第44話 新型魔導兵器試験
同日の午後、俺達は早速本物の魔獣を相手に試験を行うことになった。
想定する相手はブラウンボアだ。
まずは一~二体を相手に効果の確認を行おうとなった。
ただ、俺は少々懸念を抱いている。
「また結晶化個体が出現しないだろうか?」
結晶化したサンダーディアとの遭遇は単なる偶然?
しかし、再び結晶化個体が現れた場合、俺はユナさんやグレンの親父を守りきれるのか?
今、王都の外で試験するのは危険なんじゃないだろうか?
考えすぎかもしれないが「もしも」が頭を駆け巡ってしまう。
ユナさんが誘拐された件もあって、過敏になりすぎているだけだろうか?
「いや、さすがに偶然じゃねえのか? そう何体も王都近郊に生息していたら、今頃は王都全体で騒ぎになってるだろ?」
親父は考えすぎだ、と。
現に朝から商会の馬車が王都を出発しているのを目撃しているし、報告を受けてから王都騎士団も街の外を警邏しているはず。
そういった状況の中で騒ぎになっていないのだから、あれは単なる偶然だった。単に運が悪かっただけ、と。
「そんなに心配なら王都の近くで探したらどうだ? ブラウンボアなんざ、こっちが立ち止まってても向こうからやって来てくれるだろ?」
「確かにそうだが……」
なんか嫌な予感がするんだよな……。
「多少のリスクは俺も嬢ちゃんも承知の上だろう」
「は、はい。ニ、ニールさんの心配も分かります。でも、素材の効果を正しく把握できれば、結晶化個体も簡単に倒せる武器が作れるかもしれません」
親父の言葉にユナさんまで頷く。
「……承知しました。では、王都の近くで試験しましょう」
何かあればすぐ逃げれる範囲内で。
俺はそう決めて試験へ望むことになった。
その後、俺達は王都の外へ。
王都から歩いて十分以内の距離をうろつく。
「ほら、馬車の往来も警邏の騎士も多いじゃねえか」
街道を行く商会馬車の数は普段通りで、五分ほど歩いただけでも四台の馬車が俺達の脇を走り抜けていく。
それに続き、警邏隊を組んだ騎士達も街道に沿って進んでいく姿が見られる。
やはり、心配しすぎだっただろうか。
「おっと、早速お出ましみたいだぞ」
親父が北西の方向を指差すと、そこには土煙を上げながら街道方向へ走る茶色い物体が。
ブラウンボアだ。
恐らく、街道を走る馬車を見つけたのだろう。
「馬車はとっくに通過してんのに、どうして街道へ突っ込んで行くんだろうな」
「動く物体に興奮しているんじゃないか?」
騎士達から『馬鹿猪』と言われるだけはあって、もう誰もいない街道に向かって突っ込んで行くブラウンボアの姿はよく見られる。
元々気性が荒い魔獣ということもあるが、恐らくは敵と思われる存在を認識したら「殺られる前に殺れ!」と頭がいっぱいになってしまうんじゃないか?
「馬車がいないからキョロキョロしてるぞ」
街道へ飛び出したブラウンボアは道の中央で足を止め、顔と体をぶんぶんと振り回しながら「いねえ!?」と言わんばかりのリアクションを見せる。
改めて観察していると、どうにも憐れな魔獣に見えてしまうな……。
ただ、だからといって油断できないのがブラウンボアという魔獣だ。
「ほら、次はこっちを見つけたぞ」
キョロキョロとターゲットを探していたブラウンボアがこちらに気付いた。
そっちにいたか! と言わんばかりに前足で地面を掻き、反った角を前に突き出しながら突撃を開始。
「下がって!」
俺は親父とユナさんに退避指示を出し、射出機のある左腕をブラウンボアへ向ける。
有効射程距離内に入った瞬間、ボタンを押して角を射出。
帯電した角がブラウンボアの鼻付近に当たった、と思った瞬間――
「ブモォォォォ!?」
バヂン! という強烈な音と共にブラウンボアの体が跳ねた。
そのままブラウンボアは横転して地面をスライド。ようやく止まるも、体は激しい痙攣が続く。
体の痙攣が止まると角が突き刺さった鼻付近からは焦げた匂いと小さな煙が立ち上がる。
「…………」
ワイヤーを巻き取らず、そのまま近付いて死亡確認を試みる。
ブラウンボアの目は白目を剥いており、足で死体に触れてみるも反応は無し。
死んでる。
「大丈夫です!」
後方に退避した二人を呼び、死亡したブラウンボアの状態を詳しく確認することに。
「角は完全に突き刺さってるな。射出する威力は十分そうだ。それに加えて、突き刺さった部分は黒焦げ」
親父の見立ててでは角から発生した雷魔法がブラウンボアの脳を内側から焼いたのだろう、と。
当たり所が良かったのもあるかもしれないが、現状の魔力供給量は絞っている。
もっと供給量を上げれば雷魔法の威力も相対的に上がることから、頭部以外の場所に着弾しても十分な効果は認められるだろうとユナさんも評価する。
「しかし、突っ込んで来る相手を一撃で倒しますか。これはかなり有効的な魔導具になりそうですね」
ブラウンボアの討伐がかなり捗るんじゃないだろうか?
