい、自分の犯罪を晒しだすようなものだ。
相手が国外に持ち出すことを一番に考えていた場合は魔導具の範囲外に出ている可能性が高いが、それならそれで他の盗まれた商品の行方をヒントに犯人を探し出せるかもしれない。
とにかく、魔導具を試してみよう。
俺は店主に魔導具の効果と使い方を教え、早速試してもらうことにした。
「これを持ちつつ、頭の中に名剣スパチーノを思い浮かべるんだな?」
「はい、お願いします」
「よし……。スパチーノ、スパチーノ……。カッコ良くて、切れ味がすごくて、フォルムも他と違ってシャープで……」
いちいち口に出す必要はないが、イメージがより明確になるなら仕方ない。
彼の想像力に期待していると――ピコン!
「光った!」
水晶玉に小さな光の点が発生する。
ということは、まだ王都内に名剣スパチーノがあるということだ。
「あれ? 随分と点が近くありませんか?」
しかも、光る点は水晶玉の中央から数センチほど斜め左上にある。
「こ、これ……。すぐ近くにあります」
「え!?」
ユナさん曰く「近所にある」レベルの近さ。
現在地である鍛冶屋から数十メートルの範囲内を示しているという。
「……犯人は近所の人? あるいは、犯人が大胆にも盗難現場の近くに拠点を構えているとか?」
「あ!? もしかして!?」
俺が推測を口にすると、店主が声を張り上げた。
「俺がスパチーノを落札した時、最後まで争ってたのはゴッゾの野郎だ!」
「ゴッゾ?」
「近くに店を構える鍛冶屋の店主だよ、バカヤロコンニャロ!」
ゴッゾ氏は彼と同じくドワーフ族の鍛冶師であり、店が近所ということもあってライバル店同士の関係性だったという。
しかも、名剣スパチーノが出品されたオークションに彼も参加している上、店主と最後まで競り争った人物らしい。
「あの野郎、最後まで恨めしそうに俺を見ていたからな!」
落札した店主を見る目は相当なものだったようで、嬉しさもありながら同時にゴッゾ氏への怖さも感じてしまったという。
彼は競り負けたことが悔しく、窃盗という手段に出てしまったのだろうか?
「窃盗に手を染めるような人なのですか?」
「普段は寡黙な野郎だったな、バカヤロコンニャローめ」
「う~ん。物静かな人って印象だったわねえ。家族は他の国にいるらしく、自分は鍛冶師として独り立ちしたって話を近所の人から聞いたような」
店主と奥様はそれぞれ印象を語るが、普段の様子からは犯罪に手を染めるような人物には見えなかったという。
「た、匠の剣は人を狂わす……」
「何ですか? それ?」
背後に隠れるユナさんが口にしたことを問うと、匠鍛冶師ハッサンの作品はその出来栄え故に『人を魅了する力』があるという。
「け、剣に魅了され、魅了された人は剣に狂うんです」
「つまり、欲に負けてしまう?」
「そ、そうです。どうしても欲しくなっちゃうって話です」
ユナさんの話を聞いたあと、俺は店主に顔を向けた。
彼も借金を作ってまで欲しがったんだ。
剣に魅了された一人、と言えるのではないだろうか?
そして、現在最有力容疑者として名が挙がっているゴッゾ氏も。
「とにかく、ゴッゾ氏の家を調べてみましょうか。まずは騎士団に伝え――」
「ようし、分かった! バカヤロ、コンニャロ! あの野郎から今すぐ俺の剣を取り戻してやるッ!」
「ちょ、ちょっと!」
早とちりしたのか、あるいはこれも剣の持つ魅了の力なのか。
どちらにせよ、店主は俺の制止を振り切って店を飛び出してしまう。
「お、追います!?」
「ええ! このままだと彼が捕まってしまいますよ!」
俺とユナさんは慌てて店を飛び出し、先に突っ走っていく店主の後を追いかけた。
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