第6話 初めての魔導具
翌日、俺は独自に盗難事件を捜査する――ことになったと言っていいのだろうか?
どちらかと言えば、ユナさんが興奮気味に言っていた『いい物』の実証試験と言った方が正しいのかもしれない。
問題は彼女の言う『いい物』の正体だ。
「これは探し物を見つける魔導具、探し物サガース君です」
この人はだらしないだけじゃなく、ネーミングセンスも危ういらしい。
「探し物を探す?」
手渡された魔導具の大きさは大判の本を広げたくらい。結構重量があるので両手で持たないと厳しい。
真ん中には水晶玉がはめ込んであり、左側には魔導具を起動するための起動レバーが。
反対側には魔導具を動かすために必要なエネルギー源『マナジェル』が充填された『マナジェルカートリッジ』が差し込まれている。
「これは探知魔法を応用した魔導具であり、使用者が連想したイメージを元に探し物がどこにあるかを教えてくれます!」
ユナさんはフンス! と鼻息を荒くしながら説明してくれた。
……ユナさんって魔導具の説明になるとハキハキ喋るんだなぁ。
「そんな便利な魔導具が。ユナさんが作ったんですか?」
「そうです」
「すごい。さすがは魔導技術師」
「えへん!」
調子に乗っている彼女も可愛い……いかん、いかん。
邪な考えを浮かべている場合じゃない。
「これって試作品ですか? まだ世に出ていませんよね?」
「そうですね。作ってみたものの、実は欠点があって」
正式名称『探し物サガース君 プロトタイプ一号』を作った経緯は、ユナさんがどこに仕舞ったか忘れてしまった物を探すために作ったとのこと。
あの汚部屋ならぬ汚研究室なら探し物が見つからないのも納得だが、探すために試作品を作り上げてしまうのも……。
ユナさんがズレているのか、あるいは素晴らしい発想の持ち主なのか、どちらが正解かは置いておこう。
とにかく、彼女は自身の探し物を探すために試作品を完成させたようだが。
「探知結果が大雑把すぎるんです」
「大雑把?」
「はい。試しに何か探してみて下さい」
そう言われ、俺はトイレ掃除用の雑巾を探すことにした。
使い方は簡単。
起動レバーを起こし、しっかりと取っ手を握って、見つけたい物を頭の中で思い浮かべるだけ。
使用者に代わって魔導具がオリジナルの探知魔法を行使し、探し物の場所を水晶玉に映し出してくれるという。
この時、思い浮かべる物のイメージ像が明確であればあるほど良い。
曖昧すぎると探知に引っ掛からなかったり、同じような物を同時に探知してしまうらしい。
「トイレ用の雑巾は水色で……。あとは中央にバツ印の縫い目があって……」
あとは右下の方に『特別開発室用』の刺繍もあったよな?
よく使う雑巾のイメージを頭の中で連想すると、水晶玉の中心にピカッと小さな光が灯る。
「光の位置は探し物がある場所を示しています。水晶玉の中央が自分の立っている場所だと思って下さい」
「となると……?」
自分の位置と探し物の位置が同じだが?
