第43話 素材検証 実施編
翌日、ユナさんとグレンの親父は結晶化個体の角を使った試作品の製造に取り掛かる。
既に完成している魔導具を元にすること、過去に製造したパーツを流用したこともあって、検証機の組み上げはすぐに終わった。
「と、取り付けますね」
検証機の外見はほぼワイヤー射出機と変わらない。
以前のフックに変わって、射出口から青白く鋭利な角が飛び出しているくらいだろうか。
それを左腕――杭デール君とは違って通常タイプの左腕に取り付ける。
フレームに沿って伝う魔力伝導体と接続し、魔導鎧の胸部を開けて起動させた。
すると、射出口から飛び出した角が青く白く光り始める。
「ま、魔力は伝わっていますね」
角に魔力が流れ、発光していることが成功の証。
しかし、発光し続ける角が微弱な振動を起こしているのか、射出口で「カチカチカチ」と小さな音を出していた。
「角が振動しているが大丈夫か?」
「ま、魔力が流れすぎているのかも」
ユナさんに魔導鎧の胸部を開けるよう指示された。
胸部パーツを開放すると、彼女はエレメントコアから流れる魔力の量を微調整し始める。
振動がどう影響するのかは謎だが、今回に限っては慎重に事を進めた方がいいだろう。
「魔力過多で角が爆発しても怖いしな」
グレンの親父が怖いことを言う。
ただ、素材自体も貴重な物だし、慎重になるのは良い判断だと俺も思う。
ユナさんが胸部パーツの内側にあるツマミを慎重に動かしていると、角の振動が徐々に消えていく。
次第にカタカタと鳴る小さな音が完全に消えた。
「こ、これでどうでしょう?」
「大丈夫そうですね。じゃあ、着て――いでっ!?」
魔導鎧を装着しようと左腕に触れた途端、俺の手がバヂンと弾ける。
「大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫です。少し痛かったくらいで……。怪我はありません」
自分の手をまじまじと観察し、握ったり開いたりを繰り返すが手の動作に問題はない。
痛みも一瞬だけだったし、後々手がどうかなるって心配もなさそうだが。
「雷が左腕の中に溜まっちまってんのかもな。魔力供給部分以外はイエロースライムのカバーで覆うってのはどうだ?」
イエロースライムは雷に強い特性を持つ種類であり、死亡したイエロースライムの体を乾燥・加工することで絶縁体の特性を持った加工製品になる。
雷魔法を得意とする魔法使いも杖にイエロースライムカバーを巻きつけていて、杖に残った雷から自身の手を守るという安全策を施しているのが有名な使用用途だ。
それに倣い、射出口の内側にカバーを取り付けていく。
この状態で再起動し、角に魔力を流して……。
「触りますね」
先ほどと同じ魔力供給量だから一瞬だけ触るくらいなら平気だろう、と俺が率先して試していく。
ユナさんは不安そうな顔をしているが、これくらい何ともない。専用機材を用意する分の時間短縮に繋がるならいくらでもやろう。
今度は一瞬だけ左腕に触れるが……。
「大丈夫ですね。痛みもありません。むしろ、何も感じません」
ペタペタと腕の装甲を触っても問題ないし、射出機自体に触れても問題ない。
最初の問題点は無事に解決できたみたいだ。
「じゃあ、外で実際に試しましょうか」
「はい、そうしましょう」
というわけで、俺達は塔の外へ。
「角の強度はどうなんでしょう? 金属も貫けるほどの硬さがあるんでしょうか?」
「触ったり、叩いたりした感じ強度はありそうなんだけどな。まずは柔らかいモンから試した方がいいんじゃないか?」
試験ではお馴染みになっている鋼の案山子を二体用意しているが、ここに追加で藁の案山子も用意。
まずは親父が言った通り、藁の案山子で試していく。
「行きます!」
狙いを定め、射出機のボタンを押すと勢いよくワイヤーが射出された。
先端の角はボスッと音を立てながら案山子の頭部に突き刺さる。
おっ! と俺が声を上げようとした瞬間、突き刺さった角が『ジリリリッ!』と甲高い音を発した。
音が鳴った瞬間に強い閃光を放ち、案山子の頭部がボンッ! と爆発四散。
残った案山子の体は発火して燃え始めてしまう。
メラメラと燃える炎は徐々に大きくなっていき――
「あっ!? 水! 水!」
「マズい! 火事だけはマズい!」
てんやわんやの状況になってしまったものの、俺達は無事に消火活動を終えた。
黒焦げになった藁の案山子を前に安堵の息を吐く。
「危ねえ……。城の敷地内でボヤ騒ぎを起こすところだったぜ」
「洒落になってないな……」
少々トラブルはあったものの、効果自体は確認できた。
「せ、閃光がかなり強かったですね。雷の威力は十分かもしれません」
角から発生した閃光は結晶化個体が生きている時に見せるものと同レベルか、少し弱い程度。
となると、角から発生する雷の威力も結晶化個体のものと遜色ないのかもしれない。
「次は金属の案山子で試してみますか?」
「は、はい」
というわけで、次は鋼の案山子で試してみることに。
「行きます!」
ボタンを押して射出!