繁殖期に行う大討伐時にも活躍しそうだし、新人が扱う分にも杭デール君よりは簡単そうだ。
「問題は素材の供給量だよな」
強い兵器が作れそうだが、問題は親父も言った素材の供給量。
結晶化個体の素材は凄まじい威力を発揮すると判明したが、それを生産するための数が足りない。
それに結晶化個体が王都近郊で頻出するなど、地獄もいいところだ。
むしろ、常に供給不足である方がフォルトゥナ王国民のためになると思う。
「まぁ、その点は代替素材を探せばいいんじゃねえか?」
「そう簡単に見つかる――ん?」
視界の端に違和感を感じ、そちらを注視すると一際大きな土煙を上げる物体が見えた。
あれもブラウンボアか? とバイザーを上げながら睨みつけるように観察を続けていると、土煙を上げながら接近してくる物体の速度が桁違いに速い。
徐々に姿も露わになっていき、俺の目に映ったのは――
「マズい! 下がれッ!!」
俺は焦りながらも前へ飛び出した。
こちらへ急接近してくる物体はブラウンボアで間違いない。
しかし、頭部の半分が太陽の光を吸収しながら光り輝いている。
結晶化個体だ。
俺達に向かって突っ込んで来るのは、ブラウンボアの結晶化個体だ。
「これも偶然か!?」
あり得ない。
こんな短期間に二体目の結晶化個体と遭遇するなんて。
「どうする……!」
まずはヤツの進路をズラす必要があるか。
親父やユナさんに近付かないようにしないと。
俺は敢えて相手に向かって走りつつ、左腕の射出機で狙いを定める。
「効いてくれッ!」
内心で祈るように角を射出しつつ、右手では腰のヒートブレードを抜く。
射出された角はブラウンボアの耳付近に着弾、同時に相手からは悲鳴のような鳴き声が上がる。
「それでも止まらんかッ!!」
だが、結晶化個体の突進速度が若干ながら落ちた程度。通常個体とは違って即死には至らない。
急いで角を巻き取って魔力を充填させつつも、俺は相手を誘導するように斜め前へ進路を変えた。
「釣れた!」
完全に向こうの狙いは俺だ。
これで後方にいるユナさん達から引き剥がせる。
「二度目はどうだ!?」
充填の終わった角を再度射出。
今度は前脚の付け根に着弾すると、雷が流れているであろう前脚が大きく跳ねて痙攣を起こす。
痙攣して動かない前脚がもつれて転ぶ――
「なッ!?」
「ブモォォォォッ!!!」
転ぶのではなく、無事な前脚で強く地面を踏むことで飛んだ。
怒り狂ったような表情のブラウンボアは、突進の勢いのまま俺に飛び込んできたのだ。
――いいだろう、受けて立つッ!!
「オオオッ!!」
飛び込んでくるブラウンボアに対し、俺はヒートブレードを突き上げる。
狙いは下顎。
タイミングはバッチリ。脚の踏ん張りも十分ッ!!
突き上げたヒートブレードはブラウンボアの下顎に突き刺さり、そのまま頭部を貫通。
「ぐっ」
腕と足に圧し掛かる重さに耐えつつ、傷口から吹き出る返り血を頭から被って。
相手はまだ前脚を掻くように動かしているが、徐々にその動きにも力がなくなっていく。
弱々しくなった動きの果て、遂にブラウンボアからガクリと力が抜ける。
「よっと」
突き刺さっているヒートブレードから手を離し、そのまま投げるように死体を地面へ転がす。
「……今回も何とかなったか」
後方を振り返ればユナさんと親父の姿が確認できる。
二人とも無事だ。
だが、俺の嫌な予感は見事的中したということになる。
「どうなっているんだ?」
やはり、偶然とは思えない。
俺は死体を見下ろしながらも、内心に不安と焦りが充満していくのを自覚した。
「ニールさん、大丈夫ですか!?」
「無事か!?」
「あ、ああ。大丈夫。今日の試験は終えましょう。急いで王都に戻りますよ」
俺の提案に二人は深く頷く。
「もちろんだ。この死体も王立研究所に運び込むんだろ?」
「ああ。俺が運ぶよ。とにかく、すぐに帰ろう」
俺は結晶化個体の死体を背負い、二人を連れて逃げるように王都へ帰還した。