ユナさん曰く、これが魔導具の欠点だそうで。
「詳細な位置まで教えてくれないんです。この場合だと塔のどこかにある、といった感じですね」
トイレ用の雑巾は洗って地下室に置いてあるはずだが……。
確かに大雑把すぎるかも。
「つまり、外で使うと?」
「光が中央に来るよう歩き回り、その通りになったとしても……。隣にもう一軒家があったらそっちかもしれません」
なるほど。大雑把だ。
「いや、しかし……。王都内にあるか無いかを判別するくらいは出来ますよね?」
「そうですね。探知魔法の出力的に、王都の外にあれば光は表示されないはずです」
探すヒントくらいにはなりそうだな。
王都内にあるか否かが判明しつつ、大まかな場所さえ分かれば……あとは元同僚にお任せすればいい。
「他に欠点はあるんですか?」
「大量にマナジェルを消費するくらいでしょうか。ほら」
ユナさんがそう言っている間に光っていた光が消え、同じく光っていた水晶玉も光を失ってしまった。
差し込んであるマナジェルカートリッジを引っこ抜いてみると、人差し指サイズのカートリッジ内に満たされていたマナジェルが消失してしまっている。
「本当ですね。この短時間でカートリッジ一本を喰うんですか」
軍用兵器である魔導鎧やヒートブレートに採用されているマナジェルカートリッジの規格はこれよりも大きい物だが、それでも稼働時間は一時間は持つ。
そう考えるとすこぶる燃費が悪い。
「一時的に探せればいいと思って作った物なので……。エネルギー効率はほとんど無視しているんです」
「なるほど。しかし、これを改良したら素晴らしい魔導具になるんじゃありませんか?」
迷子になった子供やペットを探す時とか。
騎士団でも使えると思うんだよな。
今回みたいに窃盗事件とか、誘拐事件とか。
配備されれば応用が利くと思うのだが。
「アルフレッドさんに相談したら却下されてしまいました」
「殿下に?」
「はい。良い使い方もできるけど、悪い使われ方をしたら大変だと」
特に極秘任務に従事している者だとか、お忍びで移動する王家の方々など。
改良した物が出回った場合、そういった状況が明らかになってしまう可能性があるとのこと。
「……確かに問題ですね。警備にも支障が出そうです」
仮に悪い連中が王家を狙っていた場合、御身を隠して移動しても魔導具があればバレてしまうことになる。
そうなれば狙いうちだし、隠れて移動する意味が失われてしまう。
こちらが悪人を追跡する手段としても使えるが、悪人側もこちらを追跡する手段として使えてしまうことにもなる。
万が一の事態を想定していたらキリがないが、そもそも懸念材料にならないためにも『作らない』という手を取ることもあるってことか。
いや、正しく言えば世に出さない、かな?
「これ、使ってよろしいんですか?」
「私達だけなら。試験の範疇になりますから」
あるいは、研究のための実験とでも言い訳は利きそうだ。
「試してみてもいいですか? 騎士団に情報提供するチャンスにもなりそうですし」
「構いませんよ。私も興味があります」
なんとユナさんも同行するつもりらしい。
「……じゃあ、まずは着替えましょうか」
「え?」
え? じゃないでしょ。
だるんだるんのキャミソールにショートパンツで外に出るつもりですか。
「着替えましょう」
「え~」
「着替えましょう」
俺は何度も同じ言葉を口にして圧を掛ける。
「……はい」
大人しく折れてくれて助かった。
◇ ◇
「ど、どうですか……?」
外出用の服を着たユナさんが一階に降りてきたのだが、俺はその姿に目を奪われてしまった。
ユナさんの恰好は白いシャツに薄緑色のカーディガンを羽織り、下はお上品なロングスカート。
まさしく、ご令嬢の外出といった感じの服装である。
「へ、変ですか?」
「まさか。似合っていますよ」
お清楚。
普段のだらしない恰好からは想像もできないほどお清楚。
しかも、先ほどまでピョコピョコと跳ねていた寝ぐせまで直っていらっしゃる。
「では、参りましょう」
「は、はい」
とはいえ、ここからは俺も気合を入れないと。
魔導具の試験も兼ねた外出だが、俺は彼女を守る『護衛』の任務も全うせねばならないのだから。
「い、一ヵ月ぶりに外へ出ました」
引き籠りすぎだろう。
彼女は「日差しが眩しい」などと言っているが、今にも溶けてしまうんじゃないかと心配になってきた。
「大丈夫ですか? 歩けますか?」
「あ、歩けます」
歩幅が短いけど、彼女は一生懸命歩いている。
母性が湧き出そうだ。
「盗難被害にあった鍛冶屋は西区にあります」
「西区……」
王城の敷地を出た後、緩やかな坂道を前にして西区を指差す。
「が、頑張ります……。でも、途中で歩けなくなったらおぶって下さい」
「……運動もしないと体に悪いですよ。出来る限り頑張りましょう」
おぶったらその大きな果実が自分の背中で潰れるな、なんて考えていない。
考えていない!!