同じ勢いで射出された角はどうなるか。金属に対しては弾かれてしまうか?
「あっ」
予想通り、角が案山子に当たるとカチン、と音を立てて弾かれてしまった。
弾かれた角は空中を舞いながら閃光を発し、雷を帯電させたまま地面に落ちる。
「巻き取ります」
ワイヤーを巻き取って角を回収。
……うん、帯電した角を巻き取っても問題ない。
さて、次は案山子がどうなったかを見てみよう。
「頭の部分に若干のへこみがありますね。金属に突き刺さらないのは微妙でしょうか?」
「どうだろうな。鋼ほどの強度を外皮に持つ魔獣っていたか? それこそロックラプトルくらいじゃねえか?」
「あ、あとはハガネガメも」
いくつか名前が挙がるが、フォルトゥナ王国内に生息しているのはこの二種くらいだろうか?
「そっちは杭デール君で対抗できますからね。使い分けすれば問題無いんじゃないでしょうか?」
硬い相手には杭デール君、それほど強度を持たない相手にはこちらで、と状況によって使い分ければ問題はない。
他には雷による効果だ。
「へこみがあるだけで焼け焦げたような跡はありませんね。角が対象に突き刺さらない限り、発生させた雷による効果は与えられないのでしょうか?」
「しゅ、出力を落としているってこともありますが、恐らくは対象に突き刺さった方が本来の効果を発揮できると思います」
なるほど。
となると、やはり硬い相手には杭デール君を使う方が猶更良さそうだ。
「角自体は……。先端が欠けていることはなさそうですね」
案山子と衝突した角を確認してみるも、先端が掛けたり割れたりといった損傷はない。
なかなか耐久性はありそう。
「対象は藁以上、鋼未満か。鉄も難しそうじゃねえか?」
「となると、ブラウンボアやサンダーディアのように通常の肉体を持つ魔獣が対象か?」
次は『肉』で試してみようか、と。
夕飯に使うはずだったブロック肉を塔の冷蔵庫から持ち出し、それを的に使ってみることに。
「いきます」
射出された角は肉に命中。そのまま雷を発生させて――
「……ウェルダンどころか真っ黒焦げだ」
肉は中から真っ黒に焦げ、黒く焦げた塊になってしまった。
触るとボロボロと崩れるくらいに。
ただ、ブラウンボアのような魔獣相手にはかなり効果的なのではないだろうか?
何せ、肉体の内側から攻撃を加えるのだ。
相手を選べばヒートブレードや杭デール君以上の力を発揮するかもしれない。
次のステップは実際の魔獣を相手にして検証する、となったのだが、俺はまず目の前の任務をクリアせねばならなくなった。
「今日って肉、安かったっけ……?」
夕飯用の肉を買い足すという任務。
今日も俺は市場へ赴くことになりそうだ。




