第21話 人が消える謎
犯人と思われる三人組が忽然と姿を消した後、俺は騎士団本部へ駆け込んで事情を説明。
詳しい情報提供を行った後に帰宅した。
翌日、この件についてユナさんに意見を求めることに。
「ひ、人が、き、消えたですか?」
「ええ。曲がり角を曲がったら姿が無くて。忽然と姿を消してしまったんです。こんなことあり得ますかね?」
ユナさんは「うーん」と少し悩んだあと、彼女はサラリと「魔法ですかね」と推測を語った。
「やはり、魔法ですか?」
「そ、そうとしか考えられませんよね。三人組の中に魔法使いがいたんじゃないですか?」
続けて、隠れていた俺が察知されたのも「探知魔法による発見なのでは?」と首を傾げる。
「ニ、ニールさんもご存じの通り、ま、魔法はこの世の基礎となりながらも最強の座を欲しいままにする技術です」
彼女の主張は正しい。
というか、この世の常識だ。
「さ、最近は魔導技術が注目されていますが、そもそもの話。魔導技術は魔法が下地にあります。錬金術だってそうです」
魔法とはこの世において最初に生まれた技術であり、同時に様々な技術を生み出した基礎でもある。
魔法という技術が生まれなければ魔導技術も錬金術も生まれなかった。
技術革新だと騒がれる魔導技術が注目されがちだが、前提条件である魔法という存在はかなり大きい。
「戦闘面においても魔法は強力な武器ですからね」
加えて、戦闘面などあらゆる面で『最強』を誇る奇跡でもある。
対魔獣戦闘に魔導鎧やヒートブレードなど、魔導技術が導入されつつはあるが、まだまだ魔法という最強武器には及ばない。
魔法の地位を脅かすほどでもない。
正直に言えばヒートブレードを持った騎士が十人束になって突撃するよりも、三人の魔法使いが魔法を連射する方が火力は出る。
魔獣を討伐するにしたって簡単だ。
ただ、それがいつだって可能じゃないからこそ、発展型の技術が生まれたとも言える。
つまり、最強たる魔法にもデメリットはあるって話だ。
「ま、魔法はすごいです。万能感に溢れています。ですが、魔法使いの数が少ないです」
そもそもの話、この世に生きる人間全てが魔法を使えるわけじゃない。
全人類は体内に魔力を秘めている、とも言われているが、全員が全員魔法を発動できるか? と言われたら否である。
現に俺は魔法を使えない。
魔法使いが魔法を使うために行う『魔力を練る』という行為ができないからだ。
俺だけに限らず、魔法使いか否かを決めるのはここが最初のポイントとなるだろう。
「絶対数が少ないだけに魔法使いはエリート中のエリートですからね。どの国も魔法使いは積極的に囲みますし」
国は常に魔法使いを探している。
新しく生まれた子供も十歳になると「魔法使い検査」を受けることが義務付けられているくらいだ。
俺も十歳の時に親に連れられて教会へ行き、そこで派遣された魔法使いから検査を受けたっけ。
今思えば、あれが人生最初の魔法使いとの出会いだった。
「か、数が少ないのにやることはたくさん。ま、魔法使いさんは大変です」
そんな数少ない魔法使いであるが、魔法使いに求められることは非常に多い。
特に多くの魔法使いを求めているのは騎士団だろう。
騎士団内には『魔法部隊』と呼ばれる特殊部隊があり、騎士だけでは対処できない超凶悪な魔獣の討伐に駆り出される。
例を挙げるとすれば、対ドラゴン戦だろうか?