その後も危なっかしい足取りで歩くユナさんを注意深く見つつ、同時に周囲の気配にも気を配る。
護衛に集中することで気を紛らわすのだ。それしかない。
ただ、俺はユナさんの引き籠りパワーを甘く見ていたとも言わざるを得なかった。
「ひぃ、ひぃ……」
城から続く坂道を降り、北区を抜けて中央広場に到達したところでユナさんは肩で息をし始めてしまった。
「……さすがに体力がなさすぎませんか?」
箱入りの貴族令嬢でももう少し歩けると思うが。
「う、運動不足であることも認めますが、ひ、人が多すぎます」
ここは王都ですからね。
そりゃ、人も多いですよ。国内一の人口ですよ。
「ひ、人が多すぎて緊張します……。ず、ずっと見られている気がして……。き、緊張で余計に体力を使います」
そんな馬鹿なと言いたいところだが、実際彼女は注目されているのも事実である。
だって美人だもの。
お清楚で美人な女性が歩いていたら男女問わず視線を向ける。
まさしく目を奪われるってやつだ。
しかも、男性に限っては彼女の体型も視線を奪う要素として加わってしまうので余計だろう。
「休憩しますか?」
「は、はひ」
ユナさんは俺に向かって手を差し出してきた。
手を取り、支えて欲しいということだろうか。
「……失礼します」
ご要望通り、彼女の手を優しく握って近くのベンチまで誘う。
「ふぅぅ……」
ベンチでぐったりするユナさんは体温の上昇を感じたのか、服の胸元を引っ張ってパタパタと風を送り出す。
塔の中じゃないんだから。
そういう仕草をするから困るし、注目を浴びるんだと思うんだが……。
思わずため息を吐きそうになると、彼女が中央広場で営業しているジュース屋をじっと見ていることに気付いた。
「……喉が渇きました」
彼女は「ジュースが飲みたいな」と言わんばかりに、上目遣いで俺を見つめてくる。
しかも、俺の服をちょこんと摘まんでおねだりしてくるのだ。
「自分が購入してきます。ここで待ってて下さい」
「はい!」
こういう時はすごく良い返事。
食事の時もそうだが、自分の要望が通った時は子供のように返事するのだ。
それがまたギャップを感じて……いやいや、俺は何を考えているんだ。
俺はジュース屋まで向かい、数あるメニューの中からリンゴジュースをチョイス。
彼女、リンゴが好きだからな。
これもこの一週間で判明したことだ。
お店のお姉さんがジュースを作っている間、ユナさんの方を注意深く見やる。
ナンパ野郎が近付かないよう、近くを通りそうな男性には「殺す殺すゥ!」と対魔獣戦ばりの殺気を飛ばしておく。
その甲斐あって、ユナさんに近付く男は皆無だった。
「お待たせしました」
「あ、ありがとうございます」
コップを受け取ったユナさんがジュースを一口。
中身がリンゴジュースだと知ったからか、彼女の顔がパッと輝く。
「リンゴジュース、好きですよね?」
「は、はい。よく分かりましたね」
「もう配属されて一週間ですから。さすがにユナさんの好みも分かるようになってきました」
俺がそう言うと、彼女は恥ずかしそうに笑う。
「えへへ……。嬉しいです」
お清楚な服装も相まって、自然な笑顔を浮かべた彼女は良いところのお嬢様にしか見えない。
いや、実際そうなのだけど。
しかし、この一週間でだいぶ打ち解けられたなと思う。
職場での関係構築はまず成功したと言えるだろう。
「あっ、ニールさんも飲みます?」
「いえ、大丈夫です」
だが、さすがに飲みかけのジュースを差し出すのはいかがなものか。
毎度思うが、この人は無意識にやらかしすぎる。
護衛騎士兼助手兼世話係な俺がこういった面を心配してしまうのは、日々俺の母性が急成長しているからに違いない。
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