フォルトゥナ王国周辺にドラゴンは生息していないが、我らがフォルトゥナ王国は過去に一度だけドラゴンと戦ったことがある。
死者の総数は非戦闘員を入れて、分かっているだけでも五千人以上。
死体すら残らなかった騎士は数知れず、対応した魔法使い達にも多大な被害を生んだフォルトゥナ王国史上最大の『災厄』と呼んでいい事件だ。
歴史書に必ず登場する事件であり、同時にフォルトゥナ王国が魔法以外の対処法を求めるきっかけ――後の今、魔導技術を取り入れることを決断させた歴史的事件でもあるだろう。
他にもドラゴンだけに限らず、騎士だけでは対処できない相手を圧倒的な火力で捻じ伏せるのが魔法使いの仕事。
とはいえ、魔法使いの数が少ないだけに万年人員募集状態。
更に言えば人間一人が魔法を行使するのも限界があり、魔法使いは『魔力切れ』というガス欠を起こす存在だ。
魔力切れになった魔法使いは三日以上動けなくなると聞いたことがあるし、戦力として使うには見極めが非常に大事なポイントとなる。
先にも語った通り、こういった状況を補うために魔導鎧やヒートブレードなど、騎士一人一人を強化する計画が生まれたのだが。
「他にも魔法を研究する方もいますよね?」
「ま、魔法研究者ですね。こちらはお歳をめして前職を引退した方が多いですが」
次に重要なのが魔法研究者。
こちらは名の如く、魔法を研究する人。
もっと言えば、新しい魔法を作り上げる人達。
他にも既存の魔法に対する対抗策を編み出すことも求められる。
彼らは元騎士団であったり、王宮魔法使いといった職場で経験を積んだ者が多く、引退後に研究者として王立研究所に身を置く者が多い。
前職の経験を活かし、現場の魔法使い達が求める『新しい魔法』を作り出すのが魔法研究者の仕事だ。
魔法研究者となった者はエリート中のエリートどころか、超スーパーエリートと言える人達だ。
家も爵位持ちであることが多いし、平民出身の魔法使いも既存の貴族家に歓迎される存在だし。
魔法使いとして生まれたら将来は安泰、と平民の間で言われるのも無理はない。
しかし、逆に言えば職務を全うした後まで仕事を求められるという、非常に忙しい人生を送っているとも言えるが……。
「け、経験を積んだ魔法使いは新しい魔法使いよりも貴重、と言われていますからね」
ユナさんは苦笑いを浮かべながらも「魔法使いは大変です」と改めて労わりの言葉を口にした。
「犯人が魔法使いだった場合、これらの栄光を全て捨てたことになりますね」
魔法使いは重宝される。国から大事に大事に扱われる。
これらの待遇を捨て、犯罪に走ったということになるのだ。
「自分からすれば考えられません」
全く以て理解できない。
捕まれば処刑確実なのに、どうして生まれ持った幸運を捨てようと考えるのだろうか?
受けた教育に因る考えなのだろうか?
「は、犯人がどういう意図を持って犯罪者になったのかは私も理解できませんが……。ただ、この世の誰かが魔法を使った犯罪を起こそうと考えるのも十分にあり得る話です」
魔法は最強で万能感に溢れている。
故にそれを犯罪に使おうと考える者が出てもおかしくない。
現に魔法を使用した犯罪が起きるのは、これが初めてというわけじゃないのだ。
「た、例えばですけど……。ニ、ニールさんが見た犯人が『姿を消す魔法』を開発していたらどうでしょう? す、好きなように姿を消せるんですよ? これって犯罪向きの魔法だな、と考えてしまうのもあり得るんじゃないでしょうか?」
「……確かに考えてしまいそうですね」
今回の犯人のように犯罪行為の逃走に使うとか。
あるいは姿を消したまま、誰かの家に忍び込んで弱みを握るという手法にも使える。
こちらの使い方は対情報戦にも使えそうだ。
……確かに、こう考えるだけでも使用用途は色々と浮かんでくるな。
「こういった魔法を打ち消す方法は無いんですか?」
「む、難しいですね。魔法を無力化する魔法がありませんから」
攻撃魔法として使用されるファイアーボールなど、そういった魔法を受け止める『シールド』と呼ばれる魔法は存在するが、行使された魔法そのものを無力化する魔法は存在しない。
行使された魔法を「無かったことにする」ことは極めて難しい行為であるとユナさんは語った。
「ま、魔法を解析できればカウンター魔法が開発されるかもしれません。魔法を受け止めるシールドも解析を経て開発されましたし」
無かったことにはできない。
だが、カウンターとして機能する魔法は開発できる可能性がある。
透明化する魔法に対し、透明化した魔法使いを『視る』ことができるカウンター魔法とかね。
「き、騎士団の魔法使いさん達や魔法研究者の皆さんも優秀な方が多いでしょう? た、たぶん、入って来た情報を元に仮説や対策を考えてはいると思いますが」
「そうですよね。今は住民に注意を促しつつも待つしかありませんか」
長々と話し合ったが、対魔法使いは魔法使いに任せるしかないという結論に。
「ん? 待って下さい。前に使ったサガース君はどうですか?」
前に盗まれた名剣を探し当てた『探し物サガース君』を使ったらどうだろう?
「は、犯人そのものを探知するのは難しいと思います。探し物の詳細を知らないと機能しませんから」
「ああ、そうか。顔を知らないと難しいのか」
探し物ならぬ探し人、その人が持つ最大の特徴である顔を知らないと探知は難しい。
他にも盗まれた商品から探れないか? と考えたが……。
「いや、待てよ?」
ジャンゴは犯人が人も攫っていると言っていたよな?
となると、攫われた人から辿れないだろうか?
人物をよく知る人に協力してもらえば可能かもしれない。
「……あとで提案してみるか」
あとでジャンゴに提案してみよう。
ただ、その前に買い物へ出ないと。
本日の夕飯に使う食材が足りない。
「長々と時間を頂いてしまってすいませんでした。自分は買い物へ行ってきますね」
「あっ! 買い物! わ、私も行きます!」
ユナさんはまた本を買いたいという。
前に買った本の新作でも出たのだろうか?
「なら、一緒に行きましょうか」
「は、はい!」
ユナさんに着替えを促し、俺達は一緒に買い物へ向かった。
